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第34話 こぶし

こぶしをぎゅっと。

逃げないように、ぎゅっと。

この状況から逃げないように、こぶしをつくる。

逃げない、負けない、そらさない。

あいつの頭を殴ってやれ。


始まりなんて覚えていない。

どこから逃げて、自分の思わないことになってしまったか。

昔はもっと夢があったはずと思う。

お金持ちだっただろうか。

平凡な家庭だっただろうか。

夢があったはずと思う。

どうしてこんなことになっているのだろう。

どうしてこぶしを握り締めているのだろう。


にげるな、まけるな、そらすな。

このこぶしで叩け。

全部の思いを叩きつけろ。

逃げない。絶対逃げない。

これ以上逃げないと思う。

夢を全て逃がしてしまった代償に、

このこぶしを手に入れた。

それは戦うということかもしれない。

小さな、何かになりたいという夢は、

身体の傷に成り代わった気がする。

身体に傷をまとい、戦ってきた証。

逃げてきた結果が、逃げないこの状況になっている。

もう逃げるもんか。

もう負けるもんか。

目をそらすもんか。

一つ一つのこぶしに、暴れる気持ちを全部叩きつける。


こぶしは夢を見ない。

戦いの中に夢を見る。

相手が何かを夢見ていることを、見る。

それは一攫千金だったり、

愛するわが子のためだったりする。

それを全て叩きつけて、屈服させて、

こぶしは血にまみれる。

逃げないこぶしは夢を見ない。

叩きつけるこぶしは、あらぶる感情だけを持っている。

いろいろなことを考えていた過去を、

それこそ逃がしてしまったのかもしれない。


こぶしを握れ。

殴ってやれ。

逃げた夢もみんな、殴ってやれ。

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