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第20話 解呪の方法を考えましょう・前編

 ディルクがシリルを抱き抱えて、ランファとフウガは、そのディルクに引っ付く形で付いて来た。今回のホテルも、私とダレンが王都で泊まったホテル経営者の親戚みたいで、顔が全く一緒だったから驚いたわ。


「なんでも六つ子だそうですよ」

「そうなのね……。六つ子……」


 今回はワンフロア丸ごと貸切りにしてもらい、まずディルクたちには、それぞれ体を洗うよう指示を出した。シリルは寝たきりなので、洗浄魔導具を使って体の汚れやニオイを取る。

 この辺の出費は大きいけれどこの際しょうがないわ。先行投資!


 白銀のサラサラの髪、幼い顔立ちはどう見ても十歳ぐらいだわ。改めて鑑定したけれど、状態異常バッドステータス の《悪夢侵食》、《魔女呪詛》は健在だった。


「まずは状態異常バッドステータスを何とかしないとダメね」

『過去の死に戻りではどうやってこの危機を乗り越えたのか、気になるところだけれど既に八回目までとは状況が異なっているから、レイチェルが解呪する方法を見つける必要があるわ。?』


 浮遊しながらカノン様が尋ねてきたので、目を瞑り記憶を探る。今まで知識として蓄積してきた膨大な情報を呼び起こし、紙に手順と必要となる物を書き出していく。これは私が唯一誇れる能力だ。


 解呪の方法は必ずしも一つではない。用意できる物、できないものなど状況によっても異なるし、国によっても術式やら技法も様々だ。


「一番効果がありそうなのは、竜人族か人魚族の一部。状態異常バッドステータスの媒体を移すことで回避する方法。それ以外ですと、二十五種類の薬草と結晶を使った地道なやり方ですね」

『ふぅん。呪詛を肩代わりする方法は、まるで厄払いで使われる大祓人形身代わり人形みたいね』


 カノン様の爆弾発言に、私とダレンは目を輝かせる。


大祓人形身代わり人形ってなんですか!?」

「厄払いと、大祓人形身代わり人形について詳しく!」

『相変わらず、食いつき方が息ぴったりしね』

「それほどでも」

「えへへへ」


 なんだか照れくさくて、口元が緩んでしまう。思えばダレンとは知識合戦を毎回していたし、八回のやり直しでも面白そうな本や知識についての会話はしていたのだ。お互いに本好きだというのもあり、話や趣味が合う。

 引き籠もっていた私の心のケアをしてくれていたのも、今考えればダレンなのよね。ダレンは暇潰し、あるいは気まぐれだったのかもしれないけれど。私にずっと話しかけてくれていた。

 馬鹿にせず、裏表もなく、率直な意見を常に答えていたわ。

 その問い返しが心地よくで、思えば救われていたのよね。本来なら終わっていたはずの私の人生を大きく変えてくれた一人だわ。


「ダレンとは、出会った時から話が合っていたもの」

「ええ」

『相思相愛で何より。さて、先ほどの質問の答えだけれど、人型をした人形あるいは紙を使って、持ち主の厄災を引き受ける「身代わり」のことを大祓人形身代わり人形を呼んでいるわ。私のいた世界では季節の節目に行っている行事の一つで追儺ついな、桃の節句、端午の節句なんかは有名だけれど、半年に一度行われる大祓の儀などもあるかしら』


 カノン様の説明によると前世の世界では、日常生活の中で定期的に厄払いを行っていたとか。なんて恐ろしい世界で生きて来たのでしょう。常に厄払いをしなければ生きていけない世界。

 呪いも割と簡単にできてしまうと言う。その上、異形や目に見えない厄災が降りかかるなんて……。


 基本的にこの世界で呪詛関係の状態異常バッドステータスを付与できるのは、人外である中でも限られた者だけ。それも命を削る、あるいはそれに近い対価を払わなければならない、という掛ける側のリスクが相当高い。だからこそ一度掛けたら生涯解くことは難しいと考えるのだが──。


 ひゃあ!

 思わず震え上がってしまい、傍にいたダレンに抱きつく。ダレンも思いのほか怖かったのか、やや涙目になりつつ私の背中に手を回す。互いに、ひしっ、と抱き合う形となった。


「なんて怖い世界なのでしょう」

「ええ、異形種もドン引きする世界です」

『はいはい。とにかく人形は紙、藁、木、草、張り子である紙と竹、鉄、セルロイドで人の形を作って、そこに名前を書くことで、状態異常バッドステータスの身代わりとなって貰うの』


 サラッと話を進めるカノン様がなぜ鋼の心をお持ちなのか、何となく分かった気がしますわ。なんという恐ろしい世界で暮らしていたのでしょう。


「カノン様は私には考えも及ばないような、壮絶で波瀾万丈な人生を歩まれてきたのですね」

『九回も死に戻るような世界に比べれば、そうでもないわよ?』


 飄々としているカノン様は、その後も異世界の知識などを話してくださった。それらの知識を組み合わせて、高級紙と人形を使って試してみる。その当たりはダレンが引き受けてくれたので、私とカノン様は別室で薬草の種類を書き出していく。思いのほか薬師に頼めば、取り寄せ可能そうだわ。


『薬師に頼むのなら、関係ない薬草も取り寄せておいたほうが良いかも。情報は多ければ多いほど事実を隠すのに役立つわ。それと一人の薬師ではなく複数からのほうがいいわね。品ぞろいや品質も個人差があるかもしれないし』

「そこまで神経質にならないと不味いですか?」


 カノン様の言葉に、思わず反論してしまった。一事が万事手間と労力、そして浪費をするのは無駄ではないかと思ったのだ。今はできるだけ節約すべき時だ。


『ねえ、レイチェル。八回死に戻りをしていて、どうして一度もレジーナを出し抜けなかったのか分かる?』

「それは……相手が一枚も二枚も上手だったからです」

『どうして?』

「それは……敵に情報が漏れ──あ」

『わかった?』


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