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14通目 コンビニの店員さんに宛てて

コンビニのいつもの店員さんへ


いつもお世話になっております。

朝ごはんを買いに平日コンビニに寄っている、いつものお客です。

いつもおにぎり3個を買っていきます。

うち1個は朝ごはん用としてあたため、

残り2個は会社での昼ごはん用に常温です。

店員さんは、今日はどれをあたためられますかと尋ねるようになられました。

袋をいつも付けてくださいと言うものですから、

店員さんは私が言う前に袋を準備なさるようになってしまいました。

会計を終えますと、店員さんは、

いってらっしゃいませと言うようになりました。

その言葉が、どれほど私を元気づけ、励ましてくれるか、

その思いの丈を、手紙に記して、感謝を述べたいと思います。


コンビニの店員さんとしましては、

コンビニで働くことはお仕事に過ぎないのかもしれませんが、

私はコンビニの店員さんの存在に救われていますので、

お礼の意味も込めて、手紙をしたためさせていただきます。

コンビニはあちこちに同じようなお店がありますが、

あなたのような店員さんがいますのは、このコンビニのこのお店だけです。

コンビニとしましては、アルバイトも社員も、

働く人には、ちゃんと教育がなっているものと思います。

会社としては当然のことです。

しかし、朝のいつもの店員さんには、

教育にプラスして、思いやりがあります。

私のことを覚えてくれて、一言声をかけてくださる。

それもコンビニのサービスの一環なのかもしれませんが、

私は、私のことを覚えてくれている、

その事実に救われています。


私は会社ではお荷物の存在です。

年ばかり食った平社員です。

会社も首を切るに切れない、お荷物です。

何やら、解雇にはいろいろと面倒なことがあるらしく、

私は会社の中で空気のように存在しております。

仕事はしますが、正直誰がやっても同じ仕事です。

この年でこの程度の能力では昇進も見込めず、

私だけの仕事などなく、ただいるだけの存在です。

妻は、数年前に亡くなりました。

苦労をかけるだけかけて、先立たせてしまい、申し訳ないと思っています。

妻が亡くなって以来、

家はとにかく帰るだけの場所であり、

誰かが待つ場所ではなくなってしまいました。


どこにも、私を待ってくれている人がいない。

誰も、私を覚えていない。

会社と家の往復を繰り返しながら、

私は、存在が日に日に薄くなっていくように思いました。

ぞろぞろ歩くその他大勢の人混みがいるとしましょう。

大勢の人々のそれぞれに、

家族がいて、待つ人がいて、覚えていてくれる誰かがいて、

その人にしかできない何かがあるのです。

たくさんの人それぞれに、そういったものがあるのだと思います。

ただ、私にはないと感じていました。

空気のように私は希薄になっていきます。

私は自分が、誰にも覚えていてもらえない、おばけのようなものとすら思っていました。

ある時、店員さんに声をかけられるまでは。


最初にそのことに気が付いたのは、

今日はおにぎり、どれをあたためられますか、でした。

多分、他のお客様ですと、

複数のおにぎりあたための場合は、

すべてあたためるか、あたためないかだと思われます。

店員さんは、私のおにぎりは、

あたためるものと、あたためないものがあると覚えていてくれました。

何の気なしに、これだけあたためてほしいと言って繰り返していたことを、

店員さんは覚えていてくれました。

最初はサービスの一環か、はたまた偶然かと思いました。

それでも店員さんは私のことを覚え続けていてくれて、

袋は準備してくれて、お手拭きも付けてくれて、

最近は、新作のおにぎりをレジに持って行きますと、

それ、新作なんです、と、嬉しそうに言われるようになりました。

ああ、店員さんは私を覚えていてくださる。

私はこのコンビニにいるときは間違いなく、

空気のようなものでなく、

ちゃんと生きた人として存在しているのだと思うようになりました。

誰かが覚えていてくれれば、

少なくとも私というものが、いることの証明になります。

私は生きている。

生きておにぎりを楽しんでいる。

コンビニのおにぎりは、商品開発の担当の方ががんばられているのですね。

とても美味しくなりました。

店員さんと言い、おにぎりの美味しさと言い、

店内の清潔さと言い、皆様の元気な挨拶と言い、品ぞろえと言い、

このコンビニが、私を人にしてくれました。

もう一度、しっかりと生きる、人に生まれなおさせてくれました。

朝のいつもの店員さん、あなたが私に命をくれました。

私はだいぶ年を取りましたが、

このコンビニでつないだ命です。

もう少し頑張ってみようと思います。

店員さんも、このコンビニで働かれる皆様も、

どうかお身体にはお気をつけて、

元気で頑張られてください。

また、平日の朝にお伺いいたします。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

深い感謝とともに、手紙を締めさせていただきます。


平日朝のお客より

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