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29通目 お店の座敷童に宛てて

お店の座敷童様へ


このスーパーマーケットがしばらく前に改装して、ピカピカになって、

お客もたくさん来るようになりました。

店長は自分の手柄のように言っておりますが、

私は、お店の座敷童である、あなたの力であると思っています。

座敷童という言い方がご不満に思われたらごめんなさい。

しかし、私にとってあなたは、

このスーパーマーケットの座敷童です。

あなたがいてくれるから、このお店が繫盛しているのだと思います。


このスーパーマーケットの改装前から、

店長は、朝礼できつい言葉をどんどん飛ばします。

少しでもダメなことがあれば、怒鳴り散らします。

バックヤードで物を蹴飛ばします。

イライラしながら店の品物を並べます。

そんな店長の周りで、媚を売っているパートの方がいます。

どうやら禁煙所でタバコを吸いながら、

みんなの悪口を言っているようです。

長いタバコ休憩で、ひどいことが言われていたらしいです。

タバコ休憩のない人などは、

最初から蚊帳の外で、

暴君の店長と、媚売りのパートの方を中心にお店は回ろうとしていました。


座敷童のあなたがお店に入ったのは、

このお店が改装になる直前でした。

改装すれば品ぞろえもよくなるし、

お客もたくさん来るに違いないと、

多分本部の方はもくろんだものと思います。

お店の立地は申し分ありません。

徒歩圏内にたくさんの住宅地があります。

自転車圏内、自家用車圏内には競合するスーパーマーケットがありますが、

徒歩圏内を抑えていれば売り上げがあるだろうと判断されたのでしょう。

店内改装の直前に、大きくスタッフ募集がかけられて、

座敷童のあなたや、まともなスタッフがお店に入ってきました。

お店は間もなく改装に入り、

働くための研修などを経て、

お店はリニューアルオープンしました。

お店は明るく輝いていて、

やってくるお客様も笑顔でした。

座敷童のあなたも、目立たないところでしっかり働いていました。

商品案内も的確でした。

品物を並べると時間はかかりましたがきれいになりました。

慣れない仕事を一生懸命にこなそうと頑張っていました。

元気に受け答えもしていましたし、

いつも笑顔でした。

その笑顔が、どれほどお店を照らしていたかわかりません。


暴君の店長は、あなたにもひどい言葉を投げました。

取り巻きのパートの方も、陰口を言っていたようでした。

あなたはそれでも泣き言ひとつ言わず、

黙々とお仕事をこなしていきました。

店長のやり方についていけずに、

改装時のスタッフは、一人、二人と辞めていきました。

まともな方から辞めていきました。

座敷童のあなたは、それでも笑顔で働き続けました。

その元気な笑顔は、みんなの力になりました。

お客もスタッフも、みんなつられて笑顔になりました。


座敷童のあなたは、細かいところで、お店を良くしていきました。

みんなが見落としているようなことを改善して行ったり、

流行に乗りそうなものはそっと目立つようにしたり、

お客様の手助けをしたり、

小さなところでお店を良くしていきました。

お店の問題点も、本部にそっと出していたようです。

店長の暴君ぶりやパートの陰湿さが行ったのかと思いましたが、

どうやらそうではなく、こんなことが行ったようでした。


改装時のペースがこのまま続くとは思えないから、

周りの競合したお店に負けないように、

接客も品ぞろえも高水準を維持していく必要がある。

店内が暗くてはいけない。

店内が暗いと賞品が悪いものに見える。

店員の顔が暗くてはいけない。

店員の顔が暗いと、いい物を買ったという意識が持てない。

品ぞろえはしっかりと詰まっていなくてはいけない。

棚がスカスカのスーパーマーケットは、買い物をしていて不安になる。

常に新鮮なものを並べるのは当然のこととして、

スタッフを大切にして、古いものをちゃんとチェックするだけの人員を確保した方がいい。

そんなことが本部に行ったようでした。


それらのことを、最近の朝礼で、店長が本部からの通達だと言っていました。

その朝礼で、店長は少しだけ何か考えた後、

どうか、みんなの力を貸してくれ、と、頭を下げました。

本部に指摘されたことは、

そうなってしまうのではないかと不安になっていたことだった。

俺だけではどうしていいかわからない。

どうか、この店のために力を貸してくれ、と。

俺が変わらなければいけないことは変えていくから、

この通りだと言って頭を下げました。

拍手が起きました。

座敷童のあなたからです。

それはやがて店員のみんなに伝わりました。


それから、店長は人が変わりました。

一人で何とかしようとして暴君になるのでなく、

お店をよくするための店長に生まれ変わりました。

陰口を言っていたパートの方も、

店長の方針が変わると、真面目に働くようになりました。

暴君だった店長は真面目な店長になり、

お店が改装してからしばらくしますが、

売り上げは好調のようです。

店長は、本部からの通達で目が覚めた、俺の目が覚めたからこの店の今があると、

そんなことを言っていましたが、

それは違うと私は知っています。

多分まともなみんなはわかっています。

この店の目立たないところで働いている座敷童のあなたが、

このお店を繁盛させていてくれています。

あなたがいる限り、このお店は繁盛することと思います。

見捨てないでくれて、ありがとうございました。

座敷童のあなたの、お店への愛は、

みんなに伝わって、みんなが心からの笑顔になれて、

みんながお店をよくしようと愛するようになりました。

これからもこの地域の一番のお店を目指して、

座敷童のあなたと共に働ければと思います。

これからもよろしくお願いします。


同僚のおばちゃんより

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