好みのタイプと聞かれたら、
俺は高貴な人と答える。
手が届かないけれど、憧れずにはいられない。
そんな、高貴な人が好みだ。
俺はしがない冒険者。
職業としてはいわゆるシーフにあたる。
若い方なので舐めてかかられることもある。
それなりにシーフとして実績は積んできたけれど、
年齢はどうしようもないので、
若いのに大丈夫かと思われるのは仕方ない。
ただ、その懸念はいつでも実力で黙らせてきた。
もっと身が軽くて気配を消せれば、
暗殺などができるアサシンにもなれるし、
ニンジャへの道も開けている。
俺は殺しは好かないので、
今のところ、ギルドを介してあちこちのパーティーに雇われて、
危険察知などの斥候役をしている。
罠があったら俺が解くし、
先に危険なモンスターなどがいるようならば知らせる。
武器で攻撃ができる職や、
魔法で戦える職ではないので、
俺は陰に隠れた裏方をしている。
それでもありがたいことに、裏方の俺を必要としてくれるパーティーはそれなりにいて、
俺はくいっぱぐれることなく、
冒険者として暮らしていけている。
とある冒険者のパーティーに雇われた時のこと。
そのパーティーは俺と同じくらいの年齢で組まれた、
平均年齢が若いパーティーだった。
男も女も混じっているけれど、
パーティー内恋愛はなく、
それでも若さにあふれたパーティーだった。
ベテランの冒険者とは違う危なっかしさはあるけれど、
俺もこんな風に見られているのかと思うと、
少しばかり親近感も覚えた。
そりゃこんなに無茶しているのが本来の若者だったら、
俺のこともそんな風に見るよなぁと。
その無茶や無鉄砲さえも微笑ましい。
俺とは違う生き方をしてきたのかもしれないけれど、
このパーティーの連中のような生き方もいいものだと思う。
ギルドの依頼をひとつこなして、
安全な場所で休んでいた時、
パーティーの連中で恋の話になった。
女性は安全な場所にいて欲しいと語るファイター。
女だって暴れたいというサムライの女の子。
スタイルいい女が好みだよなと語るクレリック。
クレリックのその発言に、
思わず生臭聖職者とぼやいたところ、
じゃあお前の好みはどうなんだと聞かれ、
高貴な人が好みだと答えた。
望み高いなおまえと笑われた。
俺も曖昧に笑った。
俺がシーフとして今の実力を持つより前、
俺は冒険者にもなれない、薄汚い孤児だった。
とにかく生きるために盗み、逃げた。
世の中全てが歪んで見えた。
逃げ回っている最中、
大きなお屋敷に逃げ込んだ。
逃げ込んでから、このお屋敷で見つかったら、
俺は捕まるだけでなく、殺されるかもしれないと思った。
ああ、結局俺は死ぬんだと思った。
大きなお屋敷の庭に行くと、
そこには花が咲き乱れていて、
女性が花をめでていた。
これは高貴な女性だった。
薄汚い俺が近づけない存在。
ただただ美しい高貴な存在。
美しい花をめでることが許される存在。
こんな高貴な存在に、あこがれだけは持っていいだろうかと思った。
どうせつかまって殺されるのならば、
この美しく高貴な存在を、
魂に焼き付けてから死ねたらと思った。
彼女は振り返って、俺に気が付いた。
彼女は微笑むと、
花の中の抜け道を教えてくれた。
ここまで来れたならば相当逃げ上手なのねと言った。
冒険者になれば、みんなの役に立てるはずよ。
あなたならばどこにでも行けるし、あなたを求める人がたくさんいるわ。
彼女はそう言って、俺を逃がした。
高貴な彼女の言葉に従って、
俺は冒険者になった。
逃げ上手だと褒められた身のこなしを生かしてシーフになった。
俺と組みたい冒険者も増えてきた。
俺はあの時の彼女を支えに生きてきた。
高貴な彼女は、結局その後どうなったかは知らない。
名のある貴族令嬢だと思うのだけど、
どこに嫁いだという情報もないし、
貴族令嬢の噂も聞かない。
もしかしたら、あのお屋敷から出られることなく、
病でもこじらせてこの世にいなくなっているかもしれない。
そこまで行かなくても、
あのお屋敷から外の世界を知らないままなのかもしれない。
あなたはどこにでも行ける。
そう言った高貴な女性。
花咲き乱れる大きなお屋敷。
俺の唯一の好みの女性と言えばあの女性だ。
届かない好みの女性だ。
俺はかなわない憧れを抱いたまま、
せめてあの人に俺の名が届くように、
冒険者としての実績を積み続ける。
あの人が幸せでいて、俺の名を少し覚えてくれたら、
それだけで生きていてよかったと思えるんだ。