丸く大きな花弁が幾重に淡い桃色も重なる
甘い香りの
混乱を収めて庭園の散策に連れ出すと、
後ろから付いて来る皇帝、
「我が子とは水面の波紋のようだな、ほんの一滴で笑顔も涙も広がる。あるいは、小鳥のさえずりにも似ているかもしれぬ。泣いたり笑ったり、止むことを知らぬ……ああ、それに、花畑の蝶のようでもある。一つに留まらず、次から次へと飛び回る」
感情があまり窺えない話し方だが、おそらく不機嫌ではない。
「あ、……愛らしい、でしょう……?」
そっと問いかけると、夫は一瞬目を瞠った。
そして、初々しい花がほころぶような微笑を見せた。夫は美しい青年だ。
「おかあさま! ちっちゃい子、いうよ。あっちにも、こっちにもいう」
「……
「おかあさま。おともだちって、なあに?」
「お友だちは、一緒に勉強したり、遊んだりする大事な仲間……ですわ。楽しい時も、困った時も、支え合う……味方ですの」
「ぼく、あちょぶ!」
その天真爛漫な姿を見て、
それを「よい機会」と思ったのだろうか、瑞軒が提案する。
「では、殿下。ご学友候補を集めて、すこしお話してみてはいかが」
彼が示すのは、茶席だった。
瑞軒の合図で桃饅や花茶が運ばれてくる。それに、名家の親子も集められて、自然と親は親同士、子は子同士で話す空間ができあがっていく。
集められた同年齢の子どもたちに囲まれた
しかし、それも束の間、好奇心旺盛な性格がすぐに表に出てきた。
「きみ、なまえ、なあに?」
近くにいた、紅色の衣を纏った男の子に声をかける。
男の子が「けいりん」と名乗ると、
(
親から重々言い含められているのだろう。
「でんか、どこいくの」
敬語はまだ出来ないらしい。近い距離感が微笑ましい――
他の子どもたちも興味を引かれたように集まり始める。
(遊び道具があるといいのではないかしら)
「ず……瑞軒。じ、じ、……
「承知いたしました。ただちにご用意いたします」
息子が好きなのは、羽が付いた蹴鞠、
瑞軒が
「ぼく、ける! けいりん、こえ、おとしたらね、だめなんだよ! だめなんだよ! だめなんだよー!」
丸い蹴鞠を転がし、ぽおんと蹴り上げる。
「あい」
落ちてきた
しばらくの間、誰もが夢中になり、笑い声が庭に響き渡った。
「おほほほ、うちの息子は殿下とすっかり打ち解けて」
「うふふふ、うちの息子の方が仲がいいですわ」
親たちが見えない火花を散らしている。
そんな親たちを知らず、子だちとはしゃいでいた
「あ。泣いてた子ぉ〜!」
「……!」
休憩する前に「なんでなんで」と興味を持たれていた、 |李家の令息、
「そなた!」
「もう、かなちくないのか! よかったね」
握った手を元気いっぱいに上下に振り、
そして、他の子たちを
「みんな、おともだち!」
なんと、全員がお友だちだというのである。
本来は気に入った子を数人だけ選ぶのだが――と、大人たちがソワソワと皇帝の顔色を窺うと、皇帝
「全員が学友か。欲張りなやつめ」
酒盃に視線を落とした表情は、軽く眉を寄せていた。
よく思わなかったのだろうか?
「君主たる物、それくらいがよろしい。さすが俺の子だ。器がでかいな――それでは、全員を学友とする!」
よかった。お気に召されていたらしい。しかもちょっと親ばか気味にも思える発言内容だった。
その力強い宣言に
瑞軒はその様子を見て深く頷き、記録を取るためにそっとその場を離れる。
学友と別れたあとは、母妃のもとに一直線だ。
「おかあさまーっ、ぼく、おともだち、しゅき!」
その言葉に、
「よかったですわ、
禁城が夕日の茜色に染まる中、