顔が整ってるからって、
貴公子なんかじゃないんだけどな。
幼い頃から顔が整っていたので、
何かとちやほやされて育った。
親の遺伝子がいい感じで組み合わさったからであって、
俺が何かしたわけでもないし、
偶然の産物として顔が整っていた。
そこまではいいんだ。
ただ、ちやほやの度合いがなんかおかしいって、
しばらくしたら思うようになってきて、
なんか結構息苦しいんだ。
俺なりにいろいろと努力して、
勉強もがんばったし、
運動もがんばった。
結構上の方の成績が取れるようになった。
これは俺の努力なんだけど、
そこに、努力でない顔のことまで持ち出して、
顔が整っていて何でもできる貴公子にされたんだ。
この学校の貴公子って。
最初こそ俺も笑っていたけれど、
だんだん貴公子扱いがエスカレートしてきて、
結構窮屈になってきた。
俺だって友達が欲しいしバカ話がしたいし、
他愛のないことで盛り上がったりしたいんだ。
でも、貴公子はそんなことしないって、
いろんなことが制限されてくる。
女の子と話もしたいんだよね。
お付き合いってことじゃなくて、
女の子なりの話も聞きたいんだよね。
でも、貴公子と話すなんて抜け駆けだとされるからって、
女の子はみんなでちやほやはするけれど、
俺とお話ってことはしてくれなかった。
貴公子はスキャンダルをしてはいけないってことらしくて、
女の子と話もしないし、
また、悪ふざけもしないってことにされた。
学生の男の子の悪ふざけなんか、
俺はしてはいけないってことにされて、
男友達もできなかった。
俺はみんなの貴公子ってことにされて、
一般人が近づいてはいけないって方向にエスカレートしていった。
俺そんなんじゃないのになぁ。
運動も努力してかなり出来るようになったから、
いろんなスポーツも平均以上にできるようになった。
勉強の成績も伸びていった。
進路はどこも選びたい放題になった。
でも、心から話し合える友達はいなかった。
進路のことをざっくばらんに話し合えるような友達はいなかった。
先生たちは、俺を褒めてくれたけれど、
俺の悩みをわかってはくれなかった。
努力で得たことに、顔がプラスされて、
何でもできる貴公子にされるのは、
正直いらないものが足された気がしている。
ただ、親からもらった顔だから、
そのあたりは粗末にはできないとも思っている。
俺なりに貴公子扱いをどうにかできないかと考えた。
できるから貴公子扱いが止まらない。
できないことをもっと出していけば、
抜けていることをもっと出していけば、
貴公子でなく一人の学生になれるのではないかと俺は思いついた。
それから俺はいろんなことにチャレンジした。
今まで手を出してこなかった分野にどんどん飛び込んでいった。
料理をしてみたら、火加減がめちゃくちゃになった。
絵を描いたら落書きレベルだった。
楽器を演奏しようとしたら音が出なかった。
とにかく失敗という失敗を見せつけていった。
最初はみんな悲鳴を上げた。
貴公子がそんなことをするなんてと。
貴公子はもっと何でもできるもので、
手の届かないところであるべき、だったらしい。
俺はそれをことごとく壊した。
俺はできないことがこんなにもある。
俺は貴公子なんかじゃない。
俺はちょっと顔がいいだけの、ただの学生だ。
俺が失敗を繰り返していると、
だんだん周りにみんなが集まってきた。
ちやほやではない。
失敗する俺に親しみを感じてくれて、
話しかけてくれるようになった。
今ではバカ話もするようになってきたし、
さらにたくさんの失敗を繰り返して、
俺は何でもできるわけじゃないってことも周知されてきた。
ただ、顔がいいことは変わらないので、
お付き合いをする女の子はいまだいないままだ。
このあたりは女の子たちの抜け駆けが許されないらしく、
女の子たちのガードがものすごくかたい。
彼女欲しいなぁというのが俺の当面の悩みだ。
俺は貴公子なんかじゃない。
なんだかんだでモテない、下手に顔のいい学生だ。
まぁ、努力すればどうにかなると信じて、
明日も何かにチャレンジだ。
学生時代は今だけ。
息苦しくなく楽しめる方がいい。
貴公子扱いなんかされない方が、気楽でいいってことだ。
楽しんでいこう。