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第62話 ローレンツ第二王子の視点


 まさかあのレイチェルが、ここまで成長するとは正直思っていなかった。カエルム領地に静養すると話が出た時は「ここまでか」と落胆が大きかったと思う。

 血筋と希有な力を持つ宝の持ち腐れの末姫


 レジーナの嫌がらせなどは知っていたが、それを一々守ってやる義理も価値もなかった。レジーナの目が妹に向いている間に、陣営を強固にする。そう考えて動いてきた。

 全ては第一王子エドアルトと相打ちで死んでいった親友のため。そいつの夢のためにも僕は王太子になり、国王になる。


 僕には《神々の鑑定》、《超幸運》という贈物ギフトがあった。天使や有能な護衛騎士、参謀もいる。陣営も厚くなってきたころ、第四の王子ペーターが裏切った。

 よりにもよってレジーナについたのだ。それは予想外だったが、あの男は奴隷売買に関わっている情報もあったので、切るにはちょうど良かったのだと思い直す。


 そしてレイチェルがカエルム領地の領主代行として付くことと、僕の陣営に加わりたい旨の打診が来たことに驚いた。ペテリウス伯爵はレジーナの傘下だった、またカエルム領地を発展させるというのだから、許可した。


 それからはあっという間に力と人脈を得て、音楽の神々に挑むという。本当にあのみすぼらしく、人の顔色を伺い逃げていた妹だろうか。

 舞台に上がり、堂々とする姿は母を彷彿とさせた。

 美しく英知に優れ堂々としたあの姿に──。


 会食でもレジーナたちの嫌がらせに毅然とした態度をとり、渡り合っていた。何があったらこうも変わるのだろう。だが、僕にはもう一つの懸念があった。

 ここまで急成長した彼女の真意だ。

 王位継承権第二位。本気でレイチェルが目指せば、勝負はまた分からなくなる。それにあのランドルフがレイチェルを気にかけるのも見た。もしランドルフがレイチェル陣営に加われば、一気に王位継承権争いの勢力が書き換わる。


 すでに教会の時期教皇候補のセイレン枢機卿、武器屋であり人外のウルエルド、魔導書の怪物と人脈や武力だけでも十二分にある。護衛騎士や暗部の人員も固い。

 レジーナの魅了とは違う、レイチェルの魅力は、僕のそれとも違う。「自然と助けたくなる」という厄介なものだ。

 だから彼女の目的を聞いた。

 それがカエルム領地の領主となり、エドウィンと家庭を築くことだと言ってのけたのだ。現在王位継承権第一位に立つことすら可能な立場にいながら、それを放棄する。

 理解できない。


(いやもし、そういって油断させるための策だとしたら?)


 可能性はなくはないだろう。カエルム領地で満足するとは思えない。

 聖女になるのも民衆の支持を得るためで、世論を味方に付けて印象操作だって考えているかもしれないのだ。


「本当に王位継承権に興味が無いのでは?」

「そんな訳あるか」


 側近の一人天使のシエルがズバッと答えたが、僕は否定した。


「いやだって、本当に王位継承権を奪取したいなら色々仕掛けてきても良いだろうけれど、末姫様のところに暗殺者は送り込まれるけれど、送ってきたことはない。それに君への支援金だってたっぷり送ってきているし、なにより」

「なにより?」

「あの歌声を聞いたら、簒奪や略奪なんて考えない。彼女は単に自分が生き残るために陣営を厚くしていると思うけれど」


 シリルは人の悪意が分かる。だからこそ、レイチェルにそれがないというのなら、それが答えなのだろう。けれど僕はそう簡単に信じられない、信じてはいけない。

 いくら兄妹であっても、状況が一変すれば殺し合うしかなくなるのだから。


(僕がもし、普通の兄妹であれば……何かが変わっただろうか)


 兄らしいことなど、ほとんど記憶にない。

 レイチェルが生まれなければ、母は生きていたかもしれない──そう思わずにはいられないのだ。


(見極めるためにも、今後は定期的に情報交換しておくべきか)


 僕は妹の心情を読み取ろうともせず、ただ恵まれた才能や、有能な人材との繋がりに対して嫉妬していた。その嫉妬が結果的に僕自身に跳ね返ってくるとは、この時は想像だにしていなかった。



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