午後4時、寮のエントランス。
サクラとの待ち合わせは、ここの大時計前だ。
時刻を告げる優しいオルゴールのメロディーとともに、時計の上側の扉みたいになってるフタが開き、中の小人が踊り出した。
「……ほんもの?」 「あれは 『時計小人』 よ。あなたゲーム説明書読んでいないの?」 「あんまり……」
なんて会話をエリザとグダグダと繰り広げているうち、廊下の奥の方からサクラが現れた。ふんわりした髪によく似合う、クリーム色のドレスにきれいなピンクのパンプス。かわいいなー!
急いだのだろうか、少し息が切れている。
「ごめんなさい、遅れてしまって」
「いや……」 俺らが早かっただけだから、と言う前に。
「本当よ! あたくしを待たせるなんて、
エリザが腕を組んで、サクラを見下ろす。めちゃくちゃ上からな雰囲気。
なのにサクラは、ふわり、って感じで笑うんだ…… 何度も言うけど、かわいいなー!
「待ってくださって、ありがとうございます」
「べべべ別にっ、あなたのためじゃなくってよ!」
「はい、エリザ様」
ランチで、エリザと仲良くなったのかな、サクラ。おどおどした感じがなくなって、楽しそうだ。
タイプの違う美少女ふたりが仲良いのって…… 見てて和むよね!
「さぁ、いくかぁ!」
3人でおしゃべりをしつつ、商店街に向かう。
ペットのガイド犬たちも、もちろん一緒。俺の
もこもこのからだを寄せあって、トコトコと駆けていくのが…… もう…… さっきから同じことばかり言ってるが……
か わ い す ぎ る よ ね !!
ペットショップは、商店街のど真ん中にあった。ペンキで 『the lives ♡ Coco』 と描かれた木の看板が目印の大きな店だ。
「イラッシャイマセ」
出迎えてくれたのは、なんと、色鮮やかなインコ。
赤いボディーに黄色、緑、青のグラデーションを描いている翼がキレイだー!
「おおっ、すごい! さわってもいい?」
「申シ訳ゴザイマセン、生キ物トノ接触ハ アチラノ コーナー デ オネガイシマス」
インコの翼が指し示す方向にあるのは、 『生き物ふれあいコーナー』。
「すごいすごいすごい!」
鳥だけじゃない。犬、猫、ウサギ、それにでっかいカメもいるみたいだぞ!
チロルのグッズを買いにきたのではあるが、こっちの方も、もちろん気になる。
色んな動物をいっぱい触ったり、抱っこしたりしてみたい……!
「フレアイ チケット ハ 1マイ 200マル。動物 1種類ニツキ 1マイ 必要デス。エサ ハ 1回分 100マル デス」
ううっ…… お金とるのかー…… 正直、厳しい。買いたいものは色々あるし、ゲームでは昼食代や寮費が必ず要ることを考えると、たとえ100マルといえども、惜しいんだ。
一気にテンション下がっちゃうなあ……
「チロル……」
しょんぼりと愛犬を抱っこする、俺。
「俺はもう、お前だけでいい……」
【それはどうもww】
ハッハッ、と嬉しそうに吐かれる息とか、わさわさと当たるしっぽの感触とか…… そーだよ、別にウサギや猫やカメや鳥に浮気しなくても、俺にはチロルが……
と。美少女ふたりが、ほぼ同時に振り返った。
「ホラッ、ついでにあなたのも買ってあげたから、有り難く受け取りなさいっ!」
気のせいか頬をほんの少し赤らめて俺の胸にチケットを押し付けてくる、エリザ。
そして。
「もし良かったら、どうぞ…… お近づきのしるしです」
はにかみながらチケットをそっと差し出してくれる、サクラ。
「うぉぉぉっ!? いいのっ!?」
なんだこれ!
めちゃくちゃ感動だな!
ふ、ふたりとも…… なんて、いい人なんだ……っ!
チケットを受け取り、拝む。
「あざます! あざます! パイセンがたっ!」
「いいえ、いいんですよ」 と、サクラが清らかな微笑みを浮かべれば。
「ふんっ! だから姫君とお呼びっ!」 と、エリザはアゴをツーン、と上げる。
「はいはいはい! お姫君様お大将様! 一生ついていきますっ!」
嬉しいなぁっ!
よし、早速、生き物たちをモフりに行くぞー!