そういえば、お風呂が好きになったのは、
あの絵本があったからだと、
疲れた身体を湯船に浸しながら思う。
その絵本は、子どもがお風呂に入っていると、
お風呂の中にいろいろな動物たちが出てきて、
みんなでお風呂を楽しむというものだ。
カメもいたな、ペンギンもいた。
カバもいたような気がする。
家の小さなお風呂が絵本の中では広く楽しいお風呂になり、
動物たちと身体を洗ったりシャワーを浴びたり、
湯船に浸かって数を数えたり、
それはそれは楽しい絵本だった。
私はこの絵本を幼い頃に読み聞かせしてもらって、
すぐにお風呂が大好きになった。
親と一緒にお風呂に入っていて、
幼いからお風呂のおもちゃなども一緒に入れて、
私の中では絵本に負けないくらいの楽しいお風呂になった。
親も楽しげに付き合ってくれて、いつも笑顔だった。
身体がピカピカになって、ホカホカになる、
お風呂が大好きになった。
今、私はとても疲れた大人になった。
ひどい人生を過ごして疲れたわけでなく、
いわゆる普通の人生を過ごしてきて、
一応仕事も持っていて、
その仕事で毎日疲れている程度の疲れた大人だ。
幼い頃は疲れなんて知らなかったなぁと思う。
毎日が楽しかった。
とにかく走り回って、新しいことがいっぱいで、
友達とは時々ケンカもするけれど、
おおむね仲良しだった。
幼い頃はエネルギーに満ちていたなと思う。
まぁ、これまで生きてきて、普通でないこともあったかもしれないけれど、
私はだいたい普通とされる人生を送ってきて、
いわゆる常識のレールをはずれなかったものだなと思う。
ありきたりな大人になったけれど、
それはそれでいいかと思う。
そして、ありきたりで疲れた大人には、
やはりお風呂がとても効く。
仕事を終えて帰ってきて、
毎日一人暮らしの部屋のお風呂に浸かる。
実家とは違って狭いお風呂ではあるけれど、
やはり湯船に浸かると疲れの取れ具合が全然違う。
幼い頃にはいろんな動物たちがお風呂に来てくれた。
親からすれば空想とされるかもしれないけれど、
私にとっては、たくさんの動物のお友達が来てくれていた。
疲れた大人になっても、
お風呂に入ると、たくさんの動物のお友達が来てくれる。
大人って大変だねと声をかけてくれたり、
いつの間にか広々としたお風呂の中でかけっこを始めたり、
クジラがシャワーをしてくれたり、
カバが泡を吹きだしたり、
ああ、お風呂はずっとあの時のままだと思う。
幼い頃の大好きな場所のまま、
ずっとお風呂はあり続けてくれている。
動物のお友達はいつもお風呂に来てくれている。
幼い頃のまま、私のそばにいてくれる。
私は疲れた大人になったけれど、
みんな変わらず無邪気で優しい。
お風呂は私が私に戻れる場所。
一番大好きな場所だ。
今夜もお風呂から上がって、寝るための身支度を始める。
お風呂の絵本は多分もう実家にもないだろう。
私が幼い頃のものだから、
ボロボロになって処分されたかもしれない。
何度も読み聞かせてもらった。
私がせがむと、親は何度だって読んでくれた。
そうだ、本屋に行ってあの絵本を探そう。
大の大人が絵本なんてと思われるかもしれないけれど、
あの絵本は私にとって特別なものだから、
この部屋にも置いておこうと思った。
お風呂が大好きになったあの絵本を、
また、読み返そう。
私はあいかわらずお風呂が大好きだ。
絵本でお風呂が大好きだったあの子も、
たくさんのお友達の動物たちも、
幼い頃から変わらず大好きだ。
明日にでも本屋に行こう。
そして、絵本にまた会おう。
みんな絵本の中でも待っていてくれている。
私は気持ちよく眠りにつく。
疲れはすっかり取れていて、
ぬくぬくとした身体が気持ちいい。
まどろみの中で、絵本のみんなが、
また、お風呂で待ってるからねと笑っていた。
明日も、大好きなお風呂でみんなに会おう。
お風呂は大好きな場所。
幼い頃からのお友達に会える場所。
そして、私のすべてが元の形に戻れる場所。
やっぱり、私はお風呂が大好きだ。