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第181話 高貴な人が好みだ

好みのタイプと聞かれたら、

俺は高貴な人と答える。

手が届かないけれど、憧れずにはいられない。

そんな、高貴な人が好みだ。


俺はしがない冒険者。

職業としてはいわゆるシーフにあたる。

若い方なので舐めてかかられることもある。

それなりにシーフとして実績は積んできたけれど、

年齢はどうしようもないので、

若いのに大丈夫かと思われるのは仕方ない。

ただ、その懸念はいつでも実力で黙らせてきた。


もっと身が軽くて気配を消せれば、

暗殺などができるアサシンにもなれるし、

ニンジャへの道も開けている。

俺は殺しは好かないので、

今のところ、ギルドを介してあちこちのパーティーに雇われて、

危険察知などの斥候役をしている。

罠があったら俺が解くし、

先に危険なモンスターなどがいるようならば知らせる。

武器で攻撃ができる職や、

魔法で戦える職ではないので、

俺は陰に隠れた裏方をしている。

それでもありがたいことに、裏方の俺を必要としてくれるパーティーはそれなりにいて、

俺はくいっぱぐれることなく、

冒険者として暮らしていけている。


とある冒険者のパーティーに雇われた時のこと。

そのパーティーは俺と同じくらいの年齢で組まれた、

平均年齢が若いパーティーだった。

男も女も混じっているけれど、

パーティー内恋愛はなく、

それでも若さにあふれたパーティーだった。

ベテランの冒険者とは違う危なっかしさはあるけれど、

俺もこんな風に見られているのかと思うと、

少しばかり親近感も覚えた。

そりゃこんなに無茶しているのが本来の若者だったら、

俺のこともそんな風に見るよなぁと。

その無茶や無鉄砲さえも微笑ましい。

俺とは違う生き方をしてきたのかもしれないけれど、

このパーティーの連中のような生き方もいいものだと思う。


ギルドの依頼をひとつこなして、

安全な場所で休んでいた時、

パーティーの連中で恋の話になった。

女性は安全な場所にいて欲しいと語るファイター。

女だって暴れたいというサムライの女の子。

スタイルいい女が好みだよなと語るクレリック。

クレリックのその発言に、

思わず生臭聖職者とぼやいたところ、

じゃあお前の好みはどうなんだと聞かれ、

高貴な人が好みだと答えた。

望み高いなおまえと笑われた。

俺も曖昧に笑った。


俺がシーフとして今の実力を持つより前、

俺は冒険者にもなれない、薄汚い孤児だった。

とにかく生きるために盗み、逃げた。

世の中全てが歪んで見えた。

逃げ回っている最中、

大きなお屋敷に逃げ込んだ。

逃げ込んでから、このお屋敷で見つかったら、

俺は捕まるだけでなく、殺されるかもしれないと思った。

ああ、結局俺は死ぬんだと思った。

大きなお屋敷の庭に行くと、

そこには花が咲き乱れていて、

女性が花をめでていた。

これは高貴な女性だった。

薄汚い俺が近づけない存在。

ただただ美しい高貴な存在。

美しい花をめでることが許される存在。

こんな高貴な存在に、あこがれだけは持っていいだろうかと思った。

どうせつかまって殺されるのならば、

この美しく高貴な存在を、

魂に焼き付けてから死ねたらと思った。

彼女は振り返って、俺に気が付いた。

彼女は微笑むと、

花の中の抜け道を教えてくれた。

ここまで来れたならば相当逃げ上手なのねと言った。

冒険者になれば、みんなの役に立てるはずよ。

あなたならばどこにでも行けるし、あなたを求める人がたくさんいるわ。

彼女はそう言って、俺を逃がした。


高貴な彼女の言葉に従って、

俺は冒険者になった。

逃げ上手だと褒められた身のこなしを生かしてシーフになった。

俺と組みたい冒険者も増えてきた。

俺はあの時の彼女を支えに生きてきた。

高貴な彼女は、結局その後どうなったかは知らない。

名のある貴族令嬢だと思うのだけど、

どこに嫁いだという情報もないし、

貴族令嬢の噂も聞かない。

もしかしたら、あのお屋敷から出られることなく、

病でもこじらせてこの世にいなくなっているかもしれない。

そこまで行かなくても、

あのお屋敷から外の世界を知らないままなのかもしれない。


あなたはどこにでも行ける。

そう言った高貴な女性。

花咲き乱れる大きなお屋敷。

俺の唯一の好みの女性と言えばあの女性だ。

届かない好みの女性だ。

俺はかなわない憧れを抱いたまま、

せめてあの人に俺の名が届くように、

冒険者としての実績を積み続ける。

あの人が幸せでいて、俺の名を少し覚えてくれたら、

それだけで生きていてよかったと思えるんだ。

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