「いいこと、狙うのは…… Bブロックよ! はずしたら、承知しなくてよ!」
エリザの声援を背に、俺は、『ドキドキ☆屋台の場所くじ引き』 の箱に手をつっこんだ。
―― VRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 で5月6日に行われる学園祭。
そこで俺たちは、ポーションと焼きそばの屋台をすることになった…… その出店の場所を決めているのが、いま、っていうわけ。
俺とエリザとサクラと、NPC王子エルリック、ほかNPC男子3名。みんなでそろって、くじ引きで場所取りだ。
「どうか当たりますように当たりますように……!」
Bブロックを引けるよう念じながら、俺は箱のなかを探る。
手にあたる紙の感触。
これじゃない…… いや、これも違う気が…… カサッ
……! なんか、これだ!
直感が働いたくじを1枚拾い上げ、そっと開く…… 緊張するぅ!
目をぎゅっと閉じていると 「あーら。あなたみたいな平民でも、やるときはやるのね?」 とエリザの悪役令嬢ふう誉め発言が聞こえてきた。
ということは……!
エルリック王子が俺の肩を優しくたたく。
「ヴェリノ、すごいね。Bブロックだよ」
「B-3ですよ、ヴェリノさん」
サクラがやわらかい声で教えてくれる…… ほんとだ。
「やったね!」
俺はバンザイした。飲食スペースがすぐ目の前の、良い位置だ。
「ヴェリノさん、すごいです!」 「やるじゃないか」 と、ほかのNPC男子も誉めてくれるし…… 嬉しいな。
【今ので 『幸運の使者見習い・初級』 の称号ゲットですよ!】
チロルがもふもふのしっぽをフリフリして教えてくれた。
さて。普通なら、くじ引きイベントはこれで終わってもいいだろう。
だが、俺にはまだ、ミッションが残されている。
『エルリック王子からの好意値をガン下げる』 という!
―― 俺はいま、エルリック王子に昼食をおごってもらいつつ、親しみを込めるフリをして王子をディスりまくり好意値をさげる (友情値は温存) という難易度の高いミッションを、自分に課しているところなのだ……!
俺は親しげにエルリック王子の肩をバシッとはたいた (かなり痛いはず!)
「ほんっと、俺が運良くて、よかったよな! エルリック様ってば見た目はいいけど、ほんとのとこ、役立たずなんだもんな!」
「ああ…… すまない」
俺がなにを言っても、エルリック王子の整った顔が歪むことはなく、穏やかにキラキラオーラが発される。さすがはトップ
だが、きっと!
その心中は、穏やかではないはずだ!
つまり今日も、俺の 『好意値ガン下げミッション』 は成功ってわけだ!
…… じつは最近、学園祭の準備が忙しく、時間ギリギリまで活動していることが多くて、ステータスの確認ができてないんだけど……
確認するまでもなく、好意値ゼロ! うん、そうに違いない!
「エルリック様…… ヴェリノさんは、エルリック様に親しみを感じているだけですよ、きっと」 と、サクラがフォローしてくれる。
サクラがこうしてフォローしてくれるおかげで、俺がいくらエルリック王子をディスっても、場の雰囲気が悪くならずに済んでるんだよな…… 本当に、ありがとう、サクラ。
もちろん、サクラのほうも、こうすることで
「ありがとう。サクラは優しいね」
「いえ、そんな……」
ほら、サクラとエルリック王子、いい雰囲気!
…… と、ここで、エリザが 『悪役令嬢』 ならではのムーヴをかます。
「ふっ、優しいのはけっこうですけど…… すぎるのは玉にキズじゃなくて?」
エリザ、扇で口元を隠しながら、暴露を開始。
「あたくし、この前見たのですけど…… サクラさん、夜中に殿方と出掛けられてましたわ。一体、何をされていたのかしら?」
「…………」
サクラが、目を見開き、手で口元を覆う。
その肩が細かく震えている…… 俺は最近わかってきたんだが、これって、爆笑してるんだよな、じつは…… (リアル女子の演技力がすごすぎる件)
エリザの嫌みが続く。
「サクラさんは可愛いかたですものね。お付き合いされてる殿方の2人や3人や4人、いらっしゃっても当然……」
「やめたまえ、エリザ。君らしくもない」
「…………っ!」
エルリック王子にたしなめられて唇をかみしめ、きゅっとサクラをにらむエリザ。
『悪役令嬢』 今日も決まってますよ大将! お疲れ様です!
―― そして、次の日。
俺たちは、企画室に集まっていた。
今回の議題は、ポーションの手配だ。ポーションっていうのは、このゲームでは普通に飲み物だと思ってもらったらいい。
飲むとMPが大幅回復、HPもちょっと回復。
―― 最初はシャレオツな感じにミックスしたり果物を入れたりして、オリジナルを作ろうという案も出たんだが……
「人手! スペース! 利便性! あたくしたちは焼きそばも作るのよ? 焼きそばとポーション、両方買っていただくことを考えてごらんになって?」
エリザ様の正論により、売るのに手間がかからず、スペースをとらず、持ち運びしやすいペットボトル(市販品)を扱うことになったのだった。
―― とすると、いくら仕入れるかが問題になる。
この学園祭の準備でいうと、最初から必要になると決まっている屋台や機材、ユニフォームの代金を
つまり、商品の仕入れ代は実質、プレイヤー ―― 俺とエリザとサクラの3人で負担…… 利益が出ても3人で山分けだから、むしろ、お得である。
だが、俺には資金がない……! (そこが問題だ)
「えーと、仕入値は、ポーション10本で640マル。300本仕入れるから、全部で19,200マル、かあ……」
「3人で割ると6400マル…… 1週間のおこずかい、超えちゃいますね……」
つい、どんよりとタメイキをつく俺とサクラ…… そんな俺たちを見下すのは、当然、エリザだ。
「おーほっほっほっほっ! あなたがた、貧乏人に払ってもらおうだなんて、思ってなくてよ?」
「エリザぁぁぁっ!」 「エリザさん……!」
俺もサクラも、感動の眼差しをエリザに送る…… さすがは、悪役令嬢様だ!
「やっぱり、俺にはエリザしかいない! 一生ついていくぞ、大将!」
「エリザさん…… どうも、ありがとうございます……!」
「…………っ! ふんっ! くくくく、悔しかったら、しっ、しっかり、おおお、お稼ぎっ!」
「「はい!!」」
―― こうして、ポーションの元手はエリザが支払うことに決まったのだった。
エリザは公爵令嬢だから、1週間の小遣いも俺たちより多いとはいえ…… 全部払ってくれるとなると、さすがに大変だろう。
けどエリザは、そんなそぶりをまったく見せず、後日。
「ふっ…… ポーションの手配? そのようなもの、とっくの昔に済んでいてよ!」 と、言い切ったのだった。
憧れるぅ!
さて。
ポーションの手配が済んだら次は、いよいよ ――
看板とチラシ作りだな!