月の満ち欠けがあるということ。
だいたい周期で変わってることは、なんとなくわかると思う。
太陽とか地球とか月の位置で、満ち欠けなんかができて、
海の満ち引きなんかも関係あるとかどうとか。
まぁ、それは一般的な話だ。
俺のような職になると、月は別の意味を持つ。
俺は月狂い狩り。
おもに月が欠けていくときに狂いだすものを狩る仕事をしている。
月が欠けていくときに狂っていくそいつらを、
俺たちはカタカナでツキと呼ぶ。
カタカナなのはずいぶん前からそうなのだが、
憑き物のツキとかけているのかもしれない。
まぁ、細かいことはよくわからんが、
俺たちは月が欠けていくときに狂いだす、ツキを狩っている。
ツキが狂う時は、
だいたい食欲から狂っていく。
終わらない空腹が狂い始めるサインだ。
いわゆる一般人もツキになる可能性はある。
ツキになるのは特殊な何かがあるわけでない。
ウイルスでもないし、脳がやられるとも違う。
憑き物になるような感じではあるけれど、
どこに行って何をしたからツキになるということはない。
月に魅入られたらツキになるとは聞いたことがある。
美しい月をながめすぎると、
月が消えていくときに狂うとか言われている。
あくまで噂程度だ。
実際のところ、ツキになるきっかけになるものは、まだよくわかっていない。
ただ、月が欠けていくときに、異様な食欲が出始める。
月が日に日に欠けていくと、空腹が増していき止まらない。
それがツキとなって狂いだすサインだ。
月が欠けていくとき。
それは、月の腹が減っていくのだという。
学者さんがツキを尋問したときに、
ツキはそんなことを言ったらしい。
月が腹を空かせている。
ツキも腹を空かせている。
目にしたものを食べて月を満たしていかなければならない。
やせ細った月でなく、
丸々と満ちた月にしなければならないらしい。
そのためにツキは目にしたものを食う。
それが食べ物であるうちはまだいいが、
狂ったツキは何でも食べ始める。
石、金属、動物、人。
目についたら何でもだ。
そこまで狂ってしまったら、狩るしかない。
そこまでのツキになってしまったら戻れない。
大ごとになる前に、俺たちがちゃんと狩るしかない。
月が欠けていくときは、あちこちで狂ったツキが腹を空かせている。
俺たちの仕事は終わることがない。
ごくまれに、ツキが凶暴なほど狂うことがある。
月食の時だ。
その時は、ツキの狂った食欲が凶暴性をさらに増して、
さながら化け物になる。
憑き物というレベルでない。
もともとの姿がないほどの化け物になり果てる。
そんなのが月食の際にはあちこちに現れ、
あらゆるものを貪り食わんとする。
ツキは腹を空かせて狂っている。
月食の時は、俺たちも命をかけた狩りになる。
負ければ食われておしまいだ。
月は天体。そう思えればまず大丈夫だ。
美しい天体。そのあたりもまだ大丈夫だ。
月の満ち欠けと食欲がリンクし始めたようだったら、
少し注意をしてほしい。
ある程度月の満ち欠けと元気などはリンクするものだが、
月が欠けていくときに食欲が異様に増すようだったら、
それ以上食欲が増さないように気を付けて欲しい。
あの月を満ちた月にしたいから食べなくてはと思い始めたら、
ツキになり始めのサインかもしれない。
しかるべきところに相談をしてほしい。
月に狂わされたものはたくさんいるだろうさ。
ツキに食われたものもたくさんいる。
それは月の影のように見えないものだ。
月が細くなって影ばかりになる頃、
見えないところで、俺たちとツキが戦いを繰り広げている。
見えないならそれでいい。
月がきれいだと思えるならば、それはそれでいいことなんだ。
月の闇の部分は、知らなくていいことなのさ。
あんたは明るい場所を生きてくれ。