こぶしをぎゅっと。
逃げないように、ぎゅっと。
この状況から逃げないように、こぶしをつくる。
逃げない、負けない、そらさない。
あいつの頭を殴ってやれ。
始まりなんて覚えていない。
どこから逃げて、自分の思わないことになってしまったか。
昔はもっと夢があったはずと思う。
お金持ちだっただろうか。
平凡な家庭だっただろうか。
夢があったはずと思う。
どうしてこんなことになっているのだろう。
どうしてこぶしを握り締めているのだろう。
にげるな、まけるな、そらすな。
このこぶしで叩け。
全部の思いを叩きつけろ。
逃げない。絶対逃げない。
これ以上逃げないと思う。
夢を全て逃がしてしまった代償に、
このこぶしを手に入れた。
それは戦うということかもしれない。
小さな、何かになりたいという夢は、
身体の傷に成り代わった気がする。
身体に傷をまとい、戦ってきた証。
逃げてきた結果が、逃げないこの状況になっている。
もう逃げるもんか。
もう負けるもんか。
目をそらすもんか。
一つ一つのこぶしに、暴れる気持ちを全部叩きつける。
こぶしは夢を見ない。
戦いの中に夢を見る。
相手が何かを夢見ていることを、見る。
それは一攫千金だったり、
愛するわが子のためだったりする。
それを全て叩きつけて、屈服させて、
こぶしは血にまみれる。
逃げないこぶしは夢を見ない。
叩きつけるこぶしは、あらぶる感情だけを持っている。
いろいろなことを考えていた過去を、
それこそ逃がしてしまったのかもしれない。
こぶしを握れ。
殴ってやれ。
逃げた夢もみんな、殴ってやれ。