目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第19話 同じ轍は踏ませない

「ウルエルド様、ここにいる全員は雇用契約奴隷契約あるいは、剣闘士契約を結んでおられるのですよね?」

「もちろんです」

「でも、そのグォンって方だけ契約が上書きされているわ」

「ひぇ!?」


 困ったわ、という感じでしおらしく言ってみた。ダレンも「おや、確かに。これはどういうことでしょう?」と乗っかってくれるのは嬉しいけれど煽るのは、やめてほしいわ。

 ウルエルド様はハッとした直後、グォンを睨み付ける。


「ああ、なるほど、ネ」

「ひゃ!? な、なんのことです??」

「普通の鑑定なら気付かないかもしれないほど精密に隠蔽しているけれど、ダレンも同じに見えているかしら?」

「勿論でございます。どうやら魔導書に使う特別なインクで、事象の書き換えを行ったのでしょう。厄介そうなので回収しておきました」


 さも当然気づいていました風を装いつつも、スッと小瓶を回収しているあたり文句なしの対応だわ。でも絶対に私が言わなかったら動かなかったわよね。うん、ダレンの扱い方もなんとなく分かってきた。まあ否定しなかっただけでも良いけれど。


「ヒッ!? 特別な場所に隠していたいのに!?」

「無駄ですよ。特殊空間だろうと、利用しているのが魔導具なら同じ『物』である私には丸見えですから」

「(そういえばダレンの本体って魔導書だったものね。最近は夜になると分厚い魔導書に戻って一緒にベッドで眠りたいって言ってくるし、人の姿よりもそっちのほうが落ち着くとか)ダレンは鑑定だけじゃなくて、より情報量の多い世界が見えているのね」

「はい。視界から入る情報量は多いですが、私自身その重要度は軽視していました。というよりもレイチェル様の瞳以外、興味がなかったもので」

「そ、そう……」

「なるほど。僕の鑑定は武器特化型だから、契約の部分は雑だったか。参考になったよ」


 すぐさまウルエルド様は、魔法を使ってグォンの手足を捕縛する。傍にいたランファ、ディルク、フウガは疑いの目をグォンに向けた。


「グォン! どうして、そんなものを……!?」

「事象の書き換えができるのなら、若の呪いも……?」

「そ、そう。オラは若の呪いを解くために自分で一度試してみただけだ! 信じてくれ!」

「その程度では呪いは解けないネ。むしろ上書きというのは、状況をなくすこととは違って方向性を変えるだけ。使っていたらシリルの呪いがさらに暴走しただろう、ネ」


 暴走。

 もしかして過去の死に戻りでは、暴走したことと、なんらかの要因が重なって呪いが解けた? あるいは悪化しつつも、死の淵で進化による成長で難を逃れた? ううん、今その謎は置いておいて、グォンの処遇だわ。


「ウルエルド様。この方を除いた四人、そして信頼できそうな護衛兵を貰い受けたいですが可能でしょうか?」

「もちろん。連れ帰るのなら裏の特別通路を貸してあげよう。護衛者はまた別途送るとして、数名なら君の領地までは難しいが、王都の郊外までなら出られる。これはこちらの不手際の詫びだヨ」

「ウルエルド様、ありがとうございます!」

「ふふふっ、これから長いお得意様になるのですから、サービスはしておこうとおもって、ネ」

「現金な奴だ」

「何か言ったかな?」


 ダレンが金貨の入った袋をウルエルド様に渡して、奴隷契約の雇い主は私に切り替わった。すぐさま移動に映る。一刻も早くシリルの治療環境を整えたかったからだ。

 全員には厚手の外套を羽織ってもらい、靴も革靴をとりあえず渡して準備を整える。


 眠っているシリルは、年長者のディルクが抱きかかえて運んで貰うことになった。応急処置だが先に上級回復役ポーションを少しだけ飲ませて回復を図る。一気に飲ませないのは、回復による肉体の負荷を軽減するためだ。

 飲ませている間、なぜかディルクとランファ、フウガまで驚いて固まっていた。毒だとでも思われたのかしら?


「ええっと、上級回復役ポーションだから毒じゃないわ」

「わ、分かっています。でも奴隷契約をしている私たちでは、数年働いても手に入れられない物です。それを惜しげもなく使ったことに驚いてしまって……」

「なぜ? あなたたちの身柄は私が預かることになったのだから、衣食住はもちろん健康関係も補填するのは当然よ。それは亜人だろうと、魔導具だろうと異形種であっても変わらないわ」

「主人様」

「吾輩たちは良き主人に引き取られたようです」

「同意」


 今までどんな扱いを受けてきたのか、なんとなく彼らの発言から察した。ウルエルド様も言っていたけれど、恐らく祖国に裏切られて、貶められて、奴隷になったのだろう。無銭飲食、多額の借金、強盗などによって奴隷契約を強いられる場合もある。彼らの場合はグォン、あるいは祖国の重鎮によって誘導されて、転落人生を送るように仕組まれていた可能性が高い。


「私にできないことを皆には手伝って貰う。家族として、仲間として迎えたいと思っているわ」


 何より最初に助けてくれたのはシリルだ。彼は覚えていないだろうけれど、それでも私はその恩を九回目の死に戻りをした今返したい。


「そう考える上流階級は珍しいのですよ、レイチェル様。それではまた近々訪れますネ」

「ええ、色々忙しくなると思うけれど、改めてお会いしましょう」


 最後までグォンが何か喚いていたが、にっこりと笑っていたウルエルド様が怖かったので、全員無言で裏の入り口から脱出する。


「ひとまず呪いを解くために、数日どこかで泊まろうと思うのだけれど、ダレン」

「そんなこともあろうかと、郊外のホテルに通路を繋げておきました。マーサ殿にもいざという時に、郊外のホテルの紹介状を複数貰っておりますので、その中でもっとも条件に合うところを選んでおります」

「うん、ありがとう(もうダレンのなんでもアリに驚かなくなってきたかも。マーサも思っていた以上に有能! あれ? よく考えたらカノン様、ダレン、マーサ、セイレン枢機卿も有能なのよね。うん、有能の中にいると、決断した時には準備万端にしているから、見習わなきゃ。カノン様も『勝兵は先ず勝ちてしかる後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて、しかる後に勝を求む──』ってヘイホーの言葉を引用していたもの)」


 勝負を行う前に準備や計画、備えを行うことで充分な態勢を築いて勝算の確率を少しでも上げる努力をする。努力は正しい方向性と、充分な熱量と時間を掛けることによって初めて意味を成す。実を結ばない努力は、このどちらかが欠けているのだと思う。

 それを私は八回の死に戻りを経た今、実感している。どんな努力しても方向性が分散して、熱量と時間が中途半端だったと思う。

 足りないなら今からでも学ばなきゃ。


「これで今日もレイチェル様に本体を抱きしめて貰いながら眠りにつくことができそうで、とてもとても嬉しいです」

「う、うん……(いつの間にそんなルールが? いやまあ異形種の求める対価としては破格だから良いんだけれど……)」

『一日一善イコール褒美ってなっているけれど、本当に良いの?』

「あははは……」


 横で浮遊するカノン様に、私は苦笑いしかできなかった。変に色々動かれると、それはそれで波乱を呼ぶことしかしなそうなので、ちょうど良いのかも?

 そう私は楽観的に考えていた。




コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?