「あー…… けっこう買わされた…… 3回+2回+スチルとか、やりおるな……」
『生き物ふれあいコーナー』 を出たときには、俺のサイフはかなり軽くなっていた。
―― 結局、リクガメのエサは3回も買わされたし。
(「もっと?」 って感じで見つめてくる無邪気な瞳に勝てるやつ、いる? いないよな?)
そのあと、タカのエサを2回分。
(だって、手から食べてくれるんだもん!)
それで、腕に止まらせて背中をなでさせてもらうときに 【200マル払えばスチルが残せますよ】 って、チロルが言うからさぁ!
スチル代まで払っちゃうのは、もう 『お約束』 っていうかね! しかたないよね! 悔しいけど!
スチルはゲームを周回しても、スチルボックスに残っていく仕様だし、200マルは損では、ない……! あとでスチルボックスを見るのも楽しみだし!
所持金だって、まだ、ちゃんと残ってるしね…… チロルのペット用品代くらいは、ぎりぎり。
―― つまり、俺は。
これ以上の誘惑に屈する前に、早いとこペット用品コーナーに行ってしまわなければならないのだ……!
「ふぅ……かわいかっ…… なんてことはなくて、つきあってあげただけですからね!」
「2匹目のペットを飼うのって少し
「俺、すでにやめられなくなりそう」
俺は、エリザ、サクラと、3人で連れだって店の端に移動した。
壁一面に、いろんなペット用品が置かれた棚。
すごいなー! こんなにたくさん、あるなんて。
まず物量に感激しちゃうよ!
よし、買おう!
「絶対欲しいのはブラシだな!」
「それにこれから夏ですから、トリミング用品も要りますよ」
「トリミング?」
「夏は毛を短く切ってあげるんです。カットの仕方が載った本も買っておくといいですよ」
「へえ…… 面白そう!」
「はい。好みのカットをしてあげられると、楽しいですよ」
「きゅぅぅん……」
サクラは
「じゃあ買うのは、ブラシと、トリミング用のセット、『犬種別☆おしゃれカット集』っと……」
「こっちのカット集、シェルティのかわいいカットがのってますよ」
「おっ、ほんとだ! じゃあ、これにしようかな」
「こっちも」
「うーん。予算的に1冊しか……」
悩むけど、買い物、楽しいなー!
顔を寄せあって相談する俺とサクラに、エリザが安定の見下し目線を送ってくる。
「あたくしの
エリザ、今日も悪役令嬢がんばってるなあ……! マウントが、超キマってる。
「美容室はここの2階よ。あなたがたも1度くらい、プロにお願いしてみたら? とっても素敵に仕上げていただけてよ!」
「そうですね、たしかに……」
「いや、わかるけど、絶対高いやつだろ!? いくら?」
「…… 犬種によって異なりますの。あたくしの
「やっぱり、
「そうねえ。やはり庶民には、厳しいかもね。シェルティは、たしか……7,000マルだったもの」
「うううう…… 俺は確実に無理だな。すまん、チロル……」
「まぁ、焦る必要はなくてよ!」
おーほほほほ!
エリザが高笑いする。気持ちよさそうだな。
「愛情こもった自前カットも、また価値があるものですわよ…… ヘ タ で も ね!」
「愛情…… そうだよな。ヘタでも、愛情が一番だよな!」
エリザ…… 上から目線をキープしつつも俺をはげまそうと、してくれてるんだな……
やっぱり、めちゃくちゃ良い子だ!
俺は思わず、エリザの手を両手でぎゅうぎゅうしていた。やわらかくてすべすべ。
「エリザ、俺、頑張るよ! ありがとうな!」
「べっ、別に……っ! あたくしは、なにもっ」
「うん、わかってる、わかってる」
そうだ、俺はわかってるから、いい。けど、サクラは……
サクラは、俺とエリザから目をそらし、下を向いてふるふる震えていた。やっぱりな。
「サクラ、気にするなよな!? 美容室に行けなくても、自分でトリミングするのも楽しそうじゃん!」
「は、はい……」
「エリザは、俺たちをはげまそうとしてくれたんだよ! 愛情のこもったカットはプロよりもいい、ってな」
「そそ、そうですね……」
サクラ、まだ震えてる…… やっぱり、気にしてるのかな。繊細なんだな。
エリザ、悪役令嬢だからか、わざと自分から誤解を生産していくとこあるし…… よし、俺、ふたりがもっと仲良くなれるよう、頑張ってフォローしていこうっと!
「わー。これが、レジか……」
買い物の最後は、当然だけどお会計。
俺たちは買い物カゴを持って、レジに並ぶ。
「休日だからかしら。混んでるわね」
「けど、こうやって待つのも新鮮で楽しいな!」
「リアルでは、ネットでポチするだけですからね」
「だよなー。地下しか知らないけど、このゲームやってると地下って特殊なんだな、って改めて思う」
ぼそぼそ話していると、順番はすぐにきた。
ここを仕切ってるのは、犬と猫のアップリケ付きエプロン姿のゴリラだ。
「…………」
無言でバーコードを読み取る姿がサマになってる…… レジの機械も、カッコいいな。
「あっ、お願いします!」
「…………」
俺がカゴを店員さんに差し出すと、自動的に空中にウィンドウが開かれて、買い物明細を映し出した。