そこは薄暗い通りと思ってほしい。
上を仰いでも、星など見えないと思ってほしい。
天井があるのか無いのか、
とにかく暗い。
そこは、あまり広くない通りだ。
人が3人も横に並べばいっぱいになる。
決して大通りではない。
そんな通りのことと思ってほしい。
その通りに面して、
一つの古びた靴屋があると思ってほしい。
薄暗いその通りに面して、
古臭い蛍光灯のついた看板を、控えめに出している。
決して大きくない靴屋だ。
なにがし靴屋。
なにがしというのは、特に物語に関係ないと思ってほしい。
とにかく、古びた靴屋が、薄暗い通りに出ている。
それだけでいい。
古びた靴屋は、
薄暗いこの時間は、
看板の灯りも消して、
シャッターを下ろしていた。
通りは静かで、
薄闇に隠れるようにしている、その通りのほかの建物も、
一様に、静かに店を閉めていた。
ぱた、ぱた、ぱた
音がすると思ってほしい。
かすかな音だ。
右、左、右と交互に立てる、
足音。
硬質なものの触れない、
裸足のような足音と思ってほしい。
ぱた、ぱた、ぱた
裸足の足音は、薄暗い中をかすかに鳴っている。
そして、ふと、裸足の足音が止んだ。
静かな間がある。
古びた靴屋の看板の蛍光灯がつく。
ぴらぴらと、古い蛍光灯の、灯りが安定するまでのわずかな間がある。
シャッターは開かない。
それでも、営業しているという、看板の蛍光灯がつく。
静かに眠るような呼吸を一度二度する。
その程度の間があったと思ってほしい。
古びた靴屋の、看板の蛍光灯が、ふっと切れた。
シャッターは相変わらず閉まったままだ。
そして、
こつ、こつ、こつ
足音がする。
右、左、右と連続して。
硬質なものと、硬質なものの触れる足音だ。
足音は硬質な音を立てて、
やがて薄暗い中に消えていった。
それだけの話と思ってほしい。