夜の空に、まぁるく穴が開いていると思った。
ぽっかりと、黄色な穴に見えた。
煙が穴を掠めていく。
そんな風に見えた。
あの穴を隠さないでくれと、
高く高く上にある、煙に願った。
黄色くぽっかり開いた、穴を、隠さないでくれと願った。
あれは月という天体。
それはわかっている。
煙に見えるのは、流れる雲。
それはわかっている。
それでも、今は黄色な穴に見える。
真っ暗の底から、
見上げると見える、穴。
黄色い世界が見える。
あの穴から、違う世界へと生まれ変われないだろうか。
そんなことも思った。
それでも、明るい黄色な世界は、
自分に、にあわない気がした。
暗い底も悪くないものだ。
空も飛べないし、
あの空の穴までは届かないだろう。
だから、暗い底も悪くない。
空の穴に憧れをもてるから。
まぁるい空の穴から、
誰かがこちらを見ることがあるだろうか。
それは、覗き込むのだろうか。
それとも、黄色な世界の空に真っ黒な穴があって、
同じように見上げているのだろうか。
あれは天体だ。
月という天体だ。
そして今は夜で、
朝がくれば明るくなるし、
月もまた沈み、地上は普通に動く。
わかっているが…
あれは、何か、別の世界を映し出している気がした。