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第13話 知識は計画的に使いましょう

 新しい環境での生活などで、気づけば数日が経過した。少しは落ち着いた時間が取れると思っていたのだが、甘かったわ。甘々で、紅茶に砂糖を十四杯入れるほど甘かったと思う。

 どうして具体的に十四杯かというと、実際に紅茶を出された後でダレンに「このぐらい甘い」と指摘されたからだ。お口の中が甘い味でいっぱいになったわ。


『そう意地悪しなくてもいいんじゃない? 環境に慣れることも大事よ』

「私は自分の大切な方を、甘やかなさない主義ですので」

『それのどこが?』

「?」


 ダレンは私をエスコートした上で、椅子に座らせ、「寒いかもしれない」とカーディガンを膝にかけてくれる紳士ぶりを発揮していた。確かに甲斐甲斐しいし、過保護な感じかも?

 もしかしてこの紅茶も疲れている私を労って?


「これは主人を思えば当然の対応です」

『言い切ったわね。……まあいいわ。レイチェルが普通通りに生活してくれたお陰で、周囲の監視も少し緩くなる頃だし』

「ですね。そろそろ痺れを切らせるでしょうが、ご安心ください。すでに手は打ってあります」

「……え? そんな話したかしら?」

『何を言っているの。次は王都の闇ギルド主催の闇オークションを潰して、奴隷剣闘士の精鋭をゲット、武器商人とのパイプ作りをするって話したじゃない』

「…………あ」


 カノン様の言葉に「ああ!」と思い出した。

 それは離れの屋敷に住み始めた、最初の夜──。



 ***



 今後の作戦会議は、豪華な夕食後に行われた。

 メンバーは私、カノン様、ダレン、そしてマーサだ。この時、従者として付いて来た幼馴染のラグを入れるべきか考えたが、現段階で彼は従者見習いだったので外すことにした。本当は第二王女レジーナお姉様の間者だからなのだけれど、今度のことも考えて今は泳がせておくことで話が付いている。もっともそのことをマーサは知らない。折を見て話す予定だが、今から気が重い。


「まずは死に──じゃなくて、未来予知を箇条書きにしていくわ」


 死に戻りを繰り返してこの先、何が起こるのかの未来はだいたい把握している。何度か繰り返すことで、未然に防げるものもあったけれど、大抵は時間がなくて応急処置しかできなかったのだ。


 まず過去にあったことを整理する。

 星詠暦1603年、それが九回目の死に戻りした時間軸だ。

 この年に私は静養地であるカエルム領地に訪れた。廃墟寸前の屋敷を案内され、次にマーサの見繕ってきた屋敷での生活を開始。生活環境に馴染めず、また人見知りだったことも災いして、この地での人脈作りや根回しもしていなかった。

 ひたすら本を読み漁って現実逃避をしていたのだ。ペテリウス伯が領地運営をしつつも、国に納める税の一部を着服していたのを私が知ったのは、流行病で領地運営が傾いてからだった。


 その年に王都で奴隷売買の一斉摘発が行われ、第二王子ローレンツお兄様及び第二王女レジーナ姉様が活躍したのよね。そして闇ギルドを統括していた第四王子ペーター兄様の護衛兵士団体奴隷契約者たちをレジーナ姉様に奪われたことで、ローレンツお兄様陣営から裏切る形で鞍替えする。

 各陣営の均衡が崩れたのを見計らって、どちらにも組みしていなかった第三王子ランドルフ兄様もレジーナ姉様陣営に着くことで形勢が不利になった。でもここからローレンツお兄様は、公爵令嬢で騎士団に所属していたイザベル様と婚約。外交関係に力を入れて、他国の勢力を味方に付けたのだから、やっぱりローレンツお兄様は凄いわ。


 星詠暦1604年。

 死に戻りをした八回全てが、この時間軸からスタートだった。

 この年は本当に怒濤で、まず流行病で薬が足りなくなり、人口が激減。治安も悪くなり、街の中での火事強盗が頻発する。次に凶作で食料不足に陥る時に合わせて、レジーナ姉様が薬や食事を提供したことで民衆から『聖女』と崇められて、絶大な支持を得るのよね。

 この年にペテリウス伯は、私に面倒事を押し付けて逃亡。私は私で不利益を被って奔走する。すでにこの時、マーサはとこに伏せてしまっていた。結果的にレジーナ姉様の活躍に救われた所もあったけれど……。

 でもその後、魔物の大量発生による大討伐が行われることになった。最初は第三王子ランドルフ兄様が最高指揮官だったけれど、負傷したため第二王子ローレンツ兄様が指揮をとって戦った。


 そこから魔物の討伐を終えて、ローレンツお兄様は英雄になった。これが決め手で、王太子任命される。

 一度目はこれで安心しきってしまった。ううん、八度目だって王太子の任命式に第二王女レジーナ姉様たちを追い込んで、勝ったと油断したわ。


 星詠暦1605年。

 この年に王太子になったローレンツ兄様は殺される。そして同年、私も──。

 インクを走らせていた手が止まった。マーサには予知夢的なものを見たと前置きしつつ、今回の年代表を書きながら説明する。彼女は1604年に病で倒れるのだけれど、あの時と同じようにしないという意味も込めて、年代表には敢えてかかなかった。


「だいたいこんな風なことが起こるわ」

「お姫様にそのような贈物ギフトがあるなんて……いつ開眼したのですか?」

「それは……」


 贈物ギフト

 この世界で人間が使える特殊能力の総称を贈物ギフトという。必ず一人一つはあり、それを鑑定できるのは《聖歌教会》か、鑑定の贈物ギフト持ちだけとされてきた。

 他の種族の場合、特に天使や悪魔、異形種は理不尽な超常現象や法則を捻じ曲げる魔法が使える。ダレンの瞬間移動魔法もそれに区分されるらしい。先のペテリウス伯の件でも、その魔法を使って王宮まで行って、ローレンツお兄様と国王に承諾を貰ってきてもらった。その上、ペテリウス伯の屋敷で帳簿を確認する際は、思考超加速、時間停止などやりたい放題だったとか。


 もうダレンなら、なんでもありな気がする。けれど人間が人外と契約して、魔法一つの行使に付き、人外が対価を要求した場合は、莫大な犠牲が必要となるらしい。これは人外たちの価値基準によって異なる。


 ダレンはこれらの対価に異世界の本や知識、あと板、ケータィタンマツーの利用が可能になったらしく鼻歌を歌っていた。そして話が戻るけれど、贈物ギフトに付いてなんとダレンとカノン様には鑑定能力はあるという。


『人間の場合は最低一個だけれど、経験と実績を経て贈物ギフト以外にも個別贈物ユニーク・ギフトというものがあるわ。……レイチェルは今のところ《予知夢》ということにしておきなさい』


 そんな感じのことをカノン様に言われてしまったのだ。私の贈物ギフトって本当にあるのかしら? 教会での洗礼は十五歳だったけれど、あの時は空白だったような? だから国王陛下やローレンツお兄様も落胆していたわ。

 今だって私が《アカシックレコードの鍵》だと言われてもピンとこないし、あの場を収めるために、カノン様の嘘だったのではないかとすら思ってしまう。それぐらい私には何の取り柄もないのですもの。


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