あれは一体何だったのだろうかと、今でも疑問に思っている。
僕らは頭の悪い男子中学生だった。
不良という、道に外れたことはしないけれど、
テストの成績は軒並み悪く、
体育の成績が特別いいわけでもなく、
学校の帰り道に寄り道しては先生に怒られ、
それでも懲りずにつるんでぶらぶらしている。
いい子じゃないけれど悪い子にもなりきれない、
とにかく頭は悪い男子中学生の集まりだった。
性の目覚めがあったからか、
女の子を特別な目で見るようになっていたけれど、
僕らに魅力があるとは到底思えなくて、
こうすればモテるらしいぜと言うことを、
真似してみて、お互いにその姿が滑稽でゲラゲラ笑った。
でも、モテるらしいという不確かな情報を真に受けていた僕らは、
滑稽な姿をして学校に行って、
先生にしこたま怒られた。
おまけに女の子にはまったくモテなかった。
僕らはその失敗もゲラゲラ笑い飛ばした。
頭の悪い僕らだった。
それでも毎日が楽しかった。
僕らは動画サイトで、
キャンプというものを見て、
大人ってかっこいいと思った。
自然の中でブラックコーヒーを飲む。
コーヒーもなんだか特別な入れ方をする。
インスタントコーヒーを溶かすだけじゃない。
砂糖もミルクも入れない大人の真っ黒コーヒーだ。
これを自然の中でするなんて、すっごくかっこいい大人だと僕らは思った。
かっこいい大人のすることを僕らもすれば、
僕らはモテモテになるに違いない。
僕らはとても安直にキャンプをしようと思い立った。
僕らはそれぞれにキャンプに使えそうなものを手分けして集めて、
なんだかガラクタが集まった。
この時点でなんか違うぞと思ったけれど、
とにかくキャンプは自然の中でするものと思って、
町はずれの山林の中に入っていった。
しばらく歩いていてなんか違うぞと僕らはみんな思っていたけれど、
みんなして口に出すことはなかった。
僕らの中の大人のキャンプのイメージが、
ものすごくあやふやな所為だったと思う。
なんか違うぞと思っても、
大人はこうしているのかもと思って、
僕らは山林の中を黙々と歩いた。
山林の地図なんてない。
やみくもに歩いていたから帰り道もあやふやだ。
僕らはなんだかやばくないかと思い始めた。
僕らの中でパニックが伝染する。
僕らは遭難してしまったかもしれない。
僕らは感情と不安が爆発して泣き出してしまった。
そんな時、大人の男の人が向こうからやってきた。
僕らは帰れないかもしれないと思っていたので、
涙と鼻水でぐしゃぐしゃに泣いていた。
言葉も上手く出てこない。
状況の説明もできない。
中学生になっても、こんな状況ではまるで子どもだ。
大人の男の人は、
向こうに家があるから、とにかく落ち付けと言って、
僕らを案内してくれた。
男の人の案内してくれた家は、
大きなお屋敷だった。
やみくもに歩いていた山林にこんなお屋敷があったなんてと思った。
これは私有地と言うものだったのかもしれないと僕らは思った。
お屋敷の中では猫が立って歩いていた。
狸と狐が化ける練習をしていた。
なんだかよくわからないものがフワフワ浮いていた。
向こうに歩いているのは絵本で見たことのある鬼に似ていた。
僕らはお屋敷で美味しいものを食べて、
町に出る道を教えてもらった。
案内してくれた男の人は、
君たちが純粋だからここに来れたんだよと言っていた。
僕らはみんな純粋とは程遠いと思っていたけれど、
男の人は純粋だと言ってくれた。
なんだかそれがちょっとうれしかった。
町に出る道を行こうとすると、
お屋敷にいたいろいろなみんなが見送ってくれた。
なんだかもう会えないような気がした。
僕らはその気持ちを振り切るように、
また会おうぜと言って、ブンブン手を振って別れた。
町に出る道を歩いていたら、
あっという間に町の近くに出た。
歩いてきた道は振り返ったらなくなっていた。
僕らは頭を寄せ合って考えた。
あのお屋敷は何だったのか、
どう考えても普通じゃないものがいた。
僕らはどこに行っていたのか。
遭難と違う意味で僕らはどうしていいかわからなくなった。
けれど、お屋敷のみんなはいい感じのものだった。
もう会えないのかなと思ったら、さびしくなった。
あれから僕らは大人になった。
頭の悪い中学生の頃の友人たちとは、
今でもよく連絡を取り合う仲だ。
あの時山林で見たものが何なのか、僕らはその答えを持たない。
何でもいいのだと思う。
僕らの共通の思い出の中に、
山林で見た訳の分からないものがある。
あのお屋敷には二度といけないかもしれないけれど、
僕らの思い出話の中で、時々話題に上る。
そんな時、記憶の中で、お屋敷の男の人が笑う気がする。
僕らはみんな当たり前の大人になった。
当たり前の大人の思い出に、
少し不思議なものがある。
そんなのも悪くないと思うんだ。