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第24話 レベルアップとお買い物の成果(1)

「あっ、ばっ…… なにかしら、その、超絶恥ずかしくて恥ずかしいしかないソレは!」


「うん、微妙にコイズミ構文!」


「ばっ…… そんなことするヴェリノが、悪いのよ!?」


 いや別にディスってるつもりはないんだが…… というか、俺も、いいかげん恥ずかしいんだよ!? この下僕スタイル。


「エリザ…… はやく、命令をくれないと、俺の心臓に100ダメージが…… ぐぅっ……」


 俺が心臓に手をあて倒れるまねをすると、サクラが、顔をあげた。

 かわいそうにサクラ、顔が真っ赤だし、まだプルプルしてる……


「エリザさん…… もう、命令してあげたほうがいいんじゃないでしょうか……?」


「ふぁっ!? あっ、あたくし、そんな!」


「うん、俺からも真面目に頼むわ…… もう、引っ込みがつかなくてさ、これ」


「ふ、ふんっ! ほんと、バカね!」


「うん、俺もそう思う……」


 ほんとは、エリザならノリノリで、なんか命令してくれると思ってたんだよな…… 『3回まわってワンとお鳴き!』 だとか。

 けど、エリザ、俺が思ってた以上に真面目でいい子みたいだ。もはや俺は、断言できる。

 悪役令嬢、向いてないよ?


「ま、悪役令嬢は偉そうに命令するもんだろ? がんばれ、エリザ」


「ですね…… がんばってください、エリザさん」


 俺と、まだちょっとプルプルしているサクラに見つめられて、ついにエリザは観念したようだ。

 片手で2枚のフリスビーを持ったまま、片手で器用に扇を引っ張り出し、ぶぁっさっ、と開くと……


 顔全体を、隠してしまった。


「ふん、ならば、おねだりしてごらんなさい!」


「へ? モノをたかるの? 俺が? そのどこが、なんでお詫び?」


「そんなの、なんだっていいでしょう!」


 エリザの口調、明らかにキレてるなぁ…… 


「あたくしの言うことはなんでも聞くんだったわね。だったら、おやり! 『どうせ捨てるモノでしたら、この哀れな私めにくださいませ』 よ! わかったわね!」


「よし、わかった! さすが、エリザだ!」


 うん、前言撤回だ。

 やろうと思えば悪役令嬢でもできる子! それがエリザ!

 あとは、俺か……

 まさか 『おねだり』 を命令されるだなんて、完全に予想外だった。

 エリザの言うとおりに、あわれっぽくやってあげたいな…… けどな…… 舌、かみそう。


「どうしたの? はやく、おっしゃい!」


「わかった…… うまくいかないかもだけど、そのときは、ごめんな」


 俺は立ち上がり、深呼吸する。

 ―― 捨てるなんてもったいないから、このあわれな俺に、くださいませ…… だったよな? あれ?

 まあいいか。とりあえず、やってみよう!


「いくぞ! 『捨てるなんてもったいねーだろ! どーせなら俺にくれ!』 …… あれ。なんか違うな?」


「……偉そうね」


「ごめん! これでも、がんばったんだけど。なんか言いなれなくて、つい妹とケンカみたいなノリに……!」


「ふっ…… なら、まぁ、よくってよ?」


 エリザは、2枚のフリスビーを勢いをつけて投げた。そして、高笑い。


「ほしかったら、浅ましく拾いに行くがいいわ! おーっほっほっほ!」


「うぉん!」 「あんっ!」


 嬉しそうに鳴いて、フリスビーを追って行く、チロルとサクラのガイド犬りゅうのすけ。変なところで、犬仕様なんだな。


「えーと。あのフリスビー、俺に、浅ましく? 拾いに行ってもらいたかったんじゃ……?」


「ばばばっ…… もう、いいわよ!」


 扇から出ているエリザの耳、赤くなってる…… と、ここで。

 ふいにサクラが、くすっと笑った。

 俺に耳を寄せて、ひそひそとささやく。


「エリザさん、プレゼントしてくれちゃいましたね、フリスビー」


「…………!」


 俺は、やっと気づいた。

 なるほど!

 どうして気づかなかったんだ、俺!

