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第35話 路人

多分、私は路地から生まれた。


路地からにじみ出る何かが、私の親といえば親。

私はそれをまとって生まれた。

暗く汚い路地で、私はひっそり産声を上げる。

暗がりは優しく私を包む。

遠い喧騒は、希望の現れ。

私はぼろをまとい生きはじめる。

路地から這うようにして生きはじめる。

私はここにいる。


生きることをつなぐ生き方。

路地から生まれた私には、

その日を生きることでいっぱいだ。

残飯をあさり、野良猫のように生きる。

希望らしい希望があるわけでない。

ネオンはけたたましいけれど、

癒してくれるわけでもない。

私は町を歩く。

路地生まれの私には、町は広すぎる。

人波は多すぎて、くらくらする。

私は路地の暗がりをまとって生きる。

多分、私は路地から生まれたのだから。


私はここにいる。

少ない時間の中で、私は私なりにわかりはじめる。

私はこの人波と違うのかもしれない。

私は何も持っていない。

ぼろをまとって、暗がりをまとっている以外、

私には何もない。

言葉もない。もしかしたら意味もないのかもしれない。

暗がりから生まれた私はなんだろう。

人波の人とは違うのだろうか。

あれとは違うのだろうか。

人はどうして生まれているのだろう。

どうしてあんなに、しっかりしていながら揺らめくのだろう。

確実なものが何もないのに歩けるのだろう。


私は戻る。

懐かしい路地に戻る。

暗がりに身をゆだねる。

ため息と、涙が生まれる。

私は路地から生まれた。

そして、帰る場所も路地なのだ。

私はひっそり路地から消えよう。

そしてまた、路地から生まれるのかもしれない。

それを命というかはわからない。


多分、私は路地から生まれた。

あなたのそばも、通り過ぎていったかもしれない。

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