くそ親父へ
お前の出来の悪い息子からの手紙だ。
別に読まなくてもいいぜ。
ぶっ倒れて病院に担ぎ込まれたくそ親父に、
恨みつらみしか書いてねぇから、読んだらぜってーに滅入るだろうから、
まぁ、読まなくてもいいぜ。
母ちゃんはあの通りお人よしだから、
すっげぇ親父のこと心配してる。
俺はこの通りだからな、別に心配しちゃいねぇよ。
親父は死んでも死なねぇって思ってる。
今頃病院で迷惑患者になってんじゃねぇかって思ってる。
看護師さんにセクハラしてんじゃねぇかとか、
家にいるときのように大声でわめいてんじゃねぇかとか、
そっちの方が心配だ。
親父、病院は家じゃねぇんだから、
迷惑かけんじゃねぇぞ。
俺や母ちゃんがいつでもいる訳じゃねぇんだから。
くそ親父はいつでもくそ親父だったな。
俺が何かすると怒鳴るし殴るしで、
母ちゃんには家事を押し付けっぱなしで、
くそ親父は仕事してきてるんだからと、
家ではわがままし放題だったな。
俺は親父を見て、こんなにくそな人間がいるものかと思った。
俺はこんな風にはならねぇって決めた。
とにかく酒を飲んでは大声でわめくし、
食べ物の好き嫌いは多いし、
何かと母ちゃんに頼りきりなのに母ちゃんを大事にしないしで、
俺はくそ親父のことが大嫌いだ。
この世で一番のくそだと思ってる。
俺が学生だった頃、
とにかくくそ親父と衝突しまくった。
取っ組み合いのけんかをすることもあった。
その度に母ちゃんは泣いてた。
くそ親父は大人だからすっげえ強かった。
俺は負けるもんかとぶん殴った。
親父も殴り返した。
ボコボコに殴り合っては、病院に担ぎ込まれて、
母ちゃんを仲介してひとまずその場を収めてった。
けどな、親父はだんだん弱くなってったのを俺は知ってる。
俺が大人になったんじゃねぇ。
親父が弱くなってってんだ。
だんだん酒の量も減ってきてるし、
食べる量も母ちゃんに言って減らしてもらってるだろ。
弱くなってんじゃねぇよ。
俺はまだ、くそ親父を越えてねぇんだよ。
俺が実家に将来の嫁さん連れてった時、
母ちゃんが喜んだのは想定内だったけど、
なんでくそ親父が泣いてんだと思った。
くそ親父はくそ親父らしく、
くそな話題でも振っとけばいいんだ。
なんでカチコチに緊張して泣いてんだよ。
あのな、俺の嫁なんだぞ。
くそ親父はくそなままでいいんだよ。
息子を頼みますとか、言わなくていいんだよ。
結婚式では親父は終始泣きっぱなしだったし、
数年前に孫ができたらくそ親父は孫馬鹿になったし、
なんだよ、じぃじでちゅよーとか。
バカじゃねーの。
俺をぶん殴ってきたくそ親父が、
孫にメロメロになって、毎日バカさ加減を更新してやがる。
次は孫ちゃんにいつ会えるかとか俺に聞くな。
くそ親父はそんなキャラじゃなかっただろ。
孫ができた途端キャラ変してバカじぃじになるな。
マジでくそ親父がぶっ壊れてやがる。
そしてつい最近、
くそ親父はぶっ倒れた。ざまみろ。
今までのつけが回ってきたんだろうな。
例えば、出来の悪い息子を持ったストレスとか、
子育て中に仕事で頭下げまくったストレスとか、
ストレスで酒飲みまくった身体へのつけとか、
母ちゃんに美味い飯を作ってもらって食いまくってきたつけだとか、
いつまでも若いわけじゃねぇんだぞ。
孫ができたらじじいだろ。
若い時のつけが巡ってきたってわけだな。
いい気味だ。
俺の息子がな、ようやく字が書けるようになってな、
じぃじにお見舞いの手紙書くってな。
へったくそな文字で書いてんだよ。
パパも書けって言ってるから、
俺も隣でこの手紙書いてる。
息子がまだまともに字が読めねぇのをいいことに、
こっちでは恨みつらみ書いてる。
出来の悪いオレに似なくて、
息子は真っすぐに育ってる。
くそ親父にも似てなくて、
ほんと、俺にも親父にも似なくてよかったよ。
多分これから親に反抗することもあるんだろうけど、
俺はくそ親父ほど本気で受け止められるかわかんねぇ。
俺みたいなガキに、よく本気になったよなぁ。
あの頃の親父は本当に強かった。
ぶん殴る親父になろうとは思わねぇけど、
強い親父という点じゃ、まだ越えられねぇと思ってる。
だから、
まだ迷惑かけてくれ。
勝ち逃げだけはするんじゃねぇ。
せいぜい長生きして、
もっと孫馬鹿炸裂させろ。
ひ孫まで見ていけ。
母ちゃんをもっとねぎらってやれ。
くそ親父は殺しても死なねぇ。
一度ぶっ倒れた程度じゃ死なねぇって思ってる。
いいか、くたばるんじゃねぇぞ。
めちゃくちゃ長生きしろ。
ばーか。
出来の悪いバカ息子より