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第130話 侵食してくる偽物の妄想

これは本当に私の妄想なのだろうか。


私は妄想をすることを趣味としている。

妄想はとりあえず妄想の範囲であれば、

誰にも迷惑はかけないし、

犯罪になることもない。

あまり他人をじろじろ見て妄想していると、

それはそれで気味悪がられてしまうけれど、

ぼんやり妄想をしている分には、無害なものだと思う。

私はそんなぼんやりとした妄想を趣味としている。


頭の中に流れる妄想を、ノートに書き留める。

妄想はどこにでも飛べる。

見たことのない場所だって、妄想ならばひとっ飛びだ。

世界が始まる瞬間を妄想したり、

宇宙の果てを妄想したりすることもあるし、

たくさんの人間の願いにてんやわんやしている神様を妄想することもあるし、

歩いているあの女性は異世界から来て、まだこちらの世界に不慣れだと妄想することもある。

あの子どもは変身してヒーローになるし、

あの女子学生は、将来トップアイドルになるし、

運動部の仲間たちらしい男子学生たちには、

どこの漫画にもないドラマがあったりする。

私の妄想はどこまでも自由だ。

そんな自由なとりとめのない妄想を、

私はノートに綴っていく。

妄想の旅日記のようなもので、

私は読み返すたびに、ちょっと微笑む。

私の妄想はそんな妄想だった。


最近、ノートに綴っていく妄想に、

私が妄想したことのない妄想が混じる気がしている。

私の筆跡に似ているのだけど、

私はこんな妄想をしたことがないというのが混じっている。

ノートが私の妄想の旅日記だとすれば、

行ったことのないところが書かれているような気味悪さだ。

混じった妄想は、私の平和な妄想とは質が違う。

何かを貶めたり、醜聞であったり、差別であったり、

どこか遠くの国で苦しみがあるものであったり、

政治に関するものも混じっているし、

戦争でどれだけむごたらしいことが起きているかも書かれている。

私の妄想とは質が違う。

妄想で旅に出ているのとはなんだか違う。

それでもノートに書かれている妄想の筆跡は私のもので、

私は混乱する。

考えていない妄想なのにノートに残すなんてことがあるのだろうか。

そもそもいつこんなものを書いたのだろうか。


ノートの妄想の傾向はどんどん変わっていく。

ノートの妄想は、どんどん侵食されていく。

私が妄想したことのない妄想が、

ノートを乗っ取っていく。

私は自分の記憶を疑い始める。

本当は私がこの妄想をしていたのではないか。

私の妄想は、本当はこんなものではないのか。

人の醜さを凝縮したような妄想が、

私の本来の妄想なのではないか。

私は頭を振る。

いや、そもそもこの妄想の記憶がない。

何かがおかしいと思う。

侵食してくる妄想は、やはり何かがおかしい。


私は、妄想のノートを開き、

「偽物の妄想が侵食してくる」

と、一文を書く。

そのあとに、

「偽物の妄想は、純粋な妄想には勝てない」

という、私の妄想を書き加える。

すると、ノートに勝手に文字があらわれる。

「これが本当の妄想だ、と」

私はそこに一文を書く。

「偽物の妄想は純粋な妄想に食べられて消える。誰とも知れない偽物の妄想は消える」

その瞬間、妄想を書き綴ったノートから、

私の記憶にない妄想が消えていった。

ノートはやたら空白が目立つようになった。


これからもこの妄想ノートを妄想で埋めていこう。

私の妄想は、なんだか腹が膨れて満足している。

また、元気にいろいろな妄想をしていこう。

誰にも迷惑をかけない。

誰も傷つけない。

私自身も楽しい。

そんな妄想の旅をしていこう。

私の妄想は私だけのもの。

誰かの妄想は遠慮したいね。

勝手に入ってこられたら、やっぱり迷惑だなぁ。


私はまた、ぼんやりと平和に妄想をする。

この時間は邪魔されたくないね。

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