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11通目 人造生命体から盲目の被験者に宛てて

あんたへ


とりあえずあんたの目には視力がない。

だから、この手紙は俺が読ませてもらうぜ。

俺が書いた、あんたへの手紙だ。

改めて読むと変な感じだけど、

とにかく、あんたに色々伝えた上での提案があるんだ。

手紙を読み終えるまで、黙って聞いていてほしい。


さて、俺は人造生命体だ。

なんにでもなれる完全な生命体を作ろうとした、

まぁ、試験的に作られたもののひとつだ。

かなり成功に近づいているらしく、

俺は処分されることなくここにいる。

失敗作は、生命であろうとなかろうと、とりあえず廃棄処分だ。

あんたがそれを見なかったのは、今思えば正解だったと思う。

見て愉快なものじゃないってわけさ。

さて、俺はなんにでもなれる人造生命体だから、

動物のようなものにもなれるし、フワフワしたものにもなれるし、

液体にもなれるし、個体にもなれるし、

データがあればどんな生命体にもなることができる。

人間に化けて成り代わりも可能ってわけだ。

ただ、俺が何になっても、

見抜いてしまう奴がいる。

それがあんただ。

あんたの視覚はこの研究施設に来る前からない。

すべての視覚情報がないままで生きてきて、

それを不自由と思わないほど感覚が研ぎ澄まされている。

その感覚が、俺が何者に化けても見抜いてしまう。

何も見えないかもしれないけれど、

あんただけが俺の本質を感じることができる。

研究施設の研究者たちは、

あんたと俺が組めば、何かにつかえると踏んだらしい。

何物にもなれる俺と、俺を見抜くあんた。

使いようによっては兵器にも使えるな。

そんなわけで、俺とあんたは同じ部屋になってしばらく経った。

目の見えないあんたに、

いろいろな感覚を感じさせるべく、

俺はいろいろなものに姿を変えて、

あんたに触れさせた。

あんたは持ち前の感覚でそのすべてを判別して覚えていった。

今では吹く風の揺らぎで形がわかるほどになった。

相手が人であれば顔の判別もできるみたいだ。

さすがだなと思う。


俺は、一応完全な生命体を目指したものだから、

何をしても死ぬことはない。

一応、死は超越している。

ただ、わからないことは山ほどある。

どうして俺たちはここで生きていて、

俺たちは何を目指しているのか。

外には何があるのか。

研究者たちが提示してきたデータの他には、

外にどんなものがあるのだろうか。

俺たちが外に出たとき、

研究施設で研ぎ澄まされたあんたの感覚は、

一体何を感じるのだろうか。

その時あんたはどんなことを思うのだろうか。

そんなことが知りたいと思ったんだ。

俺と、あんたの目指す場所。

この研究施設で実験や訓練で終わるものとは思えないんだ。


そこで、ここからが本題だ。

あんたの目に、俺を受け入れてほしい。

俺があんたの視界になりたい。

俺とあんたは、意識は別でありながら、

ひとつの身体を生きることになる。

あんたの脳にアクセスできるから、

会話の方は自由にできる。

一応死を超越しているから、あんたの身体に痛みすら走ることもない。

傷がつくことも無ければ、骨が折れることもない。

戦闘技能については、完全生命体になるべく入れられたデータで、

どんな姿であっても最適な戦いをすることができる。

破壊力や俊敏さにおいても人間のそれとは比較できないほどだ。

そこに、あんたの感覚が加わる。

あんたの感覚は、風の揺らぎからすべてを読むことができる。

俺とあんたの能力が融合すれば、

何ひとつ敵はないと思う。

つまり、だ。

ひとつの身体になって、研究施設をぶっ壊して外に出ようぜってことだ。

あんたはきっと、生まれて初めて光を見ると思う。

俺も研究施設住まいだったからな。

データとして外は知っているけれど、

本物を見たことはない。

なぁ。俺と一緒になってくれないかな。

俺の完全生命体としての能力で、どこまでもあんたを守ってやるよ。

そして、ずっと一緒に生きてくれないかな。

そうだなぁ。データとして知っている、

争いごとってのを全部片づけられたらいいな。

外には戦争ってのがあって、

弱い人間が武器を持って殺し合うんだとか聞いた。

そうでなくても、憎しみやなんかで争いが絶えないって聞いた。

俺たちは、そのすべてを片付けていこう。

俺たちは死ぬことはないんだから、どんどん片付けよう。

そして、そうだな、

笑顔を増やしていこう。

俺があんたの視界になるんだから、

その視界には心地いいものを映したいわけだよ。

俺のデータはまだ少ないけれど、

笑顔ってものは心地いいと感じたし、

あと、花がいっぱいあるといいなって思う。

画像でしか見たことないから、あんたに触れさせるほどの再現性は出来なかったけど、

花はすごくきれいだったんだ。

俺が視界になったら、いっぱい花を映してあげるから、

あんたは好きなだけ花に触れて、その美しさを感じてほしいな。

世界に花と笑顔を増やすため、

まずは一緒になって研究施設をぶっ壊そうぜ。

あんたが受け入れてくれたら、さっそく始めよう。

手紙は燃やしておく。

答えはなんとなくわかっているけれど、

一応問いかけよう。

さて、どうする。


あんたの永遠の相棒予定の生命体より

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