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第154話 貴公子なんかじゃない

顔が整ってるからって、

貴公子なんかじゃないんだけどな。


幼い頃から顔が整っていたので、

何かとちやほやされて育った。

親の遺伝子がいい感じで組み合わさったからであって、

俺が何かしたわけでもないし、

偶然の産物として顔が整っていた。

そこまではいいんだ。

ただ、ちやほやの度合いがなんかおかしいって、

しばらくしたら思うようになってきて、

なんか結構息苦しいんだ。


俺なりにいろいろと努力して、

勉強もがんばったし、

運動もがんばった。

結構上の方の成績が取れるようになった。

これは俺の努力なんだけど、

そこに、努力でない顔のことまで持ち出して、

顔が整っていて何でもできる貴公子にされたんだ。

この学校の貴公子って。

最初こそ俺も笑っていたけれど、

だんだん貴公子扱いがエスカレートしてきて、

結構窮屈になってきた。


俺だって友達が欲しいしバカ話がしたいし、

他愛のないことで盛り上がったりしたいんだ。

でも、貴公子はそんなことしないって、

いろんなことが制限されてくる。

女の子と話もしたいんだよね。

お付き合いってことじゃなくて、

女の子なりの話も聞きたいんだよね。

でも、貴公子と話すなんて抜け駆けだとされるからって、

女の子はみんなでちやほやはするけれど、

俺とお話ってことはしてくれなかった。

貴公子はスキャンダルをしてはいけないってことらしくて、

女の子と話もしないし、

また、悪ふざけもしないってことにされた。

学生の男の子の悪ふざけなんか、

俺はしてはいけないってことにされて、

男友達もできなかった。

俺はみんなの貴公子ってことにされて、

一般人が近づいてはいけないって方向にエスカレートしていった。

俺そんなんじゃないのになぁ。


運動も努力してかなり出来るようになったから、

いろんなスポーツも平均以上にできるようになった。

勉強の成績も伸びていった。

進路はどこも選びたい放題になった。

でも、心から話し合える友達はいなかった。

進路のことをざっくばらんに話し合えるような友達はいなかった。

先生たちは、俺を褒めてくれたけれど、

俺の悩みをわかってはくれなかった。


努力で得たことに、顔がプラスされて、

何でもできる貴公子にされるのは、

正直いらないものが足された気がしている。

ただ、親からもらった顔だから、

そのあたりは粗末にはできないとも思っている。

俺なりに貴公子扱いをどうにかできないかと考えた。

できるから貴公子扱いが止まらない。

できないことをもっと出していけば、

抜けていることをもっと出していけば、

貴公子でなく一人の学生になれるのではないかと俺は思いついた。


それから俺はいろんなことにチャレンジした。

今まで手を出してこなかった分野にどんどん飛び込んでいった。

料理をしてみたら、火加減がめちゃくちゃになった。

絵を描いたら落書きレベルだった。

楽器を演奏しようとしたら音が出なかった。

とにかく失敗という失敗を見せつけていった。

最初はみんな悲鳴を上げた。

貴公子がそんなことをするなんてと。

貴公子はもっと何でもできるもので、

手の届かないところであるべき、だったらしい。

俺はそれをことごとく壊した。

俺はできないことがこんなにもある。

俺は貴公子なんかじゃない。

俺はちょっと顔がいいだけの、ただの学生だ。

俺が失敗を繰り返していると、

だんだん周りにみんなが集まってきた。

ちやほやではない。

失敗する俺に親しみを感じてくれて、

話しかけてくれるようになった。


今ではバカ話もするようになってきたし、

さらにたくさんの失敗を繰り返して、

俺は何でもできるわけじゃないってことも周知されてきた。

ただ、顔がいいことは変わらないので、

お付き合いをする女の子はいまだいないままだ。

このあたりは女の子たちの抜け駆けが許されないらしく、

女の子たちのガードがものすごくかたい。

彼女欲しいなぁというのが俺の当面の悩みだ。

俺は貴公子なんかじゃない。

なんだかんだでモテない、下手に顔のいい学生だ。

まぁ、努力すればどうにかなると信じて、

明日も何かにチャレンジだ。


学生時代は今だけ。

息苦しくなく楽しめる方がいい。

貴公子扱いなんかされない方が、気楽でいいってことだ。

楽しんでいこう。

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