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第4話 時間の過ぎたあと

あれは、まだ幼さの残るころだったと思う。


鬱蒼とした森を、私はいつも通っていた。

…そう、思い出してきた。

いつも自転車でそこを通っていた。

そこを通ると学校への近道だから。

朝でも帰りでも暗く鬱蒼とした森の中、一応舗装されている道だった。


5月のころになると…

その鬱蒼とした森の中に、

たくさんの藤の花が咲くようになる。

多分、藤の花で有名な観光名所になんか及ばない。

それでも、幼い私は、

その藤の花の森を通って学校に行った。


その藤の花の群れが、

私は好きで、

いつか卒業しても、

また来ようと思った。


そして、瞬く間に10年以上が過ぎた。


あれからいろいろと電子機器は発達し、

デジカメも私の手元にある。

あの藤の花の群れを撮影しに、

ある5月、私は、あの道を目指した。


道の入り口は覚えている。

その道を辿って行って私が目にしたのは、

申し訳程度に残る木々と、

さらしだされた土の丘。

切り倒された木のにおいが新しい。

あたりにいちめんに木のにおいがした。


鬱蒼とした森も、

藤の花もどこにもなかった。


遅かったのか…

さらけ出された土と、あのときのまま舗装された道の上、

私は呆然とした。


切られた木のにおいがする。

もう少し早ければ。

せめてあと1年早ければ。


噂ではそこは、住宅か何かが建つようだ。


時間が過ぎたあと。

変わってしまった場所があった。

時間が過ぎたあと。

どこか変わらない私がいた。

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