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第15話 空白ではない私のギフト

「それなら私の贈物ギフトを開花させるためにも、お願い」

「喜んで。では手を貸して頂きます」


 どうやって譲渡するのかしら? 

 そう暢気に思っていたら、ダレンはトレイをベッド傍のチェストに置いて、吐息が掛かるほど傍に歩み寄る。恋人関係でなければ許されない距離感に、頬に熱が集まった。

 こ、これは恥ずかしいわ!

 これは不味いと思ったけれど、よくよく考えたら彼とは婚約者となったのだと思い、ならこの距離も問題ない? と思考の迷宮に囚われている間に、ダレンは私の瞼にキスをした。そっと触れた感触に、心臓がバクバクと破裂しそうになる。心臓に悪い!


「………っ!」

「そんな愛くるしい顔をなさるとは、少しでも婚約者として意識して頂けたようで何よりです」

「ダ、ダレン!」


 本気なのか冗談なのか分からない発言は、いかにも人外らしい。意識している自分が馬鹿みたいだわ。カノン様は暢気にその様子を見ているけれど、不意に彼女の傍に文字が浮かび上がる。その数に目を疑い、そして慄いた。


 カノン・キラボシ。

 贈物ギフト

《|偶像《アイドル》∞》、《◇◆?AAA》、《■◇?力AAA》、《美◆AAA+》……。

 個別贈物ユニーク・ギフト

《|魅力《カリスマ》AA》、《|異世界叡智《ワイズウーマン》》、《|全言語自動翻訳《チートモード》》、《鑑定AAA》、《アカシックレコード閲覧権限者》……。


 ん、え? 

 私の目が可笑しくなったのかしら?

 ざっと見ただけでもその贈物ギフトの多さに驚愕する。途中で文字化けもあるけれど、とにかくすごいと言うことだけが分かった。ダレンを見ても恐ろしい文字の羅列があったので、途中で見るのをやめる。だって絶対に可笑しい数値と文字を叩き出すもの!


『どう? ちゃんと見えている?』

「はい……」


 忘れていたけれど、この二人って規格外過ぎて怖い! 頼もしいけれど!

 ダレンの淹れてくれたミルクティーを口にして落ち着く。思い返せば、この二人を基準に考えてはいけないのだと改めて実感した。それにしてもこのミルクティー、ミルクが濃厚で美味しい。

 もっとこう心の準備ができてから、この二人の贈物ギフトを見るようにして、文字化けのことも、その時に聞きましょう。



 ***



 翌日、マーサの姿を見るなり、鑑定結果がすぐに浮かび上がる。想像よりも贈物ギフトの数が多かったことに、またしても目を疑った。


 マーサ・グレース。子爵夫人。

 贈物ギフト

《|淑女の鑑《レディ・エグザンプル》》。

《社交界の毒花》。

《|香雪欄《ミシーズ》夫人フロージア》。

《人脈宝庫》。


 四つもある!?

 確かにマーサは情報通なところがあったけれど、贈物ギフトとして出てくるほど極めているとは思っていなかったわ。


 鑑定を通して見る世界は、今までの世界観を一気に瓦解させた。そして私の鑑定は鏡を通して見ることができるものの、全て文字化けで見えない。けれど、空白ではない──その事実が私にとってはとても重要だった。


 ゼロじゃない。

 たったそれだけで自分でも驚くほど気持ちが軽くなったし、これから様々な贈物ギフトを習得していくのだと思うと胸が高鳴った。これもダレンとカノン様の計画通りなのかもしれないけれど、それでも背中を押して貰えた気がして、胸が熱くなる。

 最初、二人の期待が少しだけ重かった。嬉しいけれど期待が絶望に変わったら……って、怖くなっていたのだ。でも今は少しでも二人に近づけるようになりたい。私にだってできることがあるわ!

 そう息巻いて武器商人との顔合わせに挑むが──。


「魔導書の怪物と契約している人間に売る物はないネ」

「!?」


 出会って一秒で交渉決裂!?

『次は王都の闇ギルド主催の闇オークションを潰して、奴隷剣闘士の精鋭をゲット、武器商人とのパイプ作り』という計画なのだけれど、闇ギルドを潰すため私たちが何かする訳ではない。情報を流す程度だ。そしてその前に武器商人から戦力増強することが今回の目的だった。

 それが早くも崩れつつある。

 ど、どうしよう!?

 すでに内心では帰りたい気持ちと、何とかしなければと自分を奮い立たせる感情がぶつかり合う。ちょっぴり帰りたい気持ちが勝っている。


 闇ギルドに加入している武器商人の中でも、剣闘士を扱うのが彼ウルエルド様だ。白黒の斑髪の青年で、白い肌に青と紫色の瞳の美しい人だわ。帝国の軍服姿なのは、彼の趣味だとか。似合っているわね。


「人間を誑かして、理を歪める怪物の主人に売る武器はないサ」


 王都の地下酒場の個室に到着と同時に言われてしまった。ダレンは「ああ、彼は元天使なので悪魔や怪物などの異形種が死ぬほど嫌いなのですよ」と飄々としている。

 そんなにサラッと暴露してしまって良いのかしら? そう思いつつも、ここで諦めるわけにはいかないわ。マーサの紹介で会うことができたし、王都までダレンに抱っこされたまま転移魔法を繰り返してここにようやく辿り着いたのだ。


 ちょっと船酔いに近い最悪のコンディションだけれど、それでもここで剣闘士を含む人員と武力強化しなければ、彼らは全員レジーナ姉様の手駒になってしまう。それだけではなく、捨て駒として何度となくローレンツ兄様の配下と殺し合うのだ。

 それだけは絶対に止める。

 帰りたい気持ちを抑え込んで覚悟を決めた。


「確かにダレンは魔導書の怪物ですが、ただそれだけで私の評価するのは止めて頂けませんか?」

「へえ。気弱そうで、そこの怪物に誑かされた操り人形かと思ったけれど、なかなかどうして。僕を見据える目に力がある」

「当然でしょう。私の主人で──」

「ああ、異形は黙っていて。……さて、お嬢さん。僕は武器商人だけれど、金だけでは商品を売りはしない。僕は武器を愛している。武器を扱うのなら自分が傷つけられる覚悟もあるかどうか、その覚悟を見せて貰いたい」




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