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第31話 学園祭の準備(3)

「サクラの描いた焼きそば! めちゃくちゃ美味うまそうなんだけど!? ポーションも本物そっくりだし……」


「ふんっ……さすが、庶民ですこと。庶民の食べ物がお上手ね!」


 あのエリザも、認めている……

 そう、学園祭出店のチラシ・看板用にサクラが描いたイラストは、めちゃくちゃ上手だった。

 清涼感あふれるポーションのボトル。そして、麺が焼けるイイ匂いさえ、漂ってきそうな焼きそば。ソースの色と照り。


「これはもう、サクラで決まりだな!」


「ふんっ…… ま、看板やチラシ程度。ゆずってあげてもよろしくってよ!」


 エリザもアゴを上げて偉そうにのたまっている…… ところが。


「いえ、わたし、いいんです……」


 サクラは恥ずかしそうに、絵をポシェットの中に引っ込めてしまった。


「えー、なんでー? 上手じゃん!」


「いえ、わたしのは写真加工なんです……」


 サクラの描いてきたイラストは、ゲーム内で実際に焼きそばを作り、写真スチルを撮って、絵画風に画像加工したのだという。

 「頑張って描いてきた、ヴェリノさんやエリザさんのイラストのほうがいいですよ」 と、サクラは言うんだけど……

 作って写真撮って画像加工、もじゅうぶん、手間がかかってそうだけどな?


「そもそも画像加工って、ゲームここでできるの?」


「電気屋さんで、パソコンと専用ソフトを買えば、できますよ」


「いくら?」


「5万マルです」


「う……高価たかいような安価やすいような?」


 現実の地下の街では、パソコン+ソフトで5万円は安い方だ。でも、俺の財布的には、無理なゲームムリゲーでしかない。


「わかります」 とうなずく、サクラ。


「わたしも、1周目で貯めたお金マル、半分以上パソコンに使ってしまったんです」


「そこまでして、なんでゲームのなかでまで、パソコン買おうと思ったの?」


 現実世界でも、パソコンは1人1台あって、これがなきゃ勉強も仕事も遊びも買い物もできない。

 つまりは毎日、朝から晩まで使いまくってて、珍しくもなんともないものなのに。


 サクラが、ますます恥ずかしそうな顔で、俺の耳に口を近づけてきた。そのまま、コソコソと耳打ちをしてくる。


 (パソコンがあると、スキルやレベル関係なく、夜中にログインした時もバイトで使えるんですよ)


 なぬ!? スキルもレベルも関係ないバイトだと……!?

 気になる……!


 俺もコソコソとサクラに尋ねる。


 (どんな、バイト?)


 (お店のポスターや看板、飲食店のメニュー表なんかを作成するお店の、下請けです)


 (儲かる?)


 (そこそこです。たとえば、メニュー表のデザイン作成だと、A4 1ページで 1,800 マル前後です)


「ぅぉぉぉぉおっ!」


 思わず感嘆の雄叫びを上げる、俺。


 すごいなー! 広告視聴よりよっぽどクリエイティブで、よっぽど儲かる!

 このゲームに、そんな抜け道があっただなんて……!


「ねーねー、チロル! 俺もパソコンほしい!」


 をん、とチロルが吠えて、パタパタとしっぽを振る。


【私に言ってどうするんですかww】


「ご主人様のために、宝箱を堀りあててみたり……」


【しませんwww】


 やっぱりか…… いや、言ってみただけで、そんなに期待はしてなかったよ、もちろん。


 でも、ともかくも。俺もなにか、お金を稼げる方法、考えなきゃなー。

 NPCとはいえ、王子に昼飯たかり続けるのも、なんだか申し訳ないしな……。


「では!」


 その王子が、手をぱんっ、と打って注目を集める。


「誰の絵にするか、投票で決めよう。よく考えて選んでくれたまえ」


 今回は、プレイヤー3人が絵を描いてきたので、投票はNPCの4人が行う。

 まずは選考タイム ―― エルリック王子、ノーブルな物腰と銀縁眼鏡で理知的なジョナス(侯爵家次男)、ショタ好きの心をくすぐりそうなミシェル (伯爵家長男)、そして、東洋的な顔立ちで異彩を放つ、スポーツマンタイプのイヅナ(海運王長男)

 4人がそれぞれに、俺たちの絵を鑑賞して、誰に投票するかを考える時間だ。


 どうなるんだろうな?

 気になってNPC男子たちの反応を見ている俺に、チロルがしっぽ振りつつ教えてくれる。


【好意値の高さで決まるんですよww NPCは好意値が一番高いプレイヤーに票を入れるんですww】


「私情しかないじゃんそれ! 選考タイムの意味!」


 ―― ま、それなら。

 選ばれるのはサクラに決まってるな!

 エリザも気合い入れてきたのに、かわいそうだが……


「よし、ではエリザの絵に決定する!」


「ええええっ!? なんで!?」


 なんと、結果は。

 『俺 1票、エリザ 2票、サクラ 1票』 で、エリザの絵になってしまったのだ。

 (エリザは一瞬、呆然とした顔をしていた…… 『あたくし悪役令嬢失格!?』 とか、思ってそうだな)


 サクラがふわりとほほえむ。


「良かったですね、エリザさん」


「えっ、そんな…… いえ、その…… ふっ、ふんっ! 当然でしてよ! お気の毒だったわね、皆様。おーっほっほっほっほ!」


 サクラの祝福と、ついに扇で顔を全部隠してしまったエリザの高笑いを聞きつつ、俺もまた、心の中で 『なんで!?』 を繰り返していた。


 なぜなら。


 俺に1票入れたのは、ほかならぬ、エルリック王子だったのだから……

 これまでディスりまくってきたのに、なんで? 実はドMか王子!?

 俺の 『YES昼メシ、No壁ドン』 作戦、いったい、どーなってんの……!?

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