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19、ぼくも、あげたいの

 陽奏ようそうの学友たちは、定期的に集まって親交を深めることになり、後宮には各夫人からの挨拶状や贈り物が日夜届けられた。


 翡翠や琥珀玉の簪に、金銀細工に玉璧の首飾り。

 金糸を織り込んだ雲錦柄の絹布に、高級茶葉に冬虫夏草、香木に練り香。

 名家秘伝の酒に香り高い果実酒、書画に筆……。


「こちらの珠冠しゅかんが上品で、華凛かりん妃様にぴったりですわ」

「うふふ。素敵ね。ごらんになって、この房の長い腰佩ようはいも似合うと思いますの」

「まあ。優しくて綺麗な彩……」


 侍女たちが楽しそうに荷ほどきしている。

 彼女たちの中でもひときわ忠誠心の高い十九歳の侍女、雲英うんえいは、ほどいた荷物の中から愛らしい花柄の壺を持ってきた。


「こちらは我が家からでございます。末の弟が学友の栄誉を賜りまして、姉として誇らしゅうございます! 姉弟揃ってお仕えできるなんて、なんという光栄なことでしょう! 至福でございます! この世の春でございます、はぁはぁ。あの、筆もございます、我が家からの贈り物。使ってくださいませ」

「お、お、落ち着いて。雲英」


 華凛かりんは少しだけ名簿と目の前の侍女の履歴を照らし合わせた。

 彼女の家は――紅家こうけだ。


「こ……紅家の、忠誠とご支援には……ひ、ひ、……日々、感謝の念が、尽きません。こ……これほど、心強いご縁を賜りましたこと……妃として、この上なく幸いに存じます」


 華凛かりんの話し方にも、侍女たちはもうすっかり慣れている。

 彼女たちが「いつも通り」という顔でいてくれるから、華凛かりんも安心して話すことができるようになってきている。


「どうぞ……今後とも、変わらぬお力添えを、よろしく、お願い……いたします。お……贈り物は、大切に、使わせていただきますわ……。と、……とても……貴重で、珍しい、お品物のよう……ですわね?」

「この塗料は、霊華釉れいかゆうといいます。温度変化に応じて色が変わる大変珍しい塗料なのです」


 微笑んで壺を受け取ったとき、別室にて学友と戯れていた陽奏ようそうが駆け込んできた。


「おかあさま! もも、くえたよ」


 別室にて学友と戯れていた陽奏ようそうは、嬉しそうにガチョウをかたどった土笛を見せてきた。

 それは「もも」ではありません。華凛かりんは優しく訂正した。


「そ、そ、それは……ふえ……ですわね」

「ぼくも、あげたいの」


 「もも」と「ふえ」の違いがわかったのかはわからないが、息子は自分も学友に贈り物をしたいらしい。


「な、なにがいいかしら。この牛魔王のお人形がいいかしら」

「そえはああ、ぼくのぉ~っ!」

「そ、そうですわね、陽奏ようそうの大切なお人形でしたわね……」


 華凛かりんはきょろきょろとあたりを見回した。


「お菓子や、桃……を、皆さんで召し上がる? それとも……遊びに使えるもの……?」


 西王母様への感謝の気持ちをこめて作った西王母様人形を手に取った。


「こ……これで、ぎゅ、ぎゅ、牛魔王のお人形と一緒に、お人形遊びをしては……どうかしら……」

「ぎゅまぁおぅ! すゆ!」


 何を言ったのかはわからないが、息子は雄叫びをあげながら華凛かりんの手から二つのお人形を受け取り、とてとてと走って行った。

 お人形遊びの提案は、たぶん、受け入れられたのだろう。


 ああ、平和。



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