あ、こりゃ歓迎されてないな。
眼差しから一発でわかった。
俺はいろいろなコロニーや惑星を渡る、宇宙の旅人だ。
宇宙船ともなると個人で持つことはちょっと高いので、
古語で言うところの、乗り合いってやつ。
乗り合い定期宇宙船で旅をしている。
昔は乗り合いバスってのがあったとか、歴史でやった。
運転する仕事の奴がいて、
料金払って色々な人が乗るってやつ。
バスってのが動画でしか見たことないけど、
あんなのでどこまで行けるんだかな。
古い時代は地上の道路というところしか走らなかったというから、
バスでもなんとかなったんだろうか。
今でも惑星の一部や、コロニーなどでは、
自動運転車体があるけれど、
古くはそこになるのかなぁ。
まぁ、俺は宇宙船を買えない宇宙の旅人で、
乗り合いの定期宇宙船に乗って、
いろんなところを旅している。
さまざまの文化がそれぞれにあって、
だいぶ前に、すべての言語が翻訳できる端末ができて、
物の売り方も、端末を通して楽にできるようになった。
言葉が通じない頃は、
この品物が通貨でいくら程度でどんな材質のものか、
それを説明するのに相当手間取ったと聞く。
星間通訳がその頃にはいたらしい。
あっちこっち引っ張りだこだったとか。
星間通訳は、端末で翻訳しきれない翻訳を今でもしているらしい。
例えば、娯楽の翻訳は微妙なニュアンスが物を言う。
乱暴に翻訳しては、その場所の文化が伝わらないこともある。
あと、惑星間コロニー間、いろいろな星の偉い方々の通訳。
これも、微妙なニュアンスが伝わらないと、
経済戦争になったり、
悪くなるとミサイルまで出てくるとかどうとか。
いろんな仕事があって、どれも大事なんだよな。
俺は乗り合いの定期宇宙船に乗りながら、
いろいろな仕事をする誰かを見てきた。
俺は基本地球人をルーツに持っている。
何代前かに他の惑星の血が入っているかもしれないけれど、
外見はルーツの地球人的なものだ。
俺はいろいろな惑星やコロニーをめぐって、
そこで珍しいものを仕入れて、
乗り合いの定期宇宙船に乗って、遠くの場所でそれを売る。
宇宙船もいろいろあって、
空間をゆがめてワープできるものもあるとか。
しかし、空間をゆがめると、
宇宙船の中にあるものが変質する可能性があるとか言われていて、
相当な急ぎでない限り、
ワープは基本つかわれないらしい。
なんだかエネルギー使うらしいから、
ワープは金持ちしかできないんだよな。
俺は、とある惑星の小さな町で仕入れたものを背負って、
乗り合いの定期宇宙船に乗り込む。
俺的にはいいものが仕入れられたと思う。
俺はそれなりに気分がよかったけれど、
眼差しに気が付いた。
乗り合いの連中の眼差しが、明らかに歓迎していない。
怒っているような、迷惑そうな眼差しだ。
俺なりになんでだろうかと考える。
いつも乗り合い定期宇宙船に乗っていて、
これほど迷惑がられたのは初めてだ。
だとしたら、今回仕入れたものだろうか。
どこかの星をルーツに持つであろう、女性が俺に話しかけてきた。
「そのにおいが、ちょっと困るの」
彼女なりにぼかした言い回しだということは俺でもわかった。
つまりは、この荷物が臭いらしい。
地球人をルーツに持っているものでも、
地球人の中のいろいろなルーツがあって、
そのルーツ次第では耐えられないにおいだと聞いたことがある。
ただ、このにおう荷物は、一部の地球人ルーツのものには、
ものすごく美味いものだとして評判なんだ。
これが手に入る地域は限られていて、
また、相手は食べたいから高く売れるんだ。
しかし、においが耐えられないのもわからないでもない。
地球人ルーツでなければ、嗅覚がもっと優れているかもしれないし、
嗅いだことのないにおいかもしれない。
腐ったようなにおいと思うかもしれない。
俺は、とりあえず乗り合い定期宇宙船で話を始めた。
俺の地球人のルーツは、島国にある。
その国では豆を菌で発酵させる。
腐敗ではないんだ。
発酵もいろいろあるけれど、
この荷物はその中でもかなり特殊な菌で発酵させている。
古い言葉そのままに、ナットーと呼ばれているんだ。
ナットーをはじめとした特殊食品が、
地球人の島国ルーツのものに高く売れるんだ。
眼差しが歓迎しないものから興味に移る。
そのくさい豆を食べる変な島国のことを話してくれと言われた。
俺は乗り合い定期宇宙船の中で、
古い島国の話をする。
昔々あるところに。
日本と呼ばれる島国がありました。