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第174話 機密情報を盗め

これは国の命運を左右する極秘任務だ。


とある国があった。

その国は美しいということを最も重要視していて、

特に外見の美しさを重要視していた。

その国には外見の美しい国民がいて、

その国の国民の遺伝子を持った子供が生まれれば、

美しい子供になると、

その国の国民と結婚したいものがたくさんいた。

特に、富裕層は一種のステータスとして、

その国の国民を伴侶に持つことが流行した。


さて、私はある種のスパイだ。

その美しい国の実情を調べるという任務を持っていて、

なおかつ、出元不明の情報として、

美しい国は汚い国であるとの情報が入ってきた。

とにかく、美しい国に関しては、

さまざまの情報が飛び交っている。

美しい国の国民には、ある種の遺伝子操作がなされている、とか。

美しい国の国民を売買して、美しい国は潤っているとか、

真偽のほどが定かではないものがたくさんだ。

それほど、美しい国に関しては、

美しいのだけど何かが歪だと感じられているのかもしれないし、

また、私が駆り出されるということは、

美しい国の奥底に何かがあると思われているのかもしれない。

その奥底にあるものが、美しい国の機密情報なのだろう。

私は美しい国に潜入した。


美しい国は、争いもない平和な国だ。

町はきれいに整えられていて、

美しい国民が歩いている。

外見が美しいとなっていないものは、

おそらく他国からのもので、

美しい国に伴侶を求めに来たのかもしれないし、

そうでなくても美しい国を目の保養として観光に来たのかもしれない。

私は目立たないように行動して、町の行き止まりにやってきた。

立ち入り禁止の扉があって、

そこを暗号クラッシャーを使って突破する。

奥は悪臭が漂っていた。

美しい町を維持するために、

汚い作業をしている空間があった。

ゴミ、汚水、あるいはシステム管理、

それらの表に見えない部分は、すべて醜い者がやっていた。

なるほど、生まれついての外見で、

こちらに振り分けられるものもいるということかと、

私なりに納得した。

私は悪臭漂う裏の部分を歩き、

美しい国の中枢に裏から入り込む。


美しい国の中枢では、

美しい国の国民たちが、

美しいとされている者の形に遺伝子を整えられていた。

技術だけならば世界トップクラスであるだろうと思う。

ただ、それを美しい形にすると言うことだけに使っている。

遺伝子を整えることに失敗したものは、

先程の裏の方に捨てられて悪臭の中で生活するのだろう。

私は美しい国の遺伝子操作技術をコピーして盗む。

技術に関してはわからないことが多いが、

これほどの技術をこの国だけで使っていることに、少し違和感を覚えた。

私はさらに美しい国の中枢を行く。


かなりおぞましい実験もしているようだ。

人の形を維持できない個体もいくつか見た。

いや、もともと人ではないなと私は思った。

私はもしかしたらと思い、中枢の機密情報にアクセスする。

美しい国の国民には、

遺伝子改変情報として、

人間でないものの遺伝子が組み込まれていた。

人間でないものの遺伝子を組み込みつつ、

人間が美しいと思わせる外見を持った遺伝子の国民を作ること。

それが美しい国の国民の秘密だった。

美しい国の国民は、人間でないものの遺伝子を広めるために、

人間が美しいと思う外見に整えられ、

人間でないものの遺伝子を持った子供を広めていく。

やがて、この世界を人間でないもので埋め尽くして乗っ取っていく。

それがこの美しい国の目的であったらしい。


私は機密情報をコピーして盗んだ。

美しい国の目的がわかれば、

世界の価値観が変わってしまうだろう。

ただ、美しい国の手がほかの国の中枢まで入り込んでいるかもしれない。

この機密情報も握りつぶされるかもしれない。

私は美しい国の最高権力者の部屋まで侵入した。

機密情報では、人ではないものの遺伝子を広めようとしている。

ならば、最高権力者は人ではないかもしれない。

暗殺が必要かもしれないと判断した。

最高権力者の部屋には、

人になろうとしてなれなかった肉の塊が転がっていた。

肉の塊に電極が差し込まれていて、

その電極で通信して指令を出しているようだ。

多分、この肉の塊は、

人のように大事にされたかったのだろうと思う。

異形のものとされるのでなく、

他愛のない会話をしたり、

まともな食事を食べたかったのだと思う。

これは、愛されたかったのかもしれないと私は思った。

せめて自分の遺伝子が入ったものが愛されてほしい。

その一心で遺伝子をいじり続け、

美しい国を作り続け、

自分の遺伝子を広め続けたのかもしれない。


肉の塊の電極からの信号がやけに静かだ。

モニターにも何も表示されていない。

私は肉の塊に触れてみた。

どうやら、死んでしまったらしい。

美しい国がこれからどうなるのかはわからないけれど、

世界中に遺伝子をばらまき続けた、

最高権力者はおそらく寿命で死んだ。

私は美しい国の機密情報を盗んで国を出た。


おやすみ、人でないものよ。

せめて今は美しい夢を。

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