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22通目 夜更かししている我が子に宛てて

夜更かしさんへ


今夜も夜更かししていると思って、

夜食を作っておきました。

おにぎりです。具材はシャケフレークと梅おかかです。

夜中にはもう冷めていると思いますので、

あたたかいものをお腹に入れたかったら、

レンジでちょっとあたためてから食べてください。

ポットにお湯が入っています。

生のみそ汁のもとがありますので、

お湯で溶いて飲んでください。

台所の音は、あまり気にしないので、

好きな時に食べてください。

どれほど夜が更けようとも構いません。


引きこもりのあなたが、一念発起して、

資格の勉強を始めてからしばらく経ちます。

あなたは、新社会人になって間もなく、

ひどい会社に当たって心を壊し、

逃げるように会社を辞めて引きこもりになりました。

昼夜も逆転して、私が寝る頃、あなたは起き出して、

部屋で何やらしている物音がかすかに聞こえます。

私がよくわかっていない、ネットというものをしているのか、

音が聞こえたりもします。

そこが居場所であるのならば、

私は邪魔してはいけないなと思って、

あなたの夜更かしを黙って見守ってきました。


あなたが引きこもりになってしばらくして、

朝の台所にカップ麺の残骸が転がるようになりました。

夜中に食べていることは一目瞭然です。

一般的に、カップ麺は身体に悪いと聞きます。

しかし、私が考えたのは、

あなたは何かを食べて生きたいと思っている。

とにかく何かでお腹を満たしたいと思っている。

ひどい会社で心を壊してしまったあなたでしたが、

何かを食べて、とにかく生きたいと思っている。

あなたが何かを食べたいのであれば、そして生きたいのであれば、

その手助けをしようと私は思いました。

それから、台所に夜食を作っておくようになりました。

レンジを使えば簡単にあたためられる程度のもので、

お腹がほどよく満たされるものを選んでいたら、

そのうちおにぎりに落ち着きました。

今日のお夜食ですと書いたメモを置き、

夜食にラップをかけてから寝ますと、

朝には夜食が完食されていました。

カップ麺はいつの間にかなくなりました。

引きこもりのあなたとつながりが持てたようで、

私は嬉しく思いました。


夜食におにぎりを作ってしばらくして、

朝に完食されたお皿を見ますと、メモが置いてありました。

 いつもありがとう。ちょっとがんばってみます。

そんな、あなたからのメッセージが走り書きで記されていました。

朝になったらあなたは寝ています。

何をがんばるのか聞きたいので、

その日の夜食にメモを挟みました。

 何をがんばるのか、よければ聞かせて。

そう書きました。

翌朝のメモには、

 資格取ってみる。今度はちゃんとしたところで働きたい。

そんな、あなたの決意が記されていました。

朝の光の中、私は少し泣きました。


あなたの夜更かしは、どうやら資格の勉強に変わったようでした。

夜の間ひたすら勉強をして、

いつもの夜食のおにぎりを食べて、

朝になったら寝ている。

そんな生活をしてまたしばらくして、

あなたが久しぶりに朝に起きてきました。

引きこもっていたとは思えないほど身支度ができいます。

聞けば、今から資格試験に行くと言います。

取れる資格は取っておいて、

それを強みにしたいと言います。

母さんのおかげで勉強する時間はあった。

いつもおにぎりをありがとう。

そうあなたは言って、資格試験に出かけていきました。


一つ目の資格試験は見事合格しましたね。

あなたはそれに満足せず、

あなたが目指す就職先の目標を定めて、

さらに必要とされる資格を取らんとして、

また、夜更かしして勉強を続けています。

資格は簡単なものから少し難しいものまで取ったと聞きました。

今勉強しているのは、かなり難しいと聞きました。

これが取れればきっと就活の強みになれる。

私にそう語ったあなたは、輝いて見えました。


母親として、あなたには、ちゃんと眠ってほしいという親心もあります。

でも、あなたが夜食を食べてがんばっているのを、

応援したい親心もあります。

あなたは何かを食べて生きたいと願った。

その手助けが最初でした。

今、あなたは未来へと向かって、進んでいっています。

つらい思いもしましたが、

確実に、輝く未来に向けて歩いていっています。

どうか、働いていて、苦でない就職先を見つけて、

そして、毎日ちゃんと眠れるようになってください。

今ががんばり時とあなたは言うのかもしれませんが、

生きるというのは、長いものです。

どうか、心と身体を壊さない生き方をしてください。

それが、母の願いです。

今度の資格は取れそうでしょうか。

再度の就活に必要なものはそろっているでしょうか。

母はあなたの頑張りを支え続けますし、

あなたがどこかへ就職することができたら喜びます。

そして、もし、つらくなったら、

家に帰ってきてもいいのです。

また、おにぎりを作りますよ。

私は永遠にあなたの味方です。

いつまでも、あなたを応援し続けます。

がんばれ。


今夜も夜食を作っておく母より

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