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第21話 ペットショップに行こう(2)

「ンキュンキュッキュ!」


 身ぶりと声で 『チケットちょうだい』 と客に要求しているのは、オーバーオールを着たチンパンジーだった。

 胸のポケットに、回収したチケットがたくさん入っている。


 モフり場…… もとい 『生き物ふれあいコーナー』 では、たくさんのチンパンジーが働いていた。

 生き物の世話をしたり、客をさばいたり、エサの代金を受け取ったり…… と、なかなか忙しそうだ。


「すげー。店員がほとんど、動物……」


 現実リアルで俺たちが暮らしている地下の街にも、動物はいる。特殊施設で飼育されていて、その様子が動画配信されているんだ。


 でも、動物たちはこんなふうに働いていなかったし、こんなに楽しそうでもなかった気がする……


「あなた今、100年前の動物はこんなに賢かったのか、と思ったわね!?」


 ふふん、とあからさまにバカにした表情をエリザがつくれば、その後をサクラがひきとってニッコリと説明してくれる。


「ここの店長は特殊ジョブ 『テイマー』 なので、動物たちも働くことができるんですよ」


「へえ…… 『テイマー』 っていうと 『動物使い』 だよな? ほかのRPGみたいな」


「ふっ…… このゲームをほかのRPGと一緒にするとは、まだまだね! このゲームの 『テイマー』 は、現実世界リアルでいえば、お釈迦様とか、250年程前にいたという伝説のムツ・ゴトウさんのような人のことよ!」


「ここでは、動物に特に好かれるスキルですね。『テイマー』 のスキルを持ってる人のそばにいるだけで、動物のスキルも向上するので、人間と同じように働けるんですよ」


 エリザとサクラが説明してくれる。

 つまり、このゲームでの 『テイマー』 は 『動物を使役』 じゃなくて 『動物と仲間』 ってことか。


「へえ…… むしろ俺も、それがいいな! もふもふと一緒に、仕事してみたい!」


「ふっ…… あなたごときに、できると思わないことね!」


「テイマーは隠しスキルで、発現条件が難しいんですよ」


「? 飼育スキルを上げるだけじゃ、無理ってこと?」


「ええ、たぶん…… わたしも2周めで、飼育スキルはかなり上がってますが全然です。エリザさんもですよね?」


「くっ…… あたくしに、できないことなど、なくってよ! まだ、そのときが来ていないだけ……!」


 エリザ、本気で悔しそうだな。

 扇で口元を隠すのも忘れちゃってるよ。

 うん。 『テイマー』 が難しいことは、よくわかった。


「じゃあ、ここのオーナーさん、かなりすごい人なんだ……」


「はい。この街の 『テイマー』 は、Cocoさんしか居ないんですよ」


「おおおっ、レジェンドだ。カッコいいな……!」


「ですよね!」


「ま、大したものだということは認めてあげるわ!」


 サクラもエリザも、瞳がキラキラしてる…… Cocoさんをめちゃ尊敬してるみたいだ。

 その気持ち、なんかわかるなー。

 ひとつのことを好きで続けて、ついに頂点つかむとか…… うらやま憧れるぅ!

 まだ飼育レベル2の俺じゃ、足元にも及ばない人だろうけど、いつか会ってみたい……!

(Cocoさんは、いつもバックヤードにいるか旅をしているかで、めったに店頭に出ないそうだ)



「ンキュッウキュッンキュッ!」


 チンパンジー店員が順番を知らせてくれた。

 ありがたくチケットを渡して、エリザとサクラはウサギのコーナーへ。

 俺は、まずはカメのコーナーに行く。


 カメは、直径……70cm~80cmくらいか? かなりでかい。ゴツゴツの甲羅がカッコよくて、つぶらな黒い瞳がかわいいな!


【口の前には手を持っていかないでくださいね。かまれますからw】


 チロルが俺の足にすりすりしながら、注意してくれた。


「おー……」


 そろそろと甲羅に手を伸ばす。表面は意外と乾いた感触だ。


【これはケヅメリクガメ。もとは、アフリカのサハラ砂漠付近に生息していたという大型のリクガメです。成長すると大きさは約80cmにまでなり……】


 チロルの解説をききながら、甲羅をなでる。チロルみたいに柔らかくないけど、なでてるうちに、ザラザラした感触が、段々クセになってくる……



「キュキュ♪ ウキュ♪」


 リボンをつけたチンパンジー店員が、コマツナの切れ端が入ったカップを押しつけてきた。


「あ、エサ? くれるの?」


「ウキュキュキュキュキュー!」


「ええっ? 初回特別サービスじゃないの?」


「ウキュッキュキュ!」


「いらなければ別にいいって? うーん……」


 迷う。

 この店の動物さんが特別なんだろうけど、しぐさや表情で気持ちがかなり伝わってきちゃうんだよな……

 チンパンジー店員とケヅメリクガメさんのキラキラ光る黒い瞳。あと、チロルの口からチョロリとはみでた舌も……

 めちゃくちゃ、購入を迫ってきてる……!

 うーーー。どうしようかな……

 魔法の杖のための貯金もしたいし、チロル用のグッズも買わなきゃいけないから、本音では100マルでも惜しいけど……!

 でも。

 動物たちにこんなにおねだりされてて、買わないという選択肢があるだろうか (反語)


「しかたないな…… 1個だけだぞ」


 俺はしぶしぶ、チンパンジー店員に100マルを渡す。


「ウキュキュキュ♡」


 あ、なんかものすごい喜ばれた…… こんな、こんな顔と声されちゃったら……

 やっぱり買ってよかった、と思わざるを得ない……!

 ―― しょーがないなあ…… もう!


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