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第131話 雑音に満ちたネットワークと静かの海

ネットワークは雑音に満ちている。


この世の中と、大きなくくりにするのも、よくないとは思うけれど、

この世の中は、特にネットワークは、

雑音に満ちている。

いわゆるインターネット、いわゆるSNS。

気軽に目にできるところには、

いつも雑音が付きまとう。

知りたいことが雑音にかき消されて、

めちゃくちゃな情報が飛び交っている。

視覚にも聴覚にもうるさい。

あまりにも雑音が多すぎて、

私の方がおかしいんじゃないかと思うほどだ。

みんなはこの雑音の海を乗りこなせているのだろうか。

私には到底無理だ。

雑音のネットの海は乗りこなすものじゃない。

ただただうるさくて、飲みこまれそうになる。


ネットワークの海で溺れながら、

私は雑音の少ない場所を探す。

視覚にも聴覚にもうるさくない、静かな場所。

欲しい情報が雑音無しで手に入り、

落ち着ける場所。

私はそんな場所を求めた。

検索などではなかなか見つからなかった。

口コミもあてにならなかった。

私はネットワークの海をさまよった。

どこかに静かな場所がないか。

そんな場所を一人探し続けた。


ある時、どこにも情報が載っていない場所に行きついた。

どこをどうクリックしたのか、

リンクをどうたどったのか、

どうやって行きついたか思い出せない。

ただ、そこは私の求めていた場所だった。

雑音がなく、情報は必要なものがあり、

どこもかしこも静かで、落ち着く。

そこは、静かの海という名前らしかった。

常連と思われるユーザーともすぐに打ち解けた。

みんな、ネットワークの雑音に嫌気がさしていた。

みんな、ある時ふと、この静かの海にやってきたらしい。

誰が運営しているのかも謎で、

ただただ落ち着く場所だ。


私は静かの海に入り浸った。

誰も私の素性などを聞き出そうとしなかった。

互いのことは基本干渉せず、

助けを求められたら手を差し伸べる。

必要な情報はすぐに調べられて、

関連する雑音のような情報は流れてこない。

これに興味があるかもしれないなどと、

よくわからないものも流れてこない。

知り合いかもしれないユーザーなども紹介されてこない。

必要なものはあるけれど、必要な分だけある。

過剰なものはない。

また、不足しているものもない。

静かの海は穏やかに包み込むようにそこにあり続ける。


私はどうやってこの静かの海にたどり着いたのだろうか。

あるいはこの静かの海は、

ネットワークの彼岸なのだろうか。

ネットワークの海で溺れて、ネットワーク上で死んでしまったものが集まる、

ネットワークのあの世というものなのかもしれない。

それならば大体のことは説明がつく。

私がふいに静かの海にたどり着いたことも、

どのような道筋でたどり着いたかわからないことも。

私はネットワークに乗り切れなくて、溺れて死んだような存在なのかもしれない。


静かの海は今日も静かに。

現実の私はそれなりに現実を生きて、

空いた時間にネットワークの彼岸にやってくる。

楽園が騒がしいものとは思わないから、

ある意味静かの海は、私にとって楽園のような場所なのかもしれない。

ネットワークの雑音で溺れて死んだ私は、

静かな天国で悠々自適に過ごしている。


別に静かの海に来ることを強制はしないよ。

ただ、雑音に疲れたら、きっと静かの海が呼んでいる。

君も落ち着ける場所だと思うよ。

疲れ果てたらおいで。

静かの海で穏やかにゆっくり過ごそう。

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