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5通目 山の龍神から生贄の娘に宛てて

娘へ


お前が生贄として村から山に置き去りにされて、

不憫に思って姿を見せたら、

毎日お前が怯えているので、

私としても困り果てている。

話しかけようにも、顔に浮かんだ怯えが、話の通じなさを物語っていて、

どうしたら意思の疎通ができるかと悩んでいる。

そこで考えたのが手紙だ。

手紙はおまえに害は及ぼさない。

最後まで読んでくれるとありがたい。


私はこの山の龍神で間違いない。

雨を降らす力は持っているが、

別に生贄はなくてもいい。

困っているから雨を降らせてほしいと言えば、

いくらでも力を貸した。

ただ、村の方の代が重なっていくと、

神の力を借りるには、いいものを捧げないといけないとなって、

そうして、とうとうお前のような生贄などと言い出したわけだ。

やりすぎだと言いたいのだが、

私が姿を見せると、お前が怯えたように、村も大変なことになるだろう。

とにかく、龍神の伝説がほどよく立ち消えになる程度に、

これからは適度に雨を降らせると約束しよう。

ただ、私も眠ると長くなってしまう。

このあたりは、寿命が人のそれとは違うと思ってほしい。

まどろんでいるうちに何年もはありうる。

その度に雨が降らないのも困るだろうし、

その度に生贄を連れてこられても困る次第だ。


さて、私がまどろんでいる間、雨が降らなくなると村が困るわけだが、

これをどうにかする方法を考えたので読んでくれ。

それは、生贄としてやってきた、お前も龍神となることだ。

唐突ですまないが、要はつがいとなればいいということだ。

このままお前が村に戻ったとしよう。

龍神からの手紙で生贄は要らないと告げたとしよう。

娘を生贄にするような村人がそれを信じるとは思えん。

また、お前の怯えなどから、

村人が大体私をどう思っているかもわかった。

村人は、お前を雨のために捨てたと思っていい。

お前がどこまで運命を受け入れたかはわからんが、

怯えているということは、すべてを受け入れ切っていないと見た。

死ぬことを受け入れ切っていないと見た。

それはとても人間らしい感情で、多分当たり前の感情だ。

そのお前に興味がわいた。

これからの長い長い年月を、ともに語らう存在が欲しいと思ったんだ。

ほどよく雨を降らせつつ、

山の恵みをもたらして、

雨が降るのが当たり前になって、

龍神というものに生贄を捧げる必要がなくなる未来まで、

お前と龍神のつがいになって、ともに生きていたいと思う。

そして、お前から、

人の感情などをたくさん聞きたいと思う。

おそらく、生贄になる前にも、たくさんのことを経験しただろう。

伝え聞いた話もあっただろう。

他の村人の話もあるだろう。

そんな話を何度でも聞きたい。

もしかしたら、長い年月話を聞き続けることによって、

山の麓の村で、本当に必要な恵みがわかるかもしれない。

私は雨を降らすことを考えていたけれど、

もし、お前がたくさん話をしてくれたならば、

人が必要な恵みの本質がわかるかもしれない。


山の龍神は、人についてよくわかっていない。

人も、山の龍神について怯えることが先立っている。

だから、私とお前でつがいになって、

人と龍神を繋いでいけたらと思う。

私は、人を、お前を知りたい。

どうしたら心地よくなれるかを知りたい。

お前が求めているものを知りたい。

どうか、ともに生きてほしい。

私は、お前という存在が欲しい。

ともに生きる伴侶として欲しい。

生贄に選ばれたのは、どんな手段かはわからない。

ただ、帰る場所がないのならば、考えてほしいと思う。

私は決してお前を裏切らないと約束しよう。

欲しいものはなんでも与えよう。

傷つけることは一切しないと約束しよう。

伴侶となったあかつきには、私はおまえを守り続けると約束しよう。

どんな存在からも守り続けよう。

お前は、そばにいて話を聞かせてくれるだけでいい。

そして、ともに山の恵みを作るだけでいい。

この手紙を読み終えたら、返事を聞かせてほしい。

どんな返事であっても、私はおまえを傷つけない。

ただ、伴侶となって、龍神のつがいとして生きてくれたら、

私は多分嬉しい、のだと思う。

返事を待っている。


龍神より

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