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第143話 偏屈な椅子職人

その椅子職人は偏屈で有名だった。

偏屈な上に、変な形の椅子しか作らない。

こだわっているのかもしれないけれど、

何をどうこだわっているのかわからない、

とにかく変な形の椅子を作り続ける、

とにかく変人だった。


私は、どれほどの変人なのかと、

その椅子職人に会いに行った。

まず連絡がなかなかつかなかった。

連絡が通じたかと思ったら、

会う約束を取り付けることができなかった。

訪れていいかを尋ねると、

連絡は一方的に打ち切られた。

それでもしつこく連絡を入れた。

私だとわかるたびに連絡を切られたけれど、

それでもしつこく連絡を入れた。

私のしつこさに、椅子職人の方が折れた。

会える日取りを約束してくれて、

私は偏屈椅子職人のアトリエへと行くことになった。

この話をすると、私も少しおかしいと言われる。

まぁ、少しばかり私もズレていることは自覚している。

とにかく私は椅子職人に会いに行った。


偏屈な椅子職人は、偏屈さが顔に出たおじいさんだった。

訪れた私の顔を見るなり、不機嫌そうに顔をしかめた。

とにかくは入れてうながされて、

私は椅子職人のアトリエに入った。

椅子職人のアトリエは様々の素材であふれかえっていた。

素材だけでなく、色彩もすごいことになっている。

偏屈な椅子職人は、こうやって散らかすことによって、

唯一の椅子の組み合わせが思いつくのだという。

その唯一の椅子を作るためには、

どんな素材も使えるようにしていないといけない。

我流で覚えたことがほとんどだが、

かなりの素材を使いこなせるようになったという。

すべては作りだす椅子のためであるという。

椅子を形にするために、素材を使いこなせないといけないということらしい。

この素材で椅子を作るのでなく、

あくまで思い描く唯一の椅子を作るために素材を使えるようにしているらしい。


それほどこだわる唯一の椅子というものは、

どんな風に思いついてどうやって作られるのだろうか。

私はとても強く興味を持った。

椅子職人にそれを尋ねたけれど、

椅子の方から頭にやってくるんだとしか言わなかった。

私は感覚をつかもうとする。

もしかしたら、唯一の椅子というものが、

椅子職人の頭にやってきて、

椅子職人は頭にやってきたその椅子を形にするために、

たくさんの素材や色彩を使いこなせるようになっているのかもしれない。

頭にやってくるという椅子は、

もしかしたら椅子の神様からの天啓かもしれない。

この偏屈な椅子職人は、

椅子の神様からの天啓を形にする椅子の聖職者なのかもしれない。

神から預かる言葉が預言であるとするならば、

椅子という形をとった預言みたいなものなのかもしれない。

そう思ったら、偏屈な椅子職人が神々しく見えてきた。

椅子の神に選ばれたものなのかもしれない。


私は、偏屈な椅子職人に土下座した。

どうか、弟子にしてくださいと。

私も頭にやってくる椅子を作れるような椅子職人になりたいと。

あなたのようになりたいと土下座して頼み込んだ。

椅子職人は不機嫌そうな顔から、静かな表情になった。

椅子のことしか教えられないが、いいのかと、椅子職人は尋ねる。

むしろ、それを教えてくださいと私は懇願する。

椅子職人は初めて笑った。

変な奴だなと。

私が変人であることは私が一番わかっている。

この椅子職人に変な奴だと笑われたことが、

私を受け入れられたような気分になって、

私も笑った。

椅子職人の散らかったアトリエに光が差し込んでくる。

それはまるで祝福の光のようだと私は思った。


私は今、偏屈な椅子職人の師匠とともに、

世界にひとつしかないような、唯一の椅子を作り続けている。

きっとみんなに理解されることはない。

私たちが作り続ける椅子は、

きっと椅子の神が座るための椅子だ。

しかるべき時に人々の前に神は現れて、

唯一の椅子に座る。

その時、神と椅子は最高の調和をもって人々を感動させるだろう。

偏屈な師弟は椅子を作り続ける。

椅子の神の天啓のままに。

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