目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第128話 月が腹を減らしている

月の満ち欠けがあるということ。

だいたい周期で変わってることは、なんとなくわかると思う。

太陽とか地球とか月の位置で、満ち欠けなんかができて、

海の満ち引きなんかも関係あるとかどうとか。

まぁ、それは一般的な話だ。

俺のような職になると、月は別の意味を持つ。

俺は月狂い狩り。

おもに月が欠けていくときに狂いだすものを狩る仕事をしている。

月が欠けていくときに狂っていくそいつらを、

俺たちはカタカナでツキと呼ぶ。

カタカナなのはずいぶん前からそうなのだが、

憑き物のツキとかけているのかもしれない。

まぁ、細かいことはよくわからんが、

俺たちは月が欠けていくときに狂いだす、ツキを狩っている。


ツキが狂う時は、

だいたい食欲から狂っていく。

終わらない空腹が狂い始めるサインだ。

いわゆる一般人もツキになる可能性はある。

ツキになるのは特殊な何かがあるわけでない。

ウイルスでもないし、脳がやられるとも違う。

憑き物になるような感じではあるけれど、

どこに行って何をしたからツキになるということはない。

月に魅入られたらツキになるとは聞いたことがある。

美しい月をながめすぎると、

月が消えていくときに狂うとか言われている。

あくまで噂程度だ。

実際のところ、ツキになるきっかけになるものは、まだよくわかっていない。

ただ、月が欠けていくときに、異様な食欲が出始める。

月が日に日に欠けていくと、空腹が増していき止まらない。

それがツキとなって狂いだすサインだ。


月が欠けていくとき。

それは、月の腹が減っていくのだという。

学者さんがツキを尋問したときに、

ツキはそんなことを言ったらしい。

月が腹を空かせている。

ツキも腹を空かせている。

目にしたものを食べて月を満たしていかなければならない。

やせ細った月でなく、

丸々と満ちた月にしなければならないらしい。

そのためにツキは目にしたものを食う。

それが食べ物であるうちはまだいいが、

狂ったツキは何でも食べ始める。

石、金属、動物、人。

目についたら何でもだ。

そこまで狂ってしまったら、狩るしかない。

そこまでのツキになってしまったら戻れない。

大ごとになる前に、俺たちがちゃんと狩るしかない。

月が欠けていくときは、あちこちで狂ったツキが腹を空かせている。

俺たちの仕事は終わることがない。


ごくまれに、ツキが凶暴なほど狂うことがある。

月食の時だ。

その時は、ツキの狂った食欲が凶暴性をさらに増して、

さながら化け物になる。

憑き物というレベルでない。

もともとの姿がないほどの化け物になり果てる。

そんなのが月食の際にはあちこちに現れ、

あらゆるものを貪り食わんとする。

ツキは腹を空かせて狂っている。

月食の時は、俺たちも命をかけた狩りになる。

負ければ食われておしまいだ。


月は天体。そう思えればまず大丈夫だ。

美しい天体。そのあたりもまだ大丈夫だ。

月の満ち欠けと食欲がリンクし始めたようだったら、

少し注意をしてほしい。

ある程度月の満ち欠けと元気などはリンクするものだが、

月が欠けていくときに食欲が異様に増すようだったら、

それ以上食欲が増さないように気を付けて欲しい。

あの月を満ちた月にしたいから食べなくてはと思い始めたら、

ツキになり始めのサインかもしれない。

しかるべきところに相談をしてほしい。


月に狂わされたものはたくさんいるだろうさ。

ツキに食われたものもたくさんいる。

それは月の影のように見えないものだ。

月が細くなって影ばかりになる頃、

見えないところで、俺たちとツキが戦いを繰り広げている。

見えないならそれでいい。

月がきれいだと思えるならば、それはそれでいいことなんだ。

月の闇の部分は、知らなくていいことなのさ。


あんたは明るい場所を生きてくれ。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?