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第172話 秘密基地はいつまでも

あの頃、僕らには秘密基地があった。


当時小学生だった僕らには、

近所にたくさん秘密基地があった。

学校の裏手の山の中や、

建物の隙間の向こうの空き地や、

建設資材置き場の死角なんか。

あっちこっちに僕らは秘密基地を作って、

学校が終わったらなんとなくどこかに集まって、

日が暮れるまでたくさんのお話をする。

漫画を持ち込んで回し読みすることもあったし、

お菓子を持ち込んで食べることもあった。

あの頃、僕らには僕らだけの秘密基地がたくさんあった。

そして、僕らだけの秘密もたくさんあった。

僕らは秘密をしっかり抱えたまま、

秘密基地での楽しい時間を過ごしていった。


秘密基地は、時が流れるとともに、

あっちこっち壊されていった。

僕らはそれでも残った秘密基地に集った。

なんだか、僕らの秘密が壊されていくようで、

悲しいような、さびしいような気持ちになった。

僕らの楽しい場所は、

大きな力で壊されていく。

無力だと思った。

それと同時に、僕らも成長していって、

今まで通れた秘密基地への道が通れなくなっているのを感じた。

前だったらこの隙間を通れて秘密基地に行けたのに。

前だったらこの薮の中を平気で通れたのに。

僕らは秘密基地への道が閉ざされたことを知り、

それが成長なんだと思って、

やっぱりさびしくなった。


僕らは成長した。

男は男らしく、女は女らしくと言われた。

一緒に秘密基地に通っていた女の子が離れていった。

勉強に部活に励めと言われた。

秘密基地で過ごしたような楽しい時間が無くなっていった。

町は開発されていって、

僕らが過ごした秘密基地は、跡形もなくなった。


僕は勉強に励んだ。

心の空白を埋めるのがそれしかないような気がした。

僕らの秘密基地が失われて、仲間も散り散りになった今、

僕の空白はこれでしか埋まらないような気がした。


高校生になって、その先の進路を選ぶとき、

僕は特別に呼び出された。

職員室でなく会議室だ。

なんだろうと思って行ったところ、

あの頃、僕と一緒に秘密基地で過ごした面々が集っていた。

今まで進路はあっちこっち別の学校になっていたけれど、

今この時なぜか呼び出されている。

僕らは疑問に思いつつ、会議室に入った。


会議室には先生たちと、

なんだか偉そうな人がいた。

学者でも政治家でもないようだけど、

なんだか偉そうな人だと僕は思った。

偉そうな人が話し出した。

それは僕らの秘密基地での大きな秘密のことだ。

僕らは秘密基地で、ともに過ごした仲間がいた。

仲間のほとんどは僕らのような人間だったけれど、

一人だけ、人間でない存在がいた。

僕らはその存在も仲間にして、

あちこちの秘密基地で一緒に過ごしていた。

その存在は、僕らが秘密基地に入れなくなってきた頃、

あるべき場所に帰った。

精霊なのか宇宙人なのか、そのあたりは僕らもよくわからなかった。

ただ、あの頃の僕らの友達だった。

その存在のことは、今まで僕らだけの秘密だった。

その存在のことを、偉そうな人は話している。

偉そうな人は言った。

その存在とコンタクトが取れて信頼関係があった僕らで、

秘密組織を作って欲しいとのことだ。

その存在は地球を愛する存在だ。

地球を守ろうとする大きな力を持った存在だ。

その存在とともに、この地球を守る組織を作って欲しい。

偉そうな人はそう言って、僕らに頭を下げた。


僕らは秘密の存在と再会した。

そして、僕らには新しい秘密基地ができた。

幼かった僕らが夢想した、

地球を守るような組織の秘密基地だ。

あの頃の友達とともに、

僕らは秘密裏に地球を守っている。

大きな秘密基地は過ごしやすいけれど、

やっぱり僕の中では、あの頃の小さな秘密基地も懐かしく思われる。

すっかり成長したみんなの顔を見ていると、

秘密基地も成長してこんなに大きくなったのかなと思った。


秘密基地はいつまでも。

僕らはあの頃の秘密を大事にしながら、

新しい秘密基地で日々戦い続ける。

仲間がいれば何も怖いことはない。

あの頃と同じように、

この仲間がいれば何も怖いことはない。


僕らはあの頃手に入れたいものを、

ちゃんと手に入れた大人になった。

それはきっととても幸せなことだ。

僕らの秘密基地は、この地球を守り続ける。

強い絆で結ばれた仲間とともに。

いつまでもいつまでも。

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