あの頃、僕らには秘密基地があった。
当時小学生だった僕らには、
近所にたくさん秘密基地があった。
学校の裏手の山の中や、
建物の隙間の向こうの空き地や、
建設資材置き場の死角なんか。
あっちこっちに僕らは秘密基地を作って、
学校が終わったらなんとなくどこかに集まって、
日が暮れるまでたくさんのお話をする。
漫画を持ち込んで回し読みすることもあったし、
お菓子を持ち込んで食べることもあった。
あの頃、僕らには僕らだけの秘密基地がたくさんあった。
そして、僕らだけの秘密もたくさんあった。
僕らは秘密をしっかり抱えたまま、
秘密基地での楽しい時間を過ごしていった。
秘密基地は、時が流れるとともに、
あっちこっち壊されていった。
僕らはそれでも残った秘密基地に集った。
なんだか、僕らの秘密が壊されていくようで、
悲しいような、さびしいような気持ちになった。
僕らの楽しい場所は、
大きな力で壊されていく。
無力だと思った。
それと同時に、僕らも成長していって、
今まで通れた秘密基地への道が通れなくなっているのを感じた。
前だったらこの隙間を通れて秘密基地に行けたのに。
前だったらこの薮の中を平気で通れたのに。
僕らは秘密基地への道が閉ざされたことを知り、
それが成長なんだと思って、
やっぱりさびしくなった。
僕らは成長した。
男は男らしく、女は女らしくと言われた。
一緒に秘密基地に通っていた女の子が離れていった。
勉強に部活に励めと言われた。
秘密基地で過ごしたような楽しい時間が無くなっていった。
町は開発されていって、
僕らが過ごした秘密基地は、跡形もなくなった。
僕は勉強に励んだ。
心の空白を埋めるのがそれしかないような気がした。
僕らの秘密基地が失われて、仲間も散り散りになった今、
僕の空白はこれでしか埋まらないような気がした。
高校生になって、その先の進路を選ぶとき、
僕は特別に呼び出された。
職員室でなく会議室だ。
なんだろうと思って行ったところ、
あの頃、僕と一緒に秘密基地で過ごした面々が集っていた。
今まで進路はあっちこっち別の学校になっていたけれど、
今この時なぜか呼び出されている。
僕らは疑問に思いつつ、会議室に入った。
会議室には先生たちと、
なんだか偉そうな人がいた。
学者でも政治家でもないようだけど、
なんだか偉そうな人だと僕は思った。
偉そうな人が話し出した。
それは僕らの秘密基地での大きな秘密のことだ。
僕らは秘密基地で、ともに過ごした仲間がいた。
仲間のほとんどは僕らのような人間だったけれど、
一人だけ、人間でない存在がいた。
僕らはその存在も仲間にして、
あちこちの秘密基地で一緒に過ごしていた。
その存在は、僕らが秘密基地に入れなくなってきた頃、
あるべき場所に帰った。
精霊なのか宇宙人なのか、そのあたりは僕らもよくわからなかった。
ただ、あの頃の僕らの友達だった。
その存在のことは、今まで僕らだけの秘密だった。
その存在のことを、偉そうな人は話している。
偉そうな人は言った。
その存在とコンタクトが取れて信頼関係があった僕らで、
秘密組織を作って欲しいとのことだ。
その存在は地球を愛する存在だ。
地球を守ろうとする大きな力を持った存在だ。
その存在とともに、この地球を守る組織を作って欲しい。
偉そうな人はそう言って、僕らに頭を下げた。
僕らは秘密の存在と再会した。
そして、僕らには新しい秘密基地ができた。
幼かった僕らが夢想した、
地球を守るような組織の秘密基地だ。
あの頃の友達とともに、
僕らは秘密裏に地球を守っている。
大きな秘密基地は過ごしやすいけれど、
やっぱり僕の中では、あの頃の小さな秘密基地も懐かしく思われる。
すっかり成長したみんなの顔を見ていると、
秘密基地も成長してこんなに大きくなったのかなと思った。
秘密基地はいつまでも。
僕らはあの頃の秘密を大事にしながら、
新しい秘密基地で日々戦い続ける。
仲間がいれば何も怖いことはない。
あの頃と同じように、
この仲間がいれば何も怖いことはない。
僕らはあの頃手に入れたいものを、
ちゃんと手に入れた大人になった。
それはきっととても幸せなことだ。
僕らの秘密基地は、この地球を守り続ける。
強い絆で結ばれた仲間とともに。
いつまでもいつまでも。