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第21話  解呪の方法を考えましょう・後編

 情報漏洩。ラグや他の者たちが裏切り、私の立てた予定や計画が全て露見していたから──だから私は敗北した。


『情報には鮮度と正確性が重要となる。相手の出方が分かっていたら、どう動くのか対策しやすいでしょう』

「はい。……だからカノン様は情報量を多くすることで、真の目的を隠そうとなさった。それは今行っている領地改革も含まれますか?」

『その通りよ。様々な事業の立ち上げや領地内のルール変更、人が集まるような求人に慈善活動。目まぐるしく入ってくる情報処理を一つ一つ吟味することはさして難しくないけれど、それでも本命の目的に気付くまで時間は稼げる。この薬草だって、事業の一環で買っていると思われるのと、誰かの呪詛を解除するため──では情報の質と重要性が異なるでしょう』

「はい」

『さらに敵陣に考えて行動に移す時間を奪う。これだけの情報量に加えて、王都で起こる闇オークション一斉摘発のタレコミ。そうなったら、どちらかの情報収拾を優先するか分かるでしょう? 相手は第五王女レイチェルなんて、いつでも潰せる相手よりも、敵視している第二王子ローレンツ王子を潰すことのほうが重要なのだから』

「まさに情報戦……ですね」


 本当にカノン様は凄い。相手に情報が筒抜けなら、それを逆手にとって情報を与え続ける。それも様々な偽りの情報や無関係な内容にも意味を持たせる風を装って、相手が誤認するように、仕向けるなんて考えつかなかったわ。ううん、私はまだ甘く考えていた。


 ラグは敵陣営と繋がっている。でもラグはマーサの実子、対応に困るのも事実な訳で、それに対応次第では新しい間者が配属されるだけで終わり名可能性もある。


「カノン様はラグのことを泳がせつつ誤情報も含めて、敵陣営に伝えるようにしていたのですね」

『ええ。……それにダレンに盗聴用魔導具などもないか調べて貰っているわ。彼は物であれば感知可能らしいから』

「……知りませんでした」


 自分の不甲斐なさに凹むが、ただ凹むだけじゃダメだわ。知らなかったとしても、気付いたのならそれを糧に活かしていく。考えることを、学ぶことを投げ出すのは違うもの。


「知らなかった──でも今、カノン様から教えて貰っておいて良かったです」


 そう率直な言葉を返したらカノン様は目を丸くして、それから見惚れるぐらいとびきりの笑顔を見せてくれた。


『そうよ、さすが今世の私だわ。よく分かっている』


 半透明の姿で私をギュッと抱きしめてくれた。触れる感覚はないけれど、それでもこの人に抱きしめて貰えるとなんだか何でもできそうな、そんな気持ちになる。


「レイチェル様。とりあえず、応急処置は済ませ──」


 戻ってきたダレンは何かショックなことがあったのか、空になった水差しを落とした。ガシャン、と珍しくやらかす。


「だ、ダレン?」

「なんだか今、異世界の知識を独り占めされていたような気がします」

『ブレないわね。そこは私がレイチェルにハグしていて嫉妬するのが鉄板なんじゃ?』

「嫉妬する鉄板があるのですか?」

「詳しく!」

『あー、もう。そうだった! この二人、それはそれで面倒くさいんだった!』


 カノン様は頭を抱えて叫んでいたけれど、好奇心は抑えきれないので、それはしょうが無いと思う。ともあれシリルの状態も状態異常バッドステータスの感染率は、13パーセントと大分下がった。後は人型が塵芥となるまで身を清めて、薬草を煎じたお茶を飲む形で内側からも解呪の方法を行う方向で話がまとまった。この二人に掛かると、解呪がお手軽に見えてしまう。絶対そんなことないのだけれど!


『肉体の負荷を考えると、だいたい二ヵ月とみておきましょう』

「(あれ、でも鑑定だと一ヵ月もかからないって……あ、もしかして)カノン様」


 カノン様はウインクして答えた。それはなんという可愛らしい仕草なのでしょう。狡い。反則技なのでは? いつか私にも使えるでしょうか。使い処があるか不明ですが……。

 そんな感じで話をまとめている間に、体を洗ってきたランファたちが着替えてフロア室に戻ってきた。


 黒髪の少年フウガは、長身で灰色の老兵ディルクの背に隠れつつ姿を見せた。ランファは艶やかな緋色の髪になり、新しい服装に着替えて大変よろしいのだけれど──。


「なんで髪を乾かしていないの!? タオルでとりあえず髪をまとめて……!」

「す、すみません! いつもは自然乾燥していたので」

「風邪引くわ! ええっと、こうすれば」

『タオルで顔ごとグルグル巻きにしてどうするの』

「はう」

「レイチェル様、私が致しましょう」


 そう言いながらダレンは温風魔法でサクッと髪を乾かしてしまった。魔法ってそんなに多用していいのかしら? 

 本来なら魔法を一つ公使するたびに対価が必要になるのだけれど、ダレンは出し惜しみせず──というか気にせず乱用している。便利なのは分かるけれど……。

 ひとまず軽食を摂りつつ、シリルの状況を話すことにした。テーブルにはサンドイッチにスコーン、サラダ、スープ、肉料理と思ったよりもがっつりなメニューだった。


 さあ食べようと席に着くと、ディルク、フウガ、ランファは部屋の片隅に並んで立っている。何故そんなところに、と小首を傾げつつ問いかけた。


「なにしているの? 食事をするのだから早く席に座って」

「え!?」

「……!?」

「吾輩たちも……ですか?」

「他に誰がいるの? ダレンを見なさい、執事だけれど私の隣にちゃっかり座っているのよ」

「レイチェル様の隣に座るのは当然でしょう」


 ドヤ顔で言い切るダレンのことを流して、テーブルを囲むように促す。


「食事は皆で食べたほうが美味しいもの」


 私は過去誰かと一緒に食事をとることが少なかったし、温かな食事だってあまり記憶にない。毒殺されたこともあったけれど、今は鑑定眼があるし、何より配給するのがダレンなので安全が確保されている。

 温かいご飯って最高だわ。


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