彼女は全てを知る者になった。
彼女は学生だ。
無機質な学校に通っている。
彼女は突然、全てを知る者になった。
全てを知る者だからわかった。
どうすればこの学級にいるものに全てを知らせることができるか。
彼女は、学級にいるもの全てを、
学業を修めるにあたっての、全ての知識を一瞬にして叩き込んだ。
その学校で教えること、それ以上の知識、
学業として学ぶことは全て叩き込んだ。
しかし、道徳概念は入れなかった。
その学級は天才でありながら、
教師を嘲笑する学級になった。
教師は学業を教えられなくなり、
教室から出て行った。
彼女は学級の者を見下していた。
彼らはおそらく学業では天才だ。
しかし、彼らは決定的に欠けている。
やがて、全てを知る者になった彼女を追跡する集団が学校にやってきた。
それは黒い服の男たちだ。
彼女は屋上へ逃げた。
屋上への扉には鍵がかかっている。
黒い服の男たちは、彼女を探している。
彼女は屋上の一つ下の階から、吹き抜けになっているそこに身を投じた。
全てを知っているから、どうすれば無傷で助かるかもわかったいた。
吹き抜けの近く、昇降口に身を潜める。
黒い服の男たちは無機質な学校の中を走り回っている。
彼女はふと、昇降口の外に目をやる。
そこには男が待っていた。
手招きをしている。
彼女は黒い服の男たちに見つからないよう、昇降口を出た。
手招きをしていた男は、
無機質ではない、さえない男だ。
男が先に立ち、雑然とした有機質な路地を彼女は歩いた。
「ここだ」
男は路地の行き止まりに来た。
そして、行き止まりのドアを開ける。
「今日からここで一緒に暮らそう」
そこは小さな部屋だった。
二人で暮らすのに、ようやく空間がある部屋だった。
そこには、生活感があった。
(ここが私の最後の場所だろう)
全てを知っているはずの彼女は、もう、予測しかできなかった。
予測も当たっているかわからない。
彼女は小さな部屋に入ると、
男とともに、暮らすことを決めた。
彼女には、それで十分だった。