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28通目 お庭の管理人さんに宛てて

お庭の管理人さんへ


お名前がわからないので、お庭の管理人さんとしてお手紙を書きます。

お家のお庭をいつも管理してくれて、ありがとうございます。

僕では管理できないし、

お父様もお母様もお忙しいので、

お庭を管理してくれる人がいないと、

このお庭はすぐに荒れ放題になってしまうと思います。

管理してくれて、ありがとうございます。


僕のお家は、普通はお家と言わないそうです。

学校の友達は、お屋敷って言うんだと言っていました。

でも、みんな、おうちとか、いえとか、そう言うので、

僕も仲間になりたいと思って、

お家というようにしています。

みんなのお家は、家族の距離がとっても近くて、

いいなぁって思います。

でも、みんなは僕のお家の方が、大きくて広くていいんだそうです。

広いと、ぽつんとしてしまって、

一人だなぁって思って、さびしいです。

それを言ったらなんだかよくない気がしたので、

みんなには言っていません。

広いお家はなんだかさびしいです。


お庭の管理人さんは、僕が生まれる前から管理人さんだと聞いています。

僕は、お家の中で退屈をしていると、

お庭に出て、管理人さんとお話します。

お庭の管理人さんは、お庭の草や木や花のお話をしてくれます。

この花が咲くころはこの季節だとか、

池のほとりのこの花はこの季節に咲くとか、

ただの草と思っていたものも、管理人さんが手入れして植えたものでした。

このお庭は管理人さんが作り上げた、とっても素晴らしいお庭です。

季節ごとにいろいろな色を見せてくれます。

管理人さんが整えてくれますので、

なんだか、必要なものがあるべきところにあるような気がします。

えっと、余分なものがあるわけでなくて、

足りないものがあるわけでなくて、

このお庭はお庭として、ちゃんと出来上がっている気がします。


僕は、こんな風にお庭を作る仕事って素敵だなと思いました。

でも、僕はお父様の後継ぎをしなくちゃいけないんだそうです。

お父様はなんだか忙しくしていますけれど、

なんだか偉い人らしいです。

僕は偉いお父様の後継ぎとして、

成績優秀になって、もっといい学校に行かなくてはいけないのだそうです。

僕は少し考えました。

僕はお庭を作る管理人さんにはなれないのかもしれません。

お父様の後継ぎとして、偉くならなくてはいけないのかもしれません。

多分ですけれど、偉くなりましたら、

お庭を作る管理人さんの、暮らしをよくできるのかもしれないと思いました。

ええと、僕の学校の友達のお家では、

お父様やお母様が、働いていても暮らしが苦しいと聞きました。

坊ちゃんにはわからないだろうけどねとも言われました。

あ、坊ちゃんとは僕のことらしいです。

学校のお友達のお家がそうなのですから、

もっといろんな人がいると思います。

学校の外にも、いろんな人が働いています。

病院だってありますし、消防署もありますし、警察の人もいますし、

あんまり行かせてもらえませんけれど、商店街があるとも聞きます。

学校には先生がいます。

たくさんの働く人がいます。

そして、僕のお家でも、お庭の管理人さんをはじめとして、

何人か働いている人がいます。

お父様にいつもついている人も、働いている人です。

秘書とかいうのかな。多分そんな人も働いている人です。

働く人がたくさんいます。

僕は、お父様の後を継いで偉くなりましたら、

働く人たちが苦しくないようにしたいと思います。

そのために僕は勉強をがんばらないといけないと思います。


お父様もお母様も、あまりお家に帰ってきません。

管理人さんがお手入れしてくれるお庭は、

いつも僕の心をなぐさめてくれます。

季節はいつも僕と一緒にあるのだと、

お庭の管理人さんもいつもそばにいるのだと、

お庭の管理人さんが心を込めてくれているのだなと思います。

僕はお庭の管理人さんにはなれませんが、

お庭の管理人さんを幸せにするように、

将来はお父様の後を継いで偉くなります。

お庭の管理人さんは、僕をいつも見守っていてくれて、

さびしい時はお話をしてくれました。

学校の友達だって、いつも僕と遊んでくれました。

お父様もお母様もお忙しいのですが、

僕はいろいろな人たちに囲まれていて、

僕が偉くなれば、そのかけがえのない人たちを幸せにできるかもしれないと思います。


お庭の管理人さん、いつもお庭を整えていただき、ありがとうございます。

僕は、このお庭に触れて育って、本当に幸せです。

お父様も、お母様も、きっと感謝をしていると思います。

お庭の管理人さんの、お庭への深い思い。

それはお仕事というよりも、お庭に対する愛であるような気がします。

僕はその愛の庭に育って、

やがて、みんながみんなの愛の庭を持てるくらい、

幸せな暮らしができるように、僕は偉くなります。

これからも、お家のお庭を、しっかり管理してください。

僕は管理人さんがしっかり整えてくれる、このお庭が大好きです。

末永くお元気で、お仕事をがんばってください。

僕も勉強をがんばります。


お庭が大好きな僕より

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