どっちが先に音を上げるか。
あなたとの根競べだ。
あなたと私は結婚を前提に同棲をしている。
結婚という手続きを取る前に、
一緒に暮らすということをしている。
あなたの価値観、私の価値観、
今まで生きてきて育まれたもの。
お互いに譲れないこと。
これだけは許せないということ。
それらのすり合わせをしている最中だ。
愛だけではどうしようもないことがある。
愛していれば我慢できると言われるかもしれないけれど、
我慢をし続けると心が折れてしまうかもしれないし、
我慢をし続けることによって、
あなたが嫌いになるのは嫌だなと思った。
だからお互いの人生のすり合わせをしている。
そのための同棲なんだけど、
そんな折に私たちはケンカをした。
あなたは人を褒めるのが苦手らしい。
口数少ないあなたが、褒められた経験が少ないと言っていた。
親御さんが褒める方ではなかったのかもしれない。
あなたはして欲しいことは言える。
これは嫌だということは言える。
ただ、私が何をしても褒めることはない。
あなたが褒めるのが下手だということは聞いていたけれど、
私が何をしても褒めてくれないことに、
私は自分の価値がとても低いものだと感じた。
私がすることに価値はない。
そして、私が何かをすると、
あなたからこうしてほしくないという注意は入る。
私が肯定されない。
私の顔から表情が消えていくのがわかった。
あなたを嫌いにはなりたくないけれど、
あなたの中で私は価値あるものではないのだと、
私は必要ないのだと思い、黙った。
あなたが何かして欲しいと言うけれど、
私は何も答えなくなった。
とにかく黙った。
あなたは大きなため息をついた。
私たちは黙りつづけた。
根競べだ。
別々の部屋で私たちは黙りつづける。
あなたはスマホを見ている。
私は本を読んでいる。
食事を作れば、あなたはこれでないと言うかもしれない。
あなたは褒めないけれど、これではないことは言う。
あなたから聞くものは、これではないことや、
こうしてほしいという欲求、
私の意見の反応は聞けたためしがなかった。
お互いに黙りつづける。
あなたは自分のことは話す。
健康診断で血圧が高いとぼやいていた。
私は何を話せただろうか。
私のことに興味を持たないと思い込んでいなかっただろうか。
口数の少ないあなたは、
どうにか私のことを聞き出したいと思っていなかっただろうか。
聞き出したいのならばそう言ってほしいけれど、
あなたはその術を知らなかったのだろうか。
親から褒められたことがないのと同様に、
私という存在から何かを聞くことを知らなかったのだろうか。
私の作る食事がこうでないというのは、
血圧のことについてだったのかもしれない。
ではどうすればいいかということについて、
あなたは知識がなかったのかもしれない。
私は黙りながら憶測する。
同棲では、あなたのことがわからなすぎる。
黙っていてはあなたのことが理解できない。
あなたはどんなことをすれば喜んでくれるだろう。
私からどんな話をすればいいだろう。
私のことを知って欲しいと思うし、あなたのことを知りたい。
私の出来ることはここまでと知って欲しい。
あなたの興味を持っているものを共に見たい。
今あなたは別の部屋で何を見ているのだろう。
今あなたは何を食べたいだろう。
私は、冷蔵庫の中身を思い出そうとする。
血圧が高いならば塩気が少ない方がいいかもしれないと思う。
野菜がいいかなとなんとなく思う。
黙っていても何も変わらない。
褒めてくれなくても食事を作ろう。
そういえば、食事をする際に、
あなたは見逃し配信のテレビ番組を流すけれど、
どれも私が興味を引きそうなものだったと思い当たる。
まったく、お互いに言葉が少ないんだなぁと私は苦笑いする。
黙っていたらさらに伝わらない。
私は台所に向かう。
根競べはおしまい。
料理を作って、あなたと食べよう。
たぶんあなたは興味を引きそうな番組を流してくれる。
どう反応したらいいかわからないけれど、
多分あなたは私の反応を待っている。
同棲から結婚に至ったら、
長い人生を共にすることになる。
黙って根競べではわからないことがいっぱい出てくる。
まずはいろんなことを話していこう。
もっと価値観のすり合わせをしていこう。
あなたはどんなことが心地いいんだろう。
まずは料理を食べながら聞いてみよう。
こうして地味な根競べはおしまいになった。
まぁ、長い人生そんなこともあるよね。