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第50話 くすり

へい、毎度、薬屋です。

あたしが商っているのは薬。

へい、薬を商ってます。

え?どんなのかって?

そりゃ、治すお薬ですよ。

いろんな病気のお薬を商ってます。

病気もいろいろでしてね、

それに合わせた薬が必要ってわけですよ。

それであたしのような薬屋が出るわけです。


健康な人にゃ売りませんさ。

あたしが相手にするのは、病んだ人。

医者にかかったほうがいいとか、

そういう人なんだけどね。

なんでだか、あたしのところには、

どうしようもない人ばかり当たるのさ。

なんでだろうねぇ。


え?どうしようもない人?

それゃあんた、どうしようもない人さ。

医者がさじを投げるか、

医者にかかっても原因がわかんないとか、

もう、医者も普通の薬局も相手にしないような人。

そんな人があたしの相手でね。

何の因果でしょうねぇ、

そういう人こそ、あたしの薬が効くんですよ。


あたしの薬は、人によっちゃあ救いなんだそうですよ。

薬を飲んで効いていく間、

それまで険しかった顔が、

喜びに変わっていき、

涙を流して穏やかな顔になっていくのを、

あたしは何度も見ました。

死ぬんじゃないですよ。

勘違いされますがね。

ん?覚せい剤でもないですよ。

そんな外道を使うものですか。


あたしの薬はどうしようもないものを治すんです。

どこに作用するかというとね…おっと、

これは企業秘密ってやつです。

とにかくどうしようもないそれを、

あたしの薬は治して、

それが救いになっている。

あたしはそんな仕事に誇りを持っているわけですよ。


宗教でも医療でも道徳でも、

あたしはなんでもないんだと思います。

あたしは薬を売る。

それこそ、どうしようもない人にね。

そして、ある種の救いを持たせる。

多分どうしようもなくなったら、

あたしはあなたのところへ行きますよ。

そしたら、薬をためらわず飲んでくださいな。


今までの人のように、

きっとあなたも救われるはずさ。

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