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第137話 歓迎されない眼差し

あ、こりゃ歓迎されてないな。

眼差しから一発でわかった。


俺はいろいろなコロニーや惑星を渡る、宇宙の旅人だ。

宇宙船ともなると個人で持つことはちょっと高いので、

古語で言うところの、乗り合いってやつ。

乗り合い定期宇宙船で旅をしている。

昔は乗り合いバスってのがあったとか、歴史でやった。

運転する仕事の奴がいて、

料金払って色々な人が乗るってやつ。

バスってのが動画でしか見たことないけど、

あんなのでどこまで行けるんだかな。

古い時代は地上の道路というところしか走らなかったというから、

バスでもなんとかなったんだろうか。

今でも惑星の一部や、コロニーなどでは、

自動運転車体があるけれど、

古くはそこになるのかなぁ。


まぁ、俺は宇宙船を買えない宇宙の旅人で、

乗り合いの定期宇宙船に乗って、

いろんなところを旅している。

さまざまの文化がそれぞれにあって、

だいぶ前に、すべての言語が翻訳できる端末ができて、

物の売り方も、端末を通して楽にできるようになった。

言葉が通じない頃は、

この品物が通貨でいくら程度でどんな材質のものか、

それを説明するのに相当手間取ったと聞く。

星間通訳がその頃にはいたらしい。

あっちこっち引っ張りだこだったとか。

星間通訳は、端末で翻訳しきれない翻訳を今でもしているらしい。

例えば、娯楽の翻訳は微妙なニュアンスが物を言う。

乱暴に翻訳しては、その場所の文化が伝わらないこともある。

あと、惑星間コロニー間、いろいろな星の偉い方々の通訳。

これも、微妙なニュアンスが伝わらないと、

経済戦争になったり、

悪くなるとミサイルまで出てくるとかどうとか。

いろんな仕事があって、どれも大事なんだよな。

俺は乗り合いの定期宇宙船に乗りながら、

いろいろな仕事をする誰かを見てきた。

俺は基本地球人をルーツに持っている。

何代前かに他の惑星の血が入っているかもしれないけれど、

外見はルーツの地球人的なものだ。

俺はいろいろな惑星やコロニーをめぐって、

そこで珍しいものを仕入れて、

乗り合いの定期宇宙船に乗って、遠くの場所でそれを売る。

宇宙船もいろいろあって、

空間をゆがめてワープできるものもあるとか。

しかし、空間をゆがめると、

宇宙船の中にあるものが変質する可能性があるとか言われていて、

相当な急ぎでない限り、

ワープは基本つかわれないらしい。

なんだかエネルギー使うらしいから、

ワープは金持ちしかできないんだよな。


俺は、とある惑星の小さな町で仕入れたものを背負って、

乗り合いの定期宇宙船に乗り込む。

俺的にはいいものが仕入れられたと思う。

俺はそれなりに気分がよかったけれど、

眼差しに気が付いた。

乗り合いの連中の眼差しが、明らかに歓迎していない。

怒っているような、迷惑そうな眼差しだ。

俺なりになんでだろうかと考える。

いつも乗り合い定期宇宙船に乗っていて、

これほど迷惑がられたのは初めてだ。

だとしたら、今回仕入れたものだろうか。

どこかの星をルーツに持つであろう、女性が俺に話しかけてきた。

「そのにおいが、ちょっと困るの」

彼女なりにぼかした言い回しだということは俺でもわかった。

つまりは、この荷物が臭いらしい。

地球人をルーツに持っているものでも、

地球人の中のいろいろなルーツがあって、

そのルーツ次第では耐えられないにおいだと聞いたことがある。

ただ、このにおう荷物は、一部の地球人ルーツのものには、

ものすごく美味いものだとして評判なんだ。

これが手に入る地域は限られていて、

また、相手は食べたいから高く売れるんだ。

しかし、においが耐えられないのもわからないでもない。

地球人ルーツでなければ、嗅覚がもっと優れているかもしれないし、

嗅いだことのないにおいかもしれない。

腐ったようなにおいと思うかもしれない。

俺は、とりあえず乗り合い定期宇宙船で話を始めた。


俺の地球人のルーツは、島国にある。

その国では豆を菌で発酵させる。

腐敗ではないんだ。

発酵もいろいろあるけれど、

この荷物はその中でもかなり特殊な菌で発酵させている。

古い言葉そのままに、ナットーと呼ばれているんだ。

ナットーをはじめとした特殊食品が、

地球人の島国ルーツのものに高く売れるんだ。


眼差しが歓迎しないものから興味に移る。

そのくさい豆を食べる変な島国のことを話してくれと言われた。

俺は乗り合い定期宇宙船の中で、

古い島国の話をする。


昔々あるところに。

日本と呼ばれる島国がありました。

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