 エリザって、そういう子だよな、たしかに!

 ―― つまり、エリザは……

 ① 俺がフリスビーを欲しそうにしているのに気づく

 ② とりあえず、俺とサクラにプレゼントするつもりで購入

 ③ 「ウッカリ買っちゃったけど、要らないからあげるわ!」 と言いたかったが、なんか流れでこうなった (主に俺が勘違いで下僕ムーヴしたせい…… 恥)

 …… という経緯をたどり、今に至っているのだ!


「エリザ! ありがとう!」


「なっ、なんのことかしらあ!? あたくしは、邪魔なゴミを投げただけで、そしたら、あなたがたの犬が浅ましくも取りに行っただけ……!」


「おう、わかった!」


「ふん! わかったのなら、よくってよ! いきましょ!」


 エリザは俺とサクラから顔をそむけ、早足で歩き始めた。

 そのあとを追いつつ、俺とサクラは、ひそひそ相談する。


「サクラ。夜って時間ある? ちょっと、相談したいんだけど」


「いいですよ。夜9時待ち合わせにしましょうか」


「OK! ありがとう!」


 これでよし。サクラと相談すれば、エリザへのお礼も何か良い手が思い付くに違いない!


「なにをコソコソしているのかしら? いくわよ!」


「「はーい」」


 相変わらず顔を見せてくれようとしないエリザのあとについて、俺たちは寮への道を戻った。

 俺たちの後からは、フリスビーをくわえたチロルとりゅうのすけが、弾んだ足取りで、ついてきている……。


♡☆♡☆♡


「念のために言っておくけど、あたくしは要らないモノを貧乏人に施しただけですからね! わざわざプレゼントした、だなんて絶対に思わないでちょうだい……っ!」


「わかってるってーありがとな!」


 サクラと別れて部屋に帰ったあと ――

 すごい勢いで言い訳を始めるエリザを、俺はなるべく軽く受け流した。

 たぶん、こういう感じがいいはず…… 俺もだんだん、エリザの扱いかたがわかってきてるな。ちょっと嬉しい。


「ふんっ、わかっていれば、よろしくてよ!」


 捨てゼリフっぽく言って、エリザはガイド犬アルフレッドとステータス画面の確認を始めた。

 俺も、ステータス確認しよっと。


「ステータス、オープン!」


 俺は空中に手を伸ばしてウィンドウを出す。

 まず確認したいのは、なんといっても、ペットショップで撮ってもらったスチルだ。


「おおっ! 見て!」


「なんなのよ? うるさいわね」


「くぅぅぅん……」


 俺の声にエリザとアルフレッドが集まってくれた。


【スチルは公開ボタンを押すと、他人にも見せることができますよww】


 チロルのアドバイスにしたがい、画面右下のボタンをポチすると……


「おおおっ……」


 部屋の壁に、タカを腕に止まらせた俺のスチルが映し出された。


「ねぇねぇねぇ! 俺、カッコ良くない!? すげーぜ!」


「ふんっ! ま、まぁまぁね……!」


「あんあんあんっ!」


 エリザとアルフレッドも誉めてくれてる……! 嬉しいなぁ!


【スチルは街で写真立てや額を買うと、部屋に飾れるようになりますよw】


 しっぽを振りながら、チロルが俺にピョンピョンとびついてくる。


「くっ…… チロル…… そんなこと言われたら……」


【言われたら?】


「また、欲しいものが増えてしまうじゃないかぁぁっ!」


【wwww】


 エリザが 「ふんっ」 と鼻を鳴らす。


「スチルを飾るのなら、目立たないところにしなさいよ! あたくしたち、ふたりの部屋なんですからね!」


「りょー、と言いたいが…… 金欠すぎて当分ムリだから」


「ふっ、ふんっ! なら良かったわ! おかわいそうに…… おーほほほほほ!」


 おっ、エリザ、いま 『かわいそう』 って思ってくれたんだな…… 優しい (感動)


「ほどこしなら、いつでも受け付けるよ!?」


「それって、人としてどうなのかしらあ!?」


「たしかに!」


 ―― こうして俺たちはまた、それぞれにステータス確認に移ったのだった。

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