妹へ
うーん。一応義理の妹と書くべきなのかと悩んだんだけど、
俺にとってはなんだかんだで妹だから、
書き出しは妹へ、で。
妹へ。最近なんだか食が細いけれど、
どうしたのか、兄ちゃんは心配なんだ。
俺と、妹のお前は、両親が再婚した際の、
互いの連れ子と言えば連れ子で、
親父のところにいた俺と、
新しい母親に連れられてきたのが、妹であるお前だった。
お互い新しい家族を作り直すってことで、
いろいろ親の事情はあったらしいけれど、
俺は俺で、とにかく年の離れたこの新しい妹を何とか守らなくちゃと思ったわけだ。
お兄ちゃんとして目覚めたわけだよ。
親は共働きで、お前への飯は俺が作った。
当時俺は町中華でバイトしていて、
料理の基本はできていたと自負していた。
料理の専門学校にも行ってた。
まぁ、町中華の大将には、なってないと、いろいろ言われてたけどさ。
それでも、お前に飯を作ってあげると、
お前は美味い美味いって、平らげてくれるのがすごく嬉しかったんだ。
とにかく町中華のその店はメニューがとにかく多いから、
俺のレパートリーも必然的に増えていった。
大将に認めてもらえるかなと思って、
とにかく作ってみたものなんかを、
お前や親に食べてもらって、
美味しいをもらったりすると、よっしゃと思ったものだった。
お前は俺の飯を食べて、
すくすく成長していった。
そんじょそこらの流行りの体形より、
しっかりした体形に育った。
ちょっとやそっと、ぶつかっても倒れないほどだ。
強く育ったなと俺は思う。
その体形が、俺の飯でできているのであれば、
感慨もひとしおだ。
お前は格闘技系の運動部に入って、
強さにどんどん磨きをかけていった。
かっこいい妹は、俺の自慢だ。
お前が高校の半ばを過ぎた頃、
俺は、町中華のアルバイトを辞めて、
本格的に料理を学びだした。
町中華でない、本格的なレストランで修業を始めた。
家に帰ってきては皆に料理をふるまって、
家族に、特に妹のお前に褒めてもらえるのが一番の楽しみだった。
格闘技系の部活は、とても腹が空くと見えて、
俺の作った飯がどんどん消えていくのが心地よかった。
妹の強さの源になれているようで、
それも俺の誇りだった。
さて、最初の話題に戻そう。
お前が高校の終わりに差し掛かった頃、
お前は食が細くなってきた。
最初は俺の気のせいかと思っていたんだが、
明らかに食べる量が減っている。
何かあったんじゃないかと心配しているところだ。
今まで兄ちゃんの作った飯を残さないお前だった。
何でも美味い美味いと食べてくれたお前だった。
それが、料理を残すなんて、
いや、俺の料理の腕が鈍ったのかもしれない。
修行中で味にブレが出ているのかもしれないとも思うんだが、
町中華のアルバイトの時代の頃から、
何を作ってもお前は平らげてくれたことを思えば、
これはおかしいと俺は思っている。
先日、料理を残したお前に、
もう食べないのかと尋ねたところ、
胸いっぱいで食べられないという返事が来た。
病院に行った方がいいのかもしれないと俺は悩んだ。
とりあえず親に相談をしたところ、
年頃だから見守ってやってほしいと言われた。
年頃と言われても俺はよくわからないので、
とにかく悶々と心配をしている。
お前は高校の卒業を控えていて、
進路も決まっている。
格闘技系の部活を続けるかは尋ねていないが、
大学進学を気に一人暮らしをするようであれば、
料理の基本を教えるくらいはできる。
兄ちゃんを頼ってもいいんだ。
料理くらいしかできない兄ちゃんだが、
年の離れたお前のことを、いつも気にかけている。
ついさっき、お前から、
近いうちにお兄ちゃんに会わせたい人がいると言われた。
何がどうなって俺に会わせたいのか全くわからんが、
おそらくお前が尊敬している誰かなのだろうと俺は判断している。
俺はこの通り料理馬鹿なので、
妹のお前には料理を作るしかできなかった。
妹のお前がどんな思いをしているのかの心をとらえることができなかった。
親の方は、年頃だからと言っていたが、
俺は年頃と言われてもさっぱりわからん。
料理を食べなくなったことと、誰かに会わせたいことと、
年頃であることに関連性が見いだせない。
まぁ、とにかくお前が会わせたい誰かに俺も会いたい。
大事な妹が会わせたい誰かだ。
きっとすごい人物なのだろうと思う。
日取りはそちらで決めてくれて構わない。
その日に俺が手料理をふるまおう。
もし、その日もあまり食べられないようならば、
前もって言ってくれ。
お前の食欲が減っているのは心配だが、
食べられないところに大量の料理が並ぶのは苦痛だろうからな。
その分最高の料理を作ろう。
なんだか、お前が遠くに行きそうな予感がするんだが、
これは俺の気のせいだろうか。
料理馬鹿の兄ちゃんより