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第29話 学園祭の準備(1)

「いいこと、狙うのは…… Bブロックよ! はずしたら、承知しなくてよ!」


 エリザの声援を背に、俺は、『ドキドキ☆屋台の場所くじ引き』 の箱に手をつっこんだ。

 ―― VRゲーム 『マジカル・ブリリアント・ファンタジー』 で5月6日に行われる学園祭。

 そこで俺たちは、ポーションと焼きそばの屋台をすることになった…… その出店の場所を決めているのが、いま、っていうわけ。

 俺とエリザとサクラと、NPC王子エルリック、ほかNPC男子3名。みんなでそろって、くじ引きで場所取りだ。


「どうか当たりますように当たりますように……!」


 Bブロックを引けるよう念じながら、俺は箱のなかを探る。

 手にあたる紙の感触。

 これじゃない…… いや、これも違う気が…… カサッ

 ……! なんか、これだ!


 直感が働いたくじを1枚拾い上げ、そっと開く…… 緊張するぅ!

 目をぎゅっと閉じていると 「あーら。あなたみたいな平民でも、やるときはやるのね?」 とエリザの悪役令嬢ふう誉め発言が聞こえてきた。

 ということは……!

 エルリック王子が俺の肩を優しくたたく。


「ヴェリノ、すごいね。Bブロックだよ」


「B-3ですよ、ヴェリノさん」


 サクラがやわらかい声で教えてくれる…… ほんとだ。


「やったね!」


 俺はバンザイした。飲食スペースがすぐ目の前の、良い位置だ。


「ヴェリノさん、すごいです!」 「やるじゃないか」 と、ほかのNPC男子も誉めてくれるし…… 嬉しいな。


【今ので 『幸運の使者見習い・初級』 の称号ゲットですよ!】


 チロルがもふもふのしっぽをフリフリして教えてくれた。


 さて。普通なら、くじ引きイベントはこれで終わってもいいだろう。

 だが、俺にはまだ、ミッションが残されている。

 『エルリック王子からの好意値をガン下げる』 という!

 ―― 俺はいま、エルリック王子に昼食をおごってもらいつつ、親しみを込めるフリをして王子をディスりまくり好意値をさげる (友情値は温存) という難易度の高いミッションを、自分に課しているところなのだ……!

 俺は親しげにエルリック王子の肩をバシッとはたいた (かなり痛いはず!)


「ほんっと、俺が運良くて、よかったよな! エルリック様ってば見た目はいいけど、ほんとのとこ、役立たずなんだもんな!」


「ああ…… すまない」


 俺がなにを言っても、エルリック王子の整った顔が歪むことはなく、穏やかにキラキラオーラが発される。さすがはトップNPC男子攻略対象といったところか……

 だが、きっと!

 その心中は、穏やかではないはずだ!

 つまり今日も、俺の 『好意値ガン下げミッション』 は成功ってわけだ!

 …… じつは最近、学園祭の準備が忙しく、時間ギリギリまで活動していることが多くて、ステータスの確認ができてないんだけど…… 

 確認するまでもなく、好意値ゼロ! うん、そうに違いない!


「エルリック様…… ヴェリノさんは、エルリック様に親しみを感じているだけですよ、きっと」 と、サクラがフォローしてくれる。

 サクラがこうしてフォローしてくれるおかげで、俺がいくらエルリック王子をディスっても、場の雰囲気が悪くならずに済んでるんだよな…… 本当に、ありがとう、サクラ。

 もちろん、サクラのほうも、こうすることでNPC男子攻略対象からの好意値ガン上げのはずだから…… Win-Winの関係ってことだね!


「ありがとう。サクラは優しいね」


「いえ、そんな……」


 ほら、サクラとエルリック王子、いい雰囲気!

 …… と、ここで、エリザが 『悪役令嬢』 ならではのムーヴをかます。


「ふっ、優しいのはけっこうですけど…… すぎるのは玉にキズじゃなくて?」


 エリザ、扇で口元を隠しながら、暴露を開始。


「あたくし、この前見たのですけど…… サクラさん、夜中に殿方と出掛けられてましたわ。一体、何をされていたのかしら?」


「…………」


 サクラが、目を見開き、手で口元を覆う。

 その肩が細かく震えている…… 俺は最近わかってきたんだが、これって、爆笑してるんだよな、じつは…… (リアル女子の演技力がすごすぎる件)


 エリザの嫌みが続く。


「サクラさんは可愛いかたですものね。お付き合いされてる殿方の2人や3人や4人、いらっしゃっても当然……」


「やめたまえ、エリザ。君らしくもない」


「…………っ!」


 エルリック王子にたしなめられて唇をかみしめ、きゅっとサクラをにらむエリザ。

 『悪役令嬢』 今日も決まってますよ大将! お疲れ様です! 



 ―― そして、次の日。

 俺たちは、企画室に集まっていた。

 今回の議題は、ポーションの手配だ。ポーションっていうのは、このゲームでは普通に飲み物だと思ってもらったらいい。

 飲むとMPが大幅回復、HPもちょっと回復。

 ―― 最初はシャレオツな感じにミックスしたり果物を入れたりして、オリジナルを作ろうという案も出たんだが……


「人手! スペース! 利便性! あたくしたちは焼きそばも作るのよ? 焼きそばとポーション、両方買っていただくことを考えてごらんになって?」


 エリザ様の正論により、売るのに手間がかからず、スペースをとらず、持ち運びしやすいペットボトル(市販品)を扱うことになったのだった。

 ―― とすると、いくら仕入れるかが問題になる。

 NPC男子攻略対象はメシをおごったりプレゼントをくれることはあっても、お金は出してくれない。

 この学園祭の準備でいうと、最初から必要になると決まっている屋台や機材、ユニフォームの代金をNPC男子攻略対象たちが受け持ってくれている形なのだ。

 つまり、商品の仕入れ代は実質、プレイヤー ―― 俺とエリザとサクラの3人で負担…… 利益が出ても3人で山分けだから、むしろ、お得である。

 だが、俺には資金がない……! (そこが問題だ)


「えーと、仕入値は、ポーション10本で640マル。300本仕入れるから、全部で19,200マル、かあ……」


「3人で割ると6400マル…… 1週間のおこずかい、超えちゃいますね……」


 つい、どんよりとタメイキをつく俺とサクラ…… そんな俺たちを見下すのは、当然、エリザだ。


「おーほっほっほっほっ! あなたがた、貧乏人に払ってもらおうだなんて、思ってなくてよ?」


「エリザぁぁぁっ!」 「エリザさん……!」


 俺もサクラも、感動の眼差しをエリザに送る…… さすがは、悪役令嬢様だ!


「やっぱり、俺にはエリザしかいない! 一生ついていくぞ、大将!」


「エリザさん…… どうも、ありがとうございます……!」


「…………っ! ふんっ! くくくく、悔しかったら、しっ、しっかり、おおお、お稼ぎっ!」


「「はい!!」」


 ―― こうして、ポーションの元手はエリザが支払うことに決まったのだった。


 エリザは公爵令嬢だから、1週間の小遣いも俺たちより多いとはいえ…… 全部払ってくれるとなると、さすがに大変だろう。

 けどエリザは、そんなそぶりをまったく見せず、後日。


「ふっ…… ポーションの手配? そのようなもの、とっくの昔に済んでいてよ!」 と、言い切ったのだった。

 憧れるぅ!


 さて。

 ポーションの手配が済んだら次は、いよいよ ――

 看板とチラシ作りだな!

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