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第164話 聖なるものはどこにある

この世の中は汚いものであふれている。

清浄な唯一の聖なるものはどこにあるのだろう。


僕は引きこもりに近い生活をしている。

今まで生きてきて、

たくさんの出来事があって、

部屋の外が怖くなってしまって、

部屋から出られなくなってしまった。

僕は臭いものに蓋をされるように、

家から離れたどこかのワンルームの部屋に押し込められて、

家族は、僕がどこかで一人暮らしをしているから、

帰ってこないということにしたらしい。

家族は僕が厄介者だから追い出した。

家にいられると、誰かの目についたときに家の恥になる。

だから僕はこの部屋に引きこもっている。

誰も僕の味方はいない。

部屋の外は怖いことばかりだ。


僕はいろいろなつらいことを経験してきた。

僕以外の誰かが同じ経験をしたら、

この程度でと思われるかもしれないけれど、

僕としては、世の中が全て怖くなるようなものばかりだ。

世の中は汚く怖いもので満ちている。

すれ違う人が殺しにかかってくるかもしれない。

気に入らなければ殴られるかもしれない。

人の目が怖い。においが怖い。

食べるものには毒が入っているかもしれない。

目に見えない菌がたくさん飛んでいるかもしれない。

僕を害するものがたくさんある。

僕はそんな世の中が怖くなってしまって、

自分から部屋の中に閉じこもっている。


どこかに、この汚い世の中をきれいにしてくれるような存在はないだろうか。

あるいは、僕を守ってくれる守護天使のような、

聖なるものはないだろうか。

穢れや苦しみなどから守ってくれる、

聖なるものはないだろうか。

この世界は僕にとって苦しいものそのものだ。

聖なるものが僕を守ってくれないだろうか。

聖なるものはどこにあるのだろうか。

僕を救ってくれる聖なるものはどこにあるのだろうか。


ある日、僕は苦しみながら大量に食材を買い込んで、

部屋にこもる準備をした。

食べないという選択肢がないのがつらい。

買い物に行かないと何もなくなってしまう。

僕は苦しみに耐えながら買い物をして帰ってきて、

部屋に戻って消毒をたくさんして、

着ていた衣類を洗濯した。

念のために魔除けもする。

いろいろな祈りもする。

外に出た後の清めの儀式に疲れた僕は、

食材を片付けするとそのまま眠った。


しばらく寝ていたような気がする。

とにかく日付を知ろうと思って、

パソコンのスイッチを入れた。

僕は数日眠っていたらしい。

かなり疲れていたようだ。

罵詈雑言が飛び交っているので、インターネットは気が進まないけれど、

とにかく情報を得ようとSNSにアクセスする。

やけに情報の流れが遅い。

あまりSNSをたくさん使っている訳ではないけれど、

なんとなく、発言しているアカウントが少ない。

SNSはこんなに人が少なかっただろうか。

それでも断片的な情報は出てきた。

天使が降りてきたという情報。

穢れに満ちた世界を浄化しているという情報。

穢れてしまった人たちを天国を連れて行って、

みんな魂から浄化しているという情報。

この世界は聖なるもので満たされるだろうという情報。

情報は少ないけれど錯綜している。

ああ、僕の望んだ世界がやってきているんだ。

この世界が浄化されて怖く穢れたものがなくなるんだ。

そしたら僕は外に出ても苦しくなくなるんだ。

外はきっと聖なるものに満たされて安心できる場所になっているのだから。


僕は部屋の扉を開けた。

部屋の外はいろいろなものが壊れていて、

生きているものの気配がなくなっていた。

車も走っていない。

ああ、空気がとても清浄だ。

遠くで人影が空に上がっていく。

天国で浄化される人なのだろう。

この世界は聖なるもので満たされる。

その瞬間に立ち会えるなんて僕はなんて幸せなんだろう。


僕の前に天使が降りてきた。

僕は微笑んで天使の手を取った。

ああ、聖なるものはちゃんとやってきた。

ここに今、聖なるものはある。

僕の待ち望んでいた世界がやってくる。

「あなたの願いが叶います」

天使はそう言った。

僕の願い、それは世界が怖くない場所になって、

聖なるものに満たされること。

僕は天使と手をつないで空へと浮かぶ。

「さぁ、願いが叶う瞬間です」

天使は宣言する。


その瞬間、世界は白い光に包まれた。

何もかもが真っ白くなって何もなくなった。

怖いものも、穢れたものも、何もかもがなくなった。

世界は白い更地になった。

ああ、僕はこの世界を憎んでいたんだ。

なくなればいいと思っていたんだ。


僕は世界で一番穢れた願いを持っていた。

その願いは聖なる力で叶った。

僕はどうすれば救われるんだろう。

聖なるものは本当に聖なるものだったんだろうか。

聖なるものはどこにあったんだろう。

天国への扉を前に、僕は迷っていた。

僕は本当に救われていいんだろうか。

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