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第169話 煙管をふかすぼんくら若旦那

若旦那はぼんくらと呼ばれている。

今日ものんびり煙管をふかしている。


老舗と呼ばれる店の、後継ぎの若旦那は、

仕事を積極的に覚えようとしない。

周りで使用人が忙しく働いているのに、

若旦那はそれを見ながら煙管をふかしている。

大旦那が時々雷を落とす。

やる気あるのか、お前はこの店の後継ぎだぞと。

若旦那はのらりくらりとかわして、

また、同じように煙管をふかしながら店のみんなを見ている。

ぼんくら若旦那とみんなで呼んでいるのも、

意に介さないみたいだ。

薄く笑った顔で、いつも煙管をふかしている。


ある時、使用人の一人が、

眠れないからと歩いていると、

明かりがついているのが見えた。

のぞいてみると、若旦那が帳簿を真剣な顔をしてみていた。

帳簿を見ていたと思ったら、次は顧客の帳面を見ている。

使用人は、あのぼんくらがそんなことするわけないと、

寝ぼけたんだと思って、布団に戻ったらすっかり忘れていた。


しばらくして、大旦那が倒れた。

命に別状はないけれど、

経営を引き継がなければならないということになった。

使用人をはじめ、家族も皆、

あのぼんくらに務まるものかと思っていた。

若旦那は皆を集めて、今後の店のあり方について語った。

それはぼんくらの口から出るものではなかった。

この店の経営状態をすべて把握したうえで、

顧客がどうすれば満足して、

使用人がどうすれば無理なく仕事ができて、

この店の経営がどうすれば上に向いていくかを、

理想論だけでなく、店と使用人と顧客と売り上げと、

全てを把握したうえで最善の手を語った。

集まった皆は唖然とした。

これがあのぼんくらだろうか。

姿かたちはいつも見ていたぼんくらなのに、

どこにこんな言葉が隠れていたのだろうかと、

皆が思った。


若旦那は語る。

いつも皆の働き方を見ていた。

大旦那様がいる手前、表立っていろいろ言うわけにはいかなかったけれど、

俺なりにこの店のあり方についていつも考えていた。

この店を継ぐのであれば、この店をもっと良くしていきたいと思う。

全ての店にかかわるものを笑顔にできる店にしたい。

そのためには、皆の力が不可欠だ。

どうか、未熟な俺に力を貸してほしい。

そう頼むと、若旦那は頭を下げた。

集まった皆は、若旦那についていきますと、深々と頭を下げた。


やがて、大旦那は隠居になり、

若旦那が跡を継いで店を切り盛りしている。

若旦那は要所要所でこうした方がいいとか、

あるいは、よくできたならばよく褒めるなどをして、

使用人を丁寧に使っている。

顧客に対しては、誠意をもって応対している。

店の売り上げは上がっていって、

店はいつも活気に満ちている。

ただ、若旦那が働こうとすると、

若旦那は煙管ふかして見てくれていればいいんですよと、

皆に言われてしまっていて、

若旦那はあまり働かせてもらっていない。

せっかく店を継いだのだから先頭に立って店のことを切り盛りしたいものだが、

皆からすると、煙管をふかしている若旦那が見守っていてくれると、

とても安心ができるものらしい。


今日も若旦那は煙管をふかしながら皆を見ている。

もうぼんくらと言うものはいないけれど、

一見してぼんくらの若旦那が、

切れ者であることはみんなよく知っている。

この店は若旦那がしっかり守ってくれている。

その安心感から、皆が笑顔になる。

若旦那は薄く笑いながら、皆を見守っている。

煙管の煙は薄く。

若旦那はいつも美味そうに煙管をふかす。

煙管をふかしながら、店のことをたくさん考えているのを、

みんなよくわかっている。

若旦那はたくさんの信頼を背負って、

それでも気負い過ぎることなく、

いつものようにゆったり煙管をふかしている。

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