目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
25通目 王様に宛てて

王様へ


先程、王位を譲られる儀式が執り行われて、

王様はこの国の王ではなくなりました。

それでも、このお手紙では王様と呼ばせていただきます。

王様、長年のおつとめ、まことにお疲れさまでした。

よくがんばられました。

そばにいました、お世話係の私からすれば、

王様は本当によくがんばられました。

お身体にかなり無理をかけたと思われますし、

心労もひどいものであったと思います。

これからは、王の務めは次の王の息子様に任せて、

王様はのんびり過ごされてください。

それだけのことはしてきました。

やれることは全部やりつくしました。

今はのんびりがわからないかもしれませんが、

徐々に慣れていきましょう。


王様は、幼い頃に王位につきました。

権力のドロドロがあったものと私は記憶しています。

幼い私は、王様のお世話係として、

一生を王様に尽くすように言われました。

幼い王様は無邪気そのものでした。

この王様の笑顔を曇らせたくないと思い、

私は幼いながらも、王様をお世話して守ると決めたのでした。

信頼できるのは誰か、

利用できるのは誰か、

私は大人の権力闘争を見ながら、

王様が笑顔でいられるようにと、そればかりを考えていました。

まともな学問を学んで、

政治のこと、経済のこと、産業のことを把握して、

民の声の聞き方も学んでもらって、

しっかりと、王様でいることだけに専念できるようにと願っていました。

幼い王様は、勉強熱心でした。

学者などが、かみ砕いて説明するものを、

かみ砕かないままに、ちゃんと理解をするほどでした。

芸術にも理解を示し、芸術の産業も支援しました。

新しい産業を作ることにも意欲を示しました。

民の暮らしのことを聞いていて、

なんとか誰でも苦しくなく暮らせるように。

幼い王様なりに、小さな頭で考えておいででした。

権力闘争をしているものは、そのあたりのことが理解できなかったと見え、

幼い王様の言うことを、最初から否定しました。

幼い王様は悔しかったようでした。

おそばにいる私も悔しい思いをしました。


王様は、その悔しさをばねに、

さらに王様として成長しようとします。

月日が流れてきますと、

私が隠してきた大人の権力闘争もしっかり理解されました。

あれを立てればこれが立たないという、矛盾も理解されました。

理想だけでは上手くいかない思いも理解されました。

王様は清濁併せもって、

国をより良い方向に向かわせるべく、がんばられました。

結婚は政略的なものではありましたが、

奥方をとても大切になさいました。

生まれた子どもたちも、たいそう大切になされて、

王様によく似て、皆様賢く育たれました。

王様が幼い頃から渦巻いていた権力闘争は、

いつの間にか、王様を中心とした、まっとうな権力へと落ち着きました。

王様が中心であれば、国はしっかりと動くはず。

皆がそう認めた証であり、

その王様の息子様であれば、

やはりちゃんといい方向に国が向かうはず。

その信頼の証として、王位はしっかりと譲られました。


長い御在位の期間中、

民の暮らしぶりはどんどん良くなりました。

王様が幼い頃に否定されたことも、

王様が成長しながら案をもっとしっかりさせて、

もっと素晴らしい政策として国に広めて、

結果、この国はとても豊かになりました。

王様は、成長はされましたが、

王様の根元は、幼い頃の無邪気な王様です。

キラキラと笑い、皆の幸せを願う心、

幼い王様から、そこは変わっていません。

いろいろなことがありました。

王様もおつらい思いをされたと思います。

幸せなこともおありだったかと思います。

よく、がんばられました。

私もお世話係としまして、同じくらい年を取りました。

年は取りましたが、王様の笑顔を守りたいと願うのは、

今も昔も変わりません。

私には息子がおりますので、

息子を、新しい王様のお世話係につけさせようかと思いますがいかがでしょうか。

きっと、真心尽くしてお世話をしてくれるものと思います。


この国の歴史には、

きっと、王様のことは、歴史上稀に見る賢王と書かれると思います。

少なくとも私はそう思っております。

この国を豊かにした、賢き王と記されるでしょう。

これからも歴史は移り変わるかもしれませんが、

王様の偉業は残り続けるでしょう。

それでも、歴史に残らないこととして、

王様は国のすべての皆の幸せを願っていたというのがあります。

たくさんの民も、貴族たちも、妻のことも、子どもたちも、王宮に働く者も、

関わるものすべての幸せを願われていました。

それが愛でなくて何でしょうか。

王様は、すべてのものに愛を注がれていたのです。

注がれた愛は、豊かな国となって実りました。

王様の愛が、皆を幸せにしたのです。

王位を退いた後は、

王様の幸せを探しましょう。

そうですね、幸せそうな皆の様子を見て回るのもいいでしょう。

豊かになったこの国を旅するのもいいでしょう。

王様の奨励した芸術を見るのもいいでしょう。

すべて、王様が愛を注いでできた豊かさです。

この国は、間違いなく幸せに満ちた国になりました。

すべては王様の努力あってのことです。

その様子をおそばで見られて、お世話をすることができて、

私はとても幸せでした。

私は、王様を死ぬまでお世話すると誓います。

私の一生をかけた王様への真心と理解してください。

これからも、私に何なりとお申し付けください。

王様の幸せのため、私がなんでもいたしましょう。

それが私の幸せです。


王様の生涯のお世話係より


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?