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第187話 三文判をペタリ

名字の彫られた三文判をペタリ。

承認っと。


私の仕事は三文判を押して承認すること。

一応偉い役職にはなるのだけど、

私のところまで上がってくるような事柄は、

みんなで精査されているだろうから、

私は最後に三文判をペタリとして、

事柄が早く進むようにする。

事業だったりするし、

いわゆるプロジェクトとも言うかもしれないし、

何かの改善かもしれない。

とにかく上がってくる事柄に三文判をペタリと押す。


上がってくる事柄は、

ざっと目を通す。

秘書には、すごいスピードで目を通されているなどと言われていたけれど、

そんなに早く読んでいる訳ではないと思う。

ただ、理解できる程度のスピードでざっと読む。

それがすごいスピードだと言われている。

実感はないけれど、

ここまで上がってくる事柄には、

それなりに時間をかけて議論がなされているだろうから、

これ以上時間をかけてはいけないなと私は思う。

だから、あまり時間をかけないようにとは思っている。

皆がどんな思いでこの事柄や事案を通してきたか、

理解する程度のスピードで読んでいるつもりだ。

その上で三文判を押す。

ここまで上がってきたならば、

これ以上時間をかけさせるわけにはいかない。


いろいろ読んでいたら、疑問を感じるものがあった。

おそらく早くこの事柄を通したいと思って、

早さだけでここまで来てしまったものだろうと思われた。

私は三文判を押す手を止めて、

書類に赤ペンで改善点を入れる。

多分皆これを早く通したいと思っていた。

それゆえ粗があった。

改善点を皆に周知したうえで、再提出と赤ペンで記して、

秘書に書類を渡す。

部署の担当者に書類を渡したら、

早めに改善点の議論をしたうえで再提出するようにと、

秘書に言伝を頼んだ。

秘書は有能なので、理解したうえで部屋を出て行った。


私の下で働く皆は優秀だ。

たくさんの皆がそれぞれよくなるようにがんばっているから、

このようなことはあまりない。

でも、時々こうして問題点が放置されたままここまで上がってきてしまう。

私は私なりに、それをチェックする役割も持つ。

皆の思いを汲み取った上で、

問題点はちゃんと指摘していき、

問題があったものに関しては、

さらに良くなってからまた上げてきてもらいたいし、

皆のがんばりがあれば必ず解決できるものだと思っている。

皆の能力を信じている。

私は皆の能力をちゃんと認めたうえで、

承認の三文判を押す仕事だ。

担当者の名前はすべて把握している。

下の方と思っているかもしれない、皆の名前も覚えている。

事案の提案者の名前も覚えているし、

その事案にどんな案が足されていったか、

その案を出していった者の名前も覚えている。

誰が参加した会議で事案が精査されていったかのメンバーも覚えている。

それだけ覚えているから、

なかなか会ったことのない皆の名前と性格も把握してしまった。

慎重な性格の者、革新的な性格の者、

穏やかでまとめる性格の者。

全てが上がってくる書類に記されている。

それらすべての皆のがんばりを認めるつもりで、

事案や事柄の書類は目を通す。

がんばっているのだなと目を細める。

自然と笑みが浮かぶ。

私が上で三文判を押す立場でいられるのは、

こんな風に皆ががんばっているからなのだと思う。

私は上に立っているかもしれないけれど、

支えてくれる存在があってこそだ。

皆に恥じない働きをしたいものだと思う。


今日は会合がある。

皆のがんばりに恥じないように、

私も上に立つ者として、

堂々としていたいものだ。

そして、皆にとって有利な条件を引き出してこよう。

それが私の務めだ。


今日の分の三文判をペタリ。

大丈夫だ。

皆の努力は報われる。

そのように私がしてみせる。

上に立つ者として、そうあらねばならない。


書類を届けてきた秘書が戻ってきた。

会合の準備を促された。

ここからは私の出番だ。

しっかり皆のために働こうじゃないか。

皆がいて私がいる。

私は上に立つ者としての責任がある。


諸君、それぞれの場所でともにがんばろうじゃないか。

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