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第15話 足音

そこは薄暗い通りと思ってほしい。

上を仰いでも、星など見えないと思ってほしい。

天井があるのか無いのか、

とにかく暗い。

そこは、あまり広くない通りだ。

人が3人も横に並べばいっぱいになる。

決して大通りではない。

そんな通りのことと思ってほしい。


その通りに面して、

一つの古びた靴屋があると思ってほしい。

薄暗いその通りに面して、

古臭い蛍光灯のついた看板を、控えめに出している。

決して大きくない靴屋だ。

なにがし靴屋。

なにがしというのは、特に物語に関係ないと思ってほしい。

とにかく、古びた靴屋が、薄暗い通りに出ている。

それだけでいい。


古びた靴屋は、

薄暗いこの時間は、

看板の灯りも消して、

シャッターを下ろしていた。

通りは静かで、

薄闇に隠れるようにしている、その通りのほかの建物も、

一様に、静かに店を閉めていた。


ぱた、ぱた、ぱた


音がすると思ってほしい。

かすかな音だ。

右、左、右と交互に立てる、

足音。

硬質なものの触れない、

裸足のような足音と思ってほしい。


ぱた、ぱた、ぱた


裸足の足音は、薄暗い中をかすかに鳴っている。

そして、ふと、裸足の足音が止んだ。


静かな間がある。


古びた靴屋の看板の蛍光灯がつく。

ぴらぴらと、古い蛍光灯の、灯りが安定するまでのわずかな間がある。

シャッターは開かない。

それでも、営業しているという、看板の蛍光灯がつく。


静かに眠るような呼吸を一度二度する。

その程度の間があったと思ってほしい。


古びた靴屋の、看板の蛍光灯が、ふっと切れた。

シャッターは相変わらず閉まったままだ。

そして、


こつ、こつ、こつ


足音がする。

右、左、右と連続して。

硬質なものと、硬質なものの触れる足音だ。

足音は硬質な音を立てて、

やがて薄暗い中に消えていった。


それだけの話と思ってほしい。

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