あんたへ

この手紙の内容をどう信じるかは、あんたにゆだねる。

これは、俺の良心でなく、

この組織のうまみにならないから、あんたを切るって意味で、

俺はあんたにこの手紙を記している。

それでもこの組織に残り続けるってんだったらそれもいいけど、

あんたの家の生活はギリギリだと思う。

これ以上この組織にいつづけても、

あんたは救われないし、組織にメリットもない。

だから俺はあえてあんたに手紙を書く。

さて、この組織は、いわゆる詐欺グループだ。

特殊詐欺なんて言って、電話かけて現金振り込ませたりするのじゃなくて、

いわゆる、効果のないものをさも効果があるように言って、

信じさせて高額で買わせるって詐欺グループだ。

あんたは、この組織に入れば、

友達ができて、お金がたくさん入るとか言われたんだろう。

勧誘すれば自動的にマージンが入るとか何とか。

そして、高額商品の在庫を山ほど抱えたと思う。

売れば金になると言われたと思うが、

あんたにはそれほどの営業力も無ければ、

人脈がものすごくあるわけじゃないと俺は思う。

友達が欲しくてこの組織に勧誘されてきたあんただ。

限りなく孤独であることは組織の連中もよくわかってる。

だから、あんたにがんばれとか言い続けた。

組織の上の方の、成功体験を語り続けた。

あんたもいずれこんな風に成功すると、

みんなであんたを利用するために囲った。

あんたはどこまでもお人よしだ。

家計の足しになるならとか考えたんだろう。

結局利用されるだけされた。

みんなあんたを金づるとしか見てなかったんだ。

この組織がこんな風だということを、あんたに書いたうえで、

あんたに組織を抜けることを提案したい。

まぁ、あんたは金づるとして使われ続けて、

もう生活はギリギリで、これ以上組織にとってうまみはない。

今まで笑顔だった組織の連中が、

最近冷たくなってきたのを感じていると思う。

その程度の組織ってことだ。

あんたはそこに縋り続けなくていい。

そろそろ、組織の上の方から、

やばい金融機関から金を借りて組織に居続けろと言う、

お達しがあるかもしれない。

その金融機関というか、闇金ってやつだな。

それも詐欺組織の息がかかっている。

一生返せない借金を背負うことになる。

俺の感覚だと、そこまで組織に尽くす必要があるかってことだ。

俺ならごめんだ。

尽くしても尽くしても、何も残らず負債が増え続ける。

俺はそんな関係まっぴらごめんだ。

だからあんたに組織を抜けてほしい。

まだ、引き返せる。

結構失ったものは多いかもしれないけどな。

俺はあんたの友達にはなれない。

この手紙を信じなくてもいい。

まぁ、誰があんたにこの手紙を書いて置いたのか、

わかんないんだろうけどな。

俺はとにかく組織に居るもんだ。

一応上の方に食い込んでいる。

組織のやり口も把握しているもんだ。

こんな手紙を何通かこの組織の下の方の奴らに出している。

みんな、あんたのように搾取され続けてきた連中だ。

信じる信じないは、奴らに任せるさ。

あんたにだけ、最後に書き足しとく。

俺はこの組織に潜入捜査してたんだ。

効果のないものを効果があるように言って売る手口と、

人を人と思わない危険な宗教が合わさりかけてて、

ちょっとやばいってなって、

俺みたいなのを当局がスパイとして入れてたんだ。

あんたは友達が欲しかったんだろ。

家計の足しに何かしたかったんだろ。

人生一発逆転なんて狙うなよ。

真面目にコツコツが一番さ。

あんたの素性は当局が調べてる。

まぁ、組織の全員わかってんだけどな。

あんたはまだ若い。今から資格取って就職も狙える。

キャリアも積んで行ける。

アルバイトから始めたっていい。

金を稼ぐことが組織に居たときよりも楽だってことがわかるだろうさ。

バイト仲間もできるだろうさ。

働くの疲れたって愚痴も言えるだろうさ。

それがまともな仲間ってもんだよ。

そこから就職にまともなホワイト職場を引き当てれば、

あんたの人生はもっと輝くってもんさ。

さて、長い手紙を読んでくれてありがとな。

そろそろ潜入捜査のケリとして、

この組織に強制捜査が入る。

全部持ってかれて、組織はおそらく解体されて全部暴かれる。

組織に居続ければ、あんたは前科者になるかもしれない。

下手すれば末端までしょっ引かれるかもしれないからな。

だから、今のうちに組織から出て行ってくれ。

組織とは関係を切ってくれ。

あんたの目は、まだ輝いていた。

そのきれいな目は、幸せな未来を見てほしい。

俺のことはわからないままでいてくれ。

じゃ、お互いの人生、今度は交わらず進もうな。

真面目に生きろよ。

詐欺師の振りした誰かより