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第173話 キャプテンの責任

この船のキャプテンとして、私には責任がある。


昔々、船と言えば水の上を走るものであったらしい。

私たちの祖先は母星で文明を発達させていって、

母星から技術を使って、宇宙へと繰り出した。

そのときには、船と言えば宇宙も走るものも指すようになった。

特別に宇宙船と呼ばれたのは、宇宙に繰り出した初期のこと。

移動手段に宇宙を走るものも、

いろいろな惑星で水の上を走るものも、

だいたい船と呼ばれて久しい。

宇宙を走っている船が、惑星に入ってきて、

そのまま惑星のいわゆる大気圏内の、

水の上を走ることもある。

宇宙と惑星とコロニーと、

いろいろなところをそのまま走れてしまうのが船というわけだ。


母星から祖先が宇宙に出て、

宇宙にいろいろな集まりを作っていって、

母星の他に暮らせる惑星を見つけて、

そこでまた違った文明ができて、

母星で国というものがあったように、

惑星やコロニー間で国のようなやり取りがある。

同盟を結んだり、戦争をしたり、

平和なところでは貿易をしたり、

物騒なところでは、貿易している船を襲ってくるものがいたり。

母星では海賊などと言われていたようだけど、

宇宙では海ではないので、

星間賊などと言う言葉がそのまま使われている。


私は星間賊が多発する地域を取り締まる、

星間同盟の軍の、戦艦の艦長だ。

艦長という言葉よりも、私はキャプテンと呼ばせている。

戦艦はひとつのチームであると私は思っている。

誰が欠けてもいけないと思っている。

チームのキャプテンとして、私はありたいと思っている。

スポーツのチームもキャプテンという言葉が使われていると聞き、

私もそれにならってキャプテンという言葉を使わせている。

平和ならばその方がいい。

スポーツのチームのような平和なものであればその方がいい。

ただ、平和を乱すものに対しては、

この戦艦の戦力を総動員して、

星間賊を鎮圧する次第だ。


そのときも私たちの戦艦は、

星間賊多発地帯を航行していた。

レーダーに反応。

星間賊が貨物船を襲っている。

副キャプテンが貨物船と星間賊の来たであろう地域を割り出した。

貨物船は密輸船のようだった。

船の地域の偽造が見られていて、

違法なものを運んでいるらしい。

星間賊はその違法なものを許せないらしい。

多分正義感から襲っているのだろう。

しかし、正規の組織には所属していない。

このままでは星間賊が裁かれるし、

密輸船が助けられて、また、違法なものを運ぶことになる。


私は考えた。

そして、キャプテンとして答えを出した。

私は戦艦の砲撃を指示した。

星間賊と密輸船の接しているあたりを通して、

密輸船の動力を撃ち抜く。

星間賊を攻撃したという大義名分は成り立つ。

密輸船は密輸船であることを隠しているので、

我が艦から救助に向かうという前提で、

違法なものを見つけ出して証拠にすればいい。

星間賊に関しては、

正義感の有り余った一般人の行動として報告しよう。

全ては私が責任をとる。

私が決定したことだ。

そう皆に通達すると、すぐさまそれぞれの役目に取り掛かった。


密輸船は証拠を押さえられ、

司法の手に引き渡されることになった。

相当悪質なものを運んでいたらしく、

おそらく厳罰だろうとのことだ。

星間賊に関しては、私は一般人だと報告をした。

星間賊の頭であろう若者が、

私になぜだと言ってきた。

私は答えた。

この正義感を持ったチームを処罰するのは私の性に合わない。

君が船のキャプテンであるのならば、

そのチームを導き、責任をとれるようになりなさい。

君の正義感についてくるものはいる。

星間賊でなく、正規の手順を踏んで、

君は正義を行うチームのキャプテンになりなさい。

私がそう告げると、

星間賊の若者はうなずいた。


あの若者は若い頃の私によく似ている。

正義を追い求めて無茶をしていた頃の私によく似ている。

船のキャプテンになって、

私は責任の重さを感じ、

その責任を引き受けることによって、

皆を導こうとしている。

あの若者もいずれそうなるだろう。


キャプテンの責任の重さは、たくさんの命と正義が乗っている重さだ。

私はその重さのひとつひとつを大切に感じ、

宇宙の正義を守っている。

守るものはとても多い。

そのすべてを守るのが、キャプテンというものだ。

私はそう信じている。

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