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第133話 花踊る花笑う

華道をたしなんで何年もになる。

私はまだ花と踊れない。


華道を始めようと思ったのは、

地域でやっていた華道の展覧会からだった。

なんだか地域の大きめのホールで、

地域の流派が集っているらしく、

とにかく数はたくさんあった。

私はそのホールの近くに用事があって、

時間が空いたからなんとなくホールに入って、

花をながめて回った。

どれもこれもとりあえず花だなぁという感想しか最初は持てなかった。

時間つぶしたら出るかと、歩いていた時、

その花に出会った。


その作品は、花が踊っていた。

花が笑っているのがわかった。

私は衝撃を受けた。

花に表情があって生きている。

生け花というくくりになるのかもしれないけれど、

これは花を見事に踊らせている。

花が生き生きとしている。

私の中で華道の見方が一瞬にして変わった。

華道とは、花を踊られることもできる。

花を生かすから生け花。

花に命や感情まで宿すのが華道なんだと。

私はその衝撃の中で思った。


私はその衝撃の余韻のまま、

ホールの中の作品を再び眺めた。

どの花もそれぞれの個性で笑っている。

踊っていたり、舞を舞っていたり、

静かにたたずんでいたり、

礼儀正しくお辞儀をしていたり、

はじけるステップを踏んでいたり、

それぞれがそれぞれの個性で生きている。

この会場すべての花が笑っている。

これが、華道。

私はこの瞬間、華道を始めようと思った。

花と踊りたい。

花と笑いたい。

はじまりはそこからだった。


私は華道の教室の門をたたいた。

先生に教わりながら、花を生けるということを覚える。

私が生けた花は、あの時の会場のように生き生きとしていなくて、

ただ、花がそこにあるという程度。

しかも、ぐったりとしている。

元気のない花が、私の始まりの生け花だった。

それからも生け花を続けてきたけれど、

続けていて思うのは、

あの時会場に出せるほどの腕前を持った華道家というものは、

相当の華道の経験を積んでいるものだということ。

始めたばかりの私では到底追いつけないということ。

花が踊るほどのレベルには、

まだまだ遠いということ。

あの会場で花が踊っていたのは、

達人のレベルだったんだということ。

私ごときが花を踊らせるのは、

今のレベルでは無謀ということ。

無謀、そうかもしれないけれど、

私は花を踊らせたいと思う。

いつか、私の手で花に命を吹き込んで踊らせたいと。

それを目指して私は花を生ける。


ある時、華道のおけいこの最中、

ここにこの花があったら心地いいなという感覚があった。

試しに、花を水切りして生けてみる。

私の生けた花は、心地いい形になった。

その瞬間、花が微笑んだ。

そう、ここだよと言われた気がした。

花が笑った。

私の手で花が笑った。

花を心地よくさせることができた。

花に少しの命を吹き込んで生かせることができた。

これが、生け花。

私は、自分の目指している道が、間違っていないと思った。

花を踊らせるにはまだ至らないけれど、

このまま進んでいっていいんだ。

花が微笑む方に進んでいっていいんだ。

道は遠いけれど、

花が心地よく笑う方に進んでいけば、

きっと花と踊る未来がある。

それは私と花の望んだ世界なのかもしれない。


私は今でも花と戯れ続ける。

まだ花を踊らせることはできないけれど、

時々花が心地よく笑ってくれる。

私の行く道は、花の咲く道。

私が向かう方に、花がある。

花はいつでも私の道しるべになってくれていて、

私が花を心地よくさせると、

花は心からの笑顔をくれる。

いつかあの会場で見た花たちのように、

花を踊らせて輝かせたいと思いながら、

私は花と戯れ続ける。


道は遠く。笑う花に満ちて。

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