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第170話 季節風が吹く

風が春めいてきたなと感じる。

これは多分春の季節風だ。


天気図が出てきてもあいかわらずさっぱりだけど、

天気予報をぼんやり見ていると、

西高東低の冬型気圧配置、というのが減ってきている気がする。

最近の天気予報はわかりやすくしてくれているのか、

日本各地の風向きを地図に重ねてくれている。

そうしてわかるが、北風率が減っている気がする。

ああ、春が本番になってきているんだなと感じる。


雨が降ることもあるし、寒い日もたまにはあるけれど、

この寒さが数ヶ月続くという感じはない。

数日もすればあたたかくなると、

天気予報を見なくてもなんだかそう感じられる。

春本番に向けての天気の移り変わりなんだと、

体感で感じられる。


西の風は大陸からの風だとか。

大雑把に言ってユーラシア大陸。

北の風だとシベリアからで、

西の風だと大雑把に中国。

南の風はあたたかい地域からだけど、

日本の南は基本海だから、

南の風はあたたかさと湿気を持ってくる。

春一番は南の風。

しかもとても強い風。

これも季節の風なのだろうなと思う。

木枯らし一号というのも聞いたことがある気がするけれど、

これは多分北風かな。


風は季節を届けてくれる便りだ。

次の季節がやってくるよと、

いち早く知らせてくれる便りだ。

確かに天気予報はわかりやすいけれど、

外に出て、風を感じていると、

季節の便りが届いているのを感じられる。

あたたかい季節風、

冷たくなってくる季節風。

湿気が多くなってくる季節風。

からからに乾いた季節風。

季節風は、身体にじかに触れることによって、

季節の移り変わりをダイレクトに伝えてくれる。

この風を感じるのは、やっぱり外に出ないとなと思う。

家の中は安全で快適ではあるけれど、

外に出ないと本当の季節風は感じられない。

肌を撫でていく、本当の季節は、

やっぱり外に出ないと感じられない。

いろいろなお店の季節限定品も季節感はあるけれど、

それよりまず、季節風が吹くことを感じられたら、

大きく季節が変わっていることを感じられるような気がする。


私は晴れた昼の庭に出る。

風が強く、花粉が大変だと聞いた。

船が帆で風を受けて進むものは、

やっぱり季節による風向きを知ることが大事なんだろうなと思う。

昔はタンカーなんてなかったから、

季節の風を知り尽くした船乗りが、

荷物を載せた船を操っていたんだろうなと思う。

その船は、港をいくつも回って、

日本だけでないどこかの国まで行ったんだろうか。

日本とは違う季節風を知っているガイドがいて、

この季節はこの風を受けるなど、

風を知りながら世界をめぐっていたのだろうか。

風は世界中に吹いている。

多分各地で季節風の感覚は違うんだろうなと思う。

この風が吹くと春が来るというのも、

世界各地で何となく違うんだろうなと思う。

昼の庭は風が強い。

今日は春風が吹いている。

空気がある限り世界のどこかとつながっていて、

この風がつながっている世界のどこかで、

私のように季節を感じている誰かがいるかもしれない。

その誰かも春を感じているかもしれない。

そこでの春はどんなものだろうか。

心地いい季節であればいいなと思う。


この世界をぐるぐると、季節風が吹く。

天気図はあいかわらずわからないけれど、

世界に国境なんてひかれていないことはわかる。

季節風は国境なんてお構いなしに、

季節の便りを届けに来てくれる。

生きるものが季節対策をいくらどうにかしようとも、

結局季節はお構いなしに変わっていく。

風は本当に自由だと思う。

ああ、どこにでも行けて、誰とでも触れ合えるんだなと思う。

私もそのくらい軽くなれたら、

世界中を回る風になりたいなと思った。


春の季節風が吹く。

春本番まであと少し。

じきに桜も咲くだろうか。

心浮かれる季節の便りがもうすぐ届く。

外に出るのがとても楽しい季節の便りがもうすぐ届く。

季節風は便りを届けてくれる。

私は外に出て、季節の便りを感じよう。

季節は全部の感覚で感じないともったいない。

せっかく季節があるのだから、

全力で感じて全力で楽しまないともったいない。


季節風は私の頬を撫でていく。

私はその心地よさに微笑んだ。

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