会食も無事に終わり、ロイヤルフェアの開催で挨拶行えば主催者としての役割は大体果たしことになる。もちろん、挨拶回りや交渉などやることは山のようにあるが。
そんなで真っ先に声をかけてきたのは、会食では無言で空気扱いされていた第三王女カルメラ姉様と第四王女ジルベルタ姉様の二人だ。遣いを出すこともせず、化粧直しから出てきた私を待ち構えていたようだ。
「レイチェル。ずいぶんと綺麗になったじゃない」
「まあ、ありがとうございます。カルメラ姉様」
「その服や宝石はエドウィン様からの贈物なの?」
「ジルベルタ姉様。ええ、宝石はエドウィン様からの贈物ですわ」
「ふうん」
「そうなの」
「ええ。それでは挨拶回りなどありますので、失礼しますわ」
ニッコリと微笑み、そのまま通り過ぎようとした。──が、腕を捕まれて阻まれた。
「なに調子に乗っているのよ。私は貴女の姉よ?」
「はあ」
「こんな企画を立てるぐらい潤っているなら、私たちにも色々融通を利かせるべきじゃない?」
「なぜでしょうか」
私の反応が二人と違ったのか、目を吊り上げて睨んできた。全く怖くない。それならカノン様のにこやかな笑顔や、目が笑っていないダレンのほうが数百倍怖いのだ。マーサが怒ったときも怖かった。この世の中には怒らせてはいけない人種というのが存在する。その方々に比べれば、怖くもなんともない。
「何故って、私たちは──」
「異母兄弟姉妹だとして、私にお姉様たちの支援や援助をしてなんの得があるのですか? 別段、そこまで親しくもありませんでしたでしょう?」
「えっ」
「メリットって……」
「だって私、お姉様たちと仲良くなりたいと思っていませんもの。人の悪口や嫌がらせをする者と一緒にいると品性を疑いますし、私がお姉様たちと一緒にいて楽しいと感じたこともない。まだ政治的、商談関係でお互いにメリットがあるのなら、考えなくもありませんが……。お姉様たちは私に何かメリットを提案できるのですか?」
淡々と自分が主導権を握るように話の流れを作る。私たちは王族だ。それゆえ普通の兄妹とは異なる。そもそも家族の情など最初からないのだ。
愛されたい、家族として認められたいと思っていた頃もあるが、今はそれよりも大事にできる居場所ができた。だから血の繋がりだけで仲良くしたいとは思わない。
好かれなくても良い。
(自分のことを好いてくれない相手よりも、私のことを好いてくれる人たちとよりよい関係を築いていきたいもの)
「生意気なのよ。ちょっと調子が良いからって」
「そうよ。妹なんだから私たちの言うことを──」
「レイチェル様。ご挨拶をしたいという方々がお待ちですよ」
「ダレン」
素晴らしいタイミングで現れたのは、ダレンだった。深緑色の髪に、石榴色の瞳が私を見つめる。朗らかな笑みを浮かべているが、百パーセント怒っていた。それはもうすさまじく。
「そういうわけですので、ご理解いただけますかな」
「──執事の分際で」
「そうよ、お前など主人に言って」
「ダレンは人外なのだから、言葉には気をつけた方が良いわよ」
私の忠告にカルメラ姉様とジルベルタ姉様は疑わしい目でダレンを見る。思えば王族でも人外と対峙することはあまりない。ローレンツ兄様やレジーナ姉様は別だけれど。
ダレンはパチン、と指を鳴らした瞬間、二人の影が縫い止められてアッサリと捕縛されていた。
「もしや人外と相対するのは初めてでしたか。では出会ったら最後、運が悪かったと思うことですね」
「ダレン……」
「大丈夫です。殺しはしませんから」
その返答が不穏当なのだけれど。殺しはしないけれど、酷いことはすると宣言したに等しいのだから。もっとも私は助ける気はない。
勝手に人外の領分に足を踏み入れて、ドラゴンの尾を踏んだのだから。
(まあ、これに懲りてくれればいいけれど)
***
パーティー会場に戻ると、いくつか商談の話で商人や貴族と約束を取り付けた。ふとパーティー会場に、ランドルフ兄様がいることに気づいた。数名の護衛も付き添っている。
(え、あのパーティー嫌いのランドルフ兄様が!?)
金髪で碧の瞳はレジーナ姉様と同じだが、骨格からして二メートルほどの巨漢に、短く切った髪、整った顔立ちだけれど雄々しい姿は王子というよりも武将、あるいは戦士のそれに近い。そんなランドルフ兄様が、正装でパーティー会場にいるのは珍しかった。
(披露会もそうだけれど、会食にも参加していたし……珍しいわね)
「お、いたな」
彼は私に気づくと近づき、声をかけてきた。
「レイチェル。この三日間の間に少し話があるのだが、時間をとれないか?」
「え、私と?」
「他に誰がいる? 別段、くだらないお茶会とかではなく商談相手として、だ。お前、武器商人に顔が利くんだろう」
商談相手。つまりは仕事ということなのだろう。
ランドルフ兄様に、王位継承権争いの意志があるのかは正直よく分からない。なにせ今までの死に戻りで彼の優先順位は戦いだった。戦うことこそが自分の生まれた意味。そう周囲に思わせるほど、常に戦っていた印象が強い。
(もしかして、今後現れる魔物討伐に向けての戦力補強を考えている?)
「どうだ?」
「それなら三日目の夜はいかがでしょう?」
「わかった。場所などはお前の好きなようにしてくれ。ああ、料理は肉料理が良いな」
ランドルフ兄様は「商談を受けいれてくれた礼だ」と、私に付与魔法の施された短剣を渡してきた。
「俺は戦っている奴が好きだ。その点、今のお前は結構好きだぞ」
ポンポン、と頭を撫でて去って行った。護衛騎士は私に一礼してランドルフ兄様の後を追う。台風のような人だった。でも、不思議と悪くない、嬉しかった。
(今まであまり関わってなかったけれど、ランドルフ兄様は私のことをある程度認めてくださってことなのかしら?)
戦っている奴。
それは自分の立ち位置を理解して、それでなんとかしようと足掻いている姿──ということだろう。確かに今までの私は戦う場所にすら立っていなかった。
思いがけない言葉がやっぱり嬉しい。
「あのランドルフに凄いことを言わせたな、我が妹は」
「!?